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第10話 適応試験

第七研究施設・戦術評価区画。


 地下十一層。


 そこは病院ではなかった。


 コンクリート壁。

 防弾隔壁。

 焼痕。


 無数の監視カメラ。


 そして中央には、

巨大な灰色空間が広がっていた。


 模擬灰域戦闘場。


 廃工場。

 崩壊通路。

 高熱蒸気。

 粉塵噴出口。


 実戦環境を再現した、

“訓練場”だった。


「Case-07、バイタル安定」


「人工神経同期率上昇中」


「冷却限界警戒域まで余裕あり」


 観測員達が次々報告する。


 ガラス越し。


 中央ハンガー。


 黒い装甲服が吊られていた。


 Type-17 試験機。


 コードネーム:


《ムラクモ》


 通常シェルより細い。


 軽い。


 だが異様だった。


 人体に近すぎる。


 装甲より、

人工筋肉と神経接続フレームが目立つ。


 脊椎ラインには、

露出した神経同期ケーブル。


 普通の兵士は使えない。


 使えば壊れる。


 完全に、


“神経接続前提”


で設計された機体。


「美しい……」


 白峰が小さく呟いた。


 橘は横で顔をしかめる。


「美しいじゃありません」


「?」


「拷問器具です」


 白峰は少し考えた。


「否定はしない」


 橘は本気で殴りたくなった。


 ハンガー中央。


 朔真が機体前へ立つ。


 視線はぼんやりしていた。


 ここ数週間。


 彼は何度も神経接続試験を受けている。


 睡眠不足。

 頭痛。

 感覚混線。


 時々、

自分の身体がどこまでなのか分からなくなる。


 だが。


 なぜか《ムラクモ》を見ると、

妙に落ち着いた。


 懐かしい感覚すらある。


「装着する」


 整備員が装甲を開く。


 朔真は無言で中へ入った。


 背部ロック。


 脊椎接続。


 頸部端子固定。


《NEURAL LINK》


 起動。


 瞬間。


 朔真の身体が震えた。


「ッ……!」


 痛い。


 何度やっても慣れない。


 脳へ直接金属を流し込まれるみたいな感覚。


 だが。


 数秒後。


 同期。


《SYNC RATE:94.7》


 観測室が静まる。


 異常値。


 普通なら発狂している。


 なのに朔真は立っている。


 いや。


 “立ち上がった”。


 ムラクモが。


 自然に。


 まるで最初から自分の身体みたいに。


「出力上昇」


「人工筋肉応答正常」


「反応速度……速い」


 オペレータが息を呑む。


 朔真が軽く腕を動かす。


 空気が鳴る。


 第二世代とは別物だった。


 重さがない。


 視線と同時に身体が動く。


 脳が直接機械を使っている。


「訓練開始」


 壁面が開く。


 無人標的機。


 対シェル模擬兵装。


 複数。


「開始!」


 標的が発砲。


 朔真は反射的に動いた。


 速い。


 人間じゃない。


 装甲服を着ているとは思えない加速。


 横滑り。


 姿勢制御。


 踏み込み。


 対装甲ナイフが標的関節へ突き刺さる。


 一撃。


 次。


 振り向きざま射撃。


 12.7mm短機関銃。


 模擬機頭部破壊。


「凄い……」


 技師が呟く。


 白峰は笑っていた。


 完全に。


 少年の目で。


「負荷上げます」


 橘が顔をしかめる。


「待ってください。もう十分でしょう」


「まだ足りない」


 白峰はモニタから目を離さない。


「限界値が知りたい」


「主任!」


「上げろ」


 訓練区画温度上昇。


 四十度。

 四十五。

 五十。


 高熱蒸気噴出。


 灰域再現。


 さらに。


 追加標的投入。


 四機。


 朔真の呼吸が乱れる。


《WARNING》

《NEURAL LOAD》


 視界が歪む。


 頭痛。


 だが。


 身体は止まらない。


 ムラクモが動く。


 もう境界が曖昧だった。


 自分が動いているのか、

機械が動いているのか分からない。


 敵弾回避。


 近接。


 踏み込み。


 速い。


 異常なほど。


 その時。


 朔真の右腕が止まった。


「っ……!」


 激痛。


 神経負荷。


 腕感覚が消える。


 次の瞬間。


 模擬弾着弾。


 朔真が吹き飛ぶ。


 壁へ叩きつけられる。


《SYNC COLLAPSE WARNING》


 観測室が騒然となる。


「停止します!」


「駄目だ」


 白峰が即答。


「まだ動ける」


「主任!!」


 だが。


 朔真は立ち上がった。


 呼吸を荒げながら。


 血走った目で。


 まるで壊れかけの機械みたいに。


 一方。


 別区画。


 澪は灰域適応試験を受けていた。


 シェルはない。


 必要ない。


 代わりに。


 腕部補助ユニット。

 脚部反応補助。

 脊椎冷却フレーム。


 最低限の補助装備のみ。


 生体強化前提。


 それが澪の運用思想だった。


「投薬開始」


 薬剤注入。


 澪の身体が震える。


 体温上昇。


 瞳孔拡大。


 筋肉収縮。


「……っ」


 苦しそうに呼吸する。


 だが。


 次の瞬間。


 澪の動きが変わった。


 低い。


 獣みたいに床へ沈む。


 開始信号。


 無人標的起動。


 澪が走る。


 いや。


 滑る。


 速い。


 人間じゃない。


 異常な加速。


 標的が反応する前に、

首部へ刃が走る。


 一撃。


 次。


 壁蹴り。


 空中姿勢制御。


 関節切断。


「……化け物」


 若い研究員が呟いた。


 橘は何も言えない。


 その時。


 澪が突然ふらついた。


「投薬切れです!」


 モニタ警告。


 体温急上昇。


 四十一度。


 血圧乱高下。


 筋繊維痙攣。


 澪が床へ膝をつく。


「熱……ッ」


 呼吸が荒い。


 苦しそうだ。


 なのに。


 白峰は食い入るように見ていた。


「興味深い」


「主任!」


「投薬遅延時でも運動継続可能だ」


 橘は寒気がした。


 この男は、

苦痛すらデータとして見ている。


 数時間後。


 試験終了。


 朔真は医療ベッドへ固定。


 神経冷却処置中。


 澪は点滴投薬を受けながら眠っている。


 橘は二人を見て、

静かに呟いた。


「……壊れる」


 このままじゃ。


 絶対に。


 だが。


 白峰だけは、

静かに微笑んでいた。


「いや」


「進化している」

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