14.王女とひみつ
side 王女 ルナリア
わたくしが、自分が"そう"だと気付いたのは、10年前の事件の時でした。
歴史的な王太子暗殺未遂事件。使われた禁術。隣国の関与。『ルナリア』という名前。
隣国の王子ふたりの名前を聞いた時、更にそれは核心に変わりました。
わたくしが、前世でやっていた乙女ゲームの世界にいると。
乙女ゲーム「不遇の男爵令嬢、花咲かすはいずこ」
通称『花いず』
舞台はなんちゃって中世ヨーロッパ。魔法がある異世界。
友人に勧められて何となくでやってみると、見事にどハマりしました。
ヒロインのパラメータ育成の難易度が高く、選択肢は多く、それに応じたエンディングも普通にヒーローと結ばれる物から神聖魔法の使い手としてひとりで女王になるものまで多岐に渡り、スチルも多い。要は、やり込み要素がとても多かったのです。
前世のわたくしは、暇さえあれば数百以上あるエンディングをクリアし、スチルを解放する事に熱中していました。
その中で、終盤まで中々辿り着けなかったヒーローとのエンディングがありました。それが、アドルフ王子殿下とのエンディングです。
どれだけパラメータを上げて世間の評価を上げても、アドルフ王子殿下と会話を重ねても、表面上は応対してくれても決して心を許してくれないのです。他のエンディングに到達しても、彼が気付けば王都から姿を消す描写ばかり出て来て、非常に興味を惹かれました。
攻略サイトなどを見る事に否定的な人間だったので、辿り着くまでには少し時間がかかりました。
『花いず』は、平民として育てられていたヒロインの少女が貴族の実の父に引き取られるところから始まります。そこから舞台となる王国の王立学園に入学する半年間がパラメータの集中育成期間であり、社交によって世間からの評価を高めたり、義母との友好を高めたりする期間になります。
第一王子の攻略は、その期間のパラメータ・世間評価・義母との友好値が一定以下の場合のみ、可能になるのです。
第一王子ルートは、一度入るとほぼ他のルートには行けません。ただ、そこでのみ、ヒロインであるピコリスの苦悩、王家の闇、過去の事件について明かされます。
前世のわたくしは、苦労して見つけたこのルートが大好きでした。見ていてとても辛いけれど、人間味があり、キャラクター達の苦悩が一番垣間見える、このお話が。
そしてこのルートで暗躍を見せる、ルナリアという人物の存在も大きかったです。
飄々としつつも、ちゃんと傷付いて。でも、自分のすべき事をやり遂げる強い少女。
わたくしも、彼女のようにできたかしら?
わたくしは、ルナリアのした事をほぼなぞったに過ぎません。
事件が起きた時、世間への公表を控える代わりにアドルフ王子殿下と婚約を結ぶ。チエルノフ王国へ留学し、王立学園へ入学する。
この時点で、ピコリス嬢がどのルートに向かうか分かりませんでした。
もしも第一王子ルート以外であれば、わたくしはいなくなるアドルフ王子殿下を見送ろうと思っていました。そして祖国を説得し、トーマス王子殿下と婚姻するか、ピコリス嬢がトーマス王子殿下と結婚するなら静かに帰国しようと思っていました。
でも、そうはなりませんでした。
ピコリス嬢は、入学までの半年で貴族の上位に食い込むような教養や社交を身に着けたり、義母の信頼を勝ち取ったりする事はなかった。
考えてみれば、それが普通なのです。
それまで平民として生きて来た15歳の少女が、貴族の知識を半年で物にして、自分の父親の本当の妻と仲良くなるなどできません。あれは、ゲームの中のキャラクターだからできた事でした。
だから、わたくしは動いたのです。
すれ違ったふたりを呼び寄せて、取引を持ち掛けました。平民となりふたりで歩む道を提示し、ふたりの過去も含めてよく話し合う事を勧めて時間を提供しました。
ゲーム中では、アドルフ王子殿下が騙していた事を謝り、そしてピコリス嬢を特別な存在だと打ち明けます。ピコリス嬢は騙されて傷付いた事、それでも自分を救ってくれたのはアドルフ王子殿下だった事を話します。
ふたりは仲直りをした上でこれからの事を話し、将来を共にしたいと結論を出します。
…でも、これはあくまでゲームの中の話です。ふたりが実際にどんな会話をしたのかは、ふたりにしか分かりません。
結論として、ふたりはわたくしの提案に乗りました。わたくしがふたりの安全を保証すると誓約した事も大きかったかもしれません。
ふたりには、校内でふたりきりになる時間を増やしてもらいました。あまり目立たないところでひっそりと寄り添ってくれるだけで、噂の渦中にいるふたりの話は面白いくらい広がりました。
わたくしはその間に、トーマス王子殿下に接触しました。調査協力を得る為と、将来の足場作りの為です。
同時に、ピコリス嬢を虐めていた令嬢達をおd…こほん!お話し合いをしました。彼女達を通して、ピコリス嬢がわたくしに虐められていると発言しているような印象操作を行いました。
森で撮影会をした時などは、トーマス王子殿下を向かわせた先に、わたくしが構図を指定したアドルフ王子殿下とピコリス嬢を配置。見事にふたりが逢引きしている場面を収め、とても微妙な顔をしながら戻ってきた彼に、申し訳ないですが愉快な気持ちになってしまったのは秘密です。
こうして、トーマス王子殿下には、わたくしが作った物語を追う目撃者になってもらったのです。




