13.第二王子から見た結末
「トーマス王子殿下。貴方は、お兄様が王族という立場のまま、幸せになる事ができると思っていますか?」
突然、王女がそう尋ねて来た。
…正直、難しいだろうと思う。
今までの兄の不遇な人生を思い浮かべた。そこから来た貴族に対する嫌悪と諦念が、彼の心を支配しているのを私は知っている。
「わたくしは、お兄様とピコリス嬢が幸せになるならこの場所ではないと知っています。
だから、敢えて噂を増長させました。また、ピコリス嬢がわたくしにいじめられていると吹聴しているように貴族達に証言させました。」
理解するのに、数秒を要した。つまりーー
「君は、兄とその少女をわざと貴族でいられなくしたと?陥れたのは君だと、そう言うのか?じゃあ、兄とピコリス嬢は潔白であり、君の甘言に乗ってそんな愚かな振る舞いをしていたと?」
味方だと思っていた王女が、ちゃんと大事な家族を傷付けているかもしれない事実に衝撃を受ける。
と、同時に、茂みの中で見た抱き合うふたりを思い出す。あれは、演技ではなかったように思う。
「何故、とは言えませんが、わたくしはアドルフ王子殿下が貴族社会に耐えられない事を知っています。実際、過去の育児放棄によって彼は今現在も人を信じる事はできず、温かな過去の思い出だけを頼りに立っているだけです。彼を厨房に戻すなんて事はできないでしょう?」
その何故、の部分が知りたいとか、何で王女が兄が厨房にいた事を知っているのかとかいう疑問と同時に、確かにあの場所に兄を戻す事は無理だし、もしも戻ったとして、もう身分を知られた状態ではもう兄が望む居場所としては機能してくれないだろうと思う。王女の、全て知っているかのような振る舞いに、私は話す先を変えた。
「兄さんは…ルナリア王女の、こんな荒唐無稽な話を何で飲んだの?」
「…最初は俺も、何言ってるんだと思った。でも、本当にルナリア王女は何でも分かってるみたいでさ。不思議だよな。俺も、ここには俺の居場所はないって、いつかちゃんとお前に全て託してここから去りたいと思ってた。あと。」
ちら、と横にいる少女を見る。
「ピコリスとなら、それが今でも怖くないなって、思えたんだ。」
兄の目が、あの時の森で見た、愛おしいものを見るような目で。ああ、彼女は兄にとって大切な人なんだなと知るには、それで充分だった。
「ピコリス嬢も、それでいいの?」
少女は、コクン、と頷く。
「アドルフさんが…アドルフ王子殿下が私を選んでくれるなら。それ以上に、幸せな事はないです。」
一見気弱そうに見えた少女は、意思の強い瞳でそう答えた。
「はぁ…。ふたりとも愚かすぎるよ。もしも、この王女が悪い人で、兄さんを失脚させる事だけが目的だったらどうするの?…え、そういうオチじゃないよね?ルナリア王女。」
ここまで手の内を明かして、それは無いだろうと思ったけど、急に心配になって王女を見る。
「ふふふ…どうでしょう?」
彼女は悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「いや、それは絶対私をからかおうとしてるやつだろ。」
「あら、つまらないわ。もう少し遊ばせて下さればいいのに…」
むぅ…。と王女は膨れっ面を作った。よくそんなにコロコロ表情が変わるものだと一周回って感心してしまう。
「あの…。心配はいらないかと思います。ルナリア王女殿下はこのお話の際、私とアドルフ王子殿下の安全を保証するという内容で誓約を交わして下さいました。」
「それは…。」
そこまでして、王女はこの国が欲しかったのだろうか?兄とピコリス嬢の安全と幸せを保証しつつ、自分の望みも叶える。彼女の手腕に素直に驚いた。
「まあ、万が一、俺らの身に危険が及ぶような事態になっても、俺とピコがただ逃げるくらいならどうにでもなる。」
「脳筋は黙ってて。」
まあ、この兄ならやり遂げそうな気もする。剣と弓の腕は現役の騎士団員にも負け知らずだそうだし。
「…まあ、ふたりが安全なのは分かった。それで、ルナリア王女。これから、実際どういう風に進めていく訳?君の中ではもうそれも決めてるんでしょ?」
そう聞くと、王女は得意げに頷く。
「この後もわたくしに任せて頂ければ、万事収まるべきところに収まります。貴方は国王に、わたくしは王妃に、ふたりは平民ではありますが、望む場所に。
二組の愛し合うカップルは一生幸せになりました、めでたしめでたしです。」
…ぶわっと顔に熱が集まる。
「あ、あ、あ、アイシアウとか、そんなではなく、ただ政略的に一番良くて一番自然なところに落ち着くだけだ!きききき君はいつも突拍子もない事を言い過ぎだぞ!!」
「あら…?冗談のつもりだったのですが…ふふ、こういうのも今後良いですね。」
また悪戯な顔で笑う王女に、ふたりで顔を見合わせて生暖かい表情を向ける兄と少女に、更に顔が熱くなるのを感じる。
これから、きっと忙しくなる。でも、こんな風にからかわれながらでも楽しくやっていけるなら、それも悪くない気がした。
…手加減はして欲しいけどね!




