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11.第二王子から見た王女の暗躍

side 第二王子 トーマス


王女は、マラーナ国王からの協力についてひと通り通話した後、惜しむ父親の声をぶった斬って通信を終わらせた。

「…それでいいのか?」

「いいのよ、長いですし。それでもわたくしの事、好きでいてくれるもの。」



王城に着くと、彼女が私に向かって言う。

「トーマス王子殿下。わたくしに隠しているものがありますよね?持って来て下さい。」

「…?何もないが?」

「忘れてしまっているのですか?前に学園の裏山で撮影をした時、お貸しした魔道具をまだ返して頂いていません。」


そういえば、あの時の魔道具は借りた物であった事を思い出す。あそこに納めてある熱い抱擁の写真が脳裏を過ぎり、兄の事を考えて少し躊躇した。

だが、事態が事態である。この国が犯した罪の精算に、彼女をいつまでも付き合わせる訳にはいかない。


私が魔道具を持って来ると、中身を確認した王女はそのまま謁見の間へと足を進めた。



絢爛豪華な室内には臣下達が立ち並び、国王は中央の玉座に座している。

国王の前まで進み礼をとるのを待って、国王が口を開く。

「其方らか。であれば、謁見は奥の間で行う。他の者は宰相を除きここで待つように。」


奥の間は小ぶりな応接間のようになっている。

国王、宰相、私、王女が入り、ソファに腰を下ろす。


「話とは、あの第一王子の件か?」


…その第一王子は、お前の息子だろ。

他人のような物言いに苛立つ。


「はい。国王陛下がおっしゃる第一王子が貴方の息子のアドルフ王子殿下の事なのでしたら、その件です。」


真っ向から嫌味を言う王女に、吹き出しそうになる。

王は少し眉を顰めた。


「わたくしとアドルフ王子殿下の婚約は、10年前の事件の賠償として行われました。内容はマラーナ王国優位のものであり、それにはいくつかの誓約が交わされています。国王陛下は内容を覚えておいでですか?」


「…宰相。」


「はい。内容について読み上げさせていただきます。

第一項。婚約に際してチエルノフ王国にいらっしゃるルナリアント王女殿下が、チエルノフ王国の策略により精神的・肉体的に傷付けられた場合、チエルノフ王家断絶と即刻の属国化。

第二項。アドルフ王子殿下有責による婚約の解消が発生した場合、アドルフ王子殿下の廃嫡及び現国王陛下の生前退位と次期国王とルナリアント王女の婚姻。

第三項。婚約期間中、ルナリアント王女殿下の名誉を著しく損なう虚偽の流布が確認された場合、その責任者の身分剥奪及びマラーナ王国への身柄引き渡しを行う。

第四項。婚約期間中に発生した両国間の外交問題について、チエルノフ王国は全面的な調査協力義務を負う。

第五項。婚約解消時、マラーナ王国は次期王位継承者の選定に介入権を持つ。

第六項。第一項による王女への不利益又は第二項による婚約解消が発生した場合、チエルノフ王国はマラーナ王国に対し、王家資産及び国家予算から相応の賠償を行う。…以上です。」

「さて、そちらでは現状をどこまで把握しておいででしょう?」


冷静に誓約の条項を読み上げたように聞こえる宰相だったが、額にはびっしりと汗を浮かべている。

この国が、国として存続できる瀬戸際である事を、彼はよく理解しているらしい。

私自身、先程の馬車でも詳しい誓約の内容についてまで聞いておらず、その中身の重さについて寒気を覚える。

宰相が口を開く。


「アドルフ王子殿下が…ルナリアント王女殿下以外の女性と懇意にしているという噂までは聞こえて来ております。」

「そうですか。これからこちらで独自に調査した結果をお見せします。」


王女の悪評の流出源についての調査報告書、王女が直接的に男爵令嬢に実害を加えたと言われる複数事件(私物の破壊、階段からの突き落とし、閉所への閉じ込め、他者を使った暴行)が実行不可能である事の調査報告書、そして決め手は私が撮影した魔道具による仲睦まじい兄と男爵令嬢の画像。


「アドルフ王子殿下は、婚約者であるわたくし以外のご令嬢と親密な関係に至っています。また、こちらの資料を見て頂ければお分かりの通り、ピコリス=ローナリア男爵令嬢が悪評を広め、嘘の事件を作り出してわたくしを陥れようとしている事が判明しました。」

「これは…私共も調査を進めなければ何とも…」

「こちらは、第三項の調査協力義務の元、トーマス王子殿下にご協力頂いて集めた証拠になります。マラーナ王国側だけではなく、トーマス王子殿下、更にはその側近の方々も含めて調査に参加頂きましたので、公平さに欠ける事はありません。」

「それは…!真実でしょうか…?トーマス王子殿下。」


宰相の目が、嘘だと言ってくれと訴えている。あるいは、マラーナ王国に…ルナリアント王女に脅されているとでも証言して欲しいと。

私だって、兄の潔白を訴えたい気持ちは勿論ある。幼い頃から不遇な生涯を送って来た。やっと他人と幸せを分かち合える日々を、人並みの幸せを感じている筈だ。

しかし、ひとりの潔白な少女の不幸の上に成り立つ幸せを、王子としてではなく、ひとりの人間として許す訳にはいかないと感じてしまう。

それを許容したら、自分が嫌悪する目の前の人物と同類になってしまう気がする。

そして、私は彼女の味方につく事を決して強要されていない。その事実も相まって、あの時の彼女の言葉が頭をよぎった。


"第二王子殿下、わたくしとこの国を乗っ取りませんか?"


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