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好きだから。  作者: ゆくすな


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第二章

『ブルル、ブルル』


 スマホからバイブレーションと共にアラームが部屋に鳴り響いた。

 

 「ん〜!もう、朝かぁ」


 スマホを手に取り軽くスワイプしながら確認すると一つだけ文字が強調されている場所があった。そこには今日は蒼くんと一緒に朝登校する!と書かれていた。


 「あ!完全に忘れてた!」


慌ててベッドから起き上がると、ハルちゃんが飛び込んできた。


 「ふふ、今日はもう起きてるよ」

 「ワン!」


 いつもより少しだけ丁寧に準備をして、最後に香水を手に取る。


 「……これで、変じゃないよね」


 不慣れな手つきで軽くつけた、その時だった。


 『ピンポーン』


 「王子様が迎えに来たわよー」


 「もう、お母さん!」


 慌てて家を飛び出した。

 扉の先にはバックを片手に持った蒼君がいつもとは違い少しそわそわしている様子だった。


 「おはよ。今日は一段と……いい匂いがするな」

 「お、おはよ!ほら、行こっ」


 誤魔化すように背中を押す。


 「今日はやけに強引だな」

 「違うってば!」


 そんなやり取りをしているうちに、気づけば校門に着いていた。

 「それじゃ、また教室で!」

 「・・・うん。教室で」

 

 彼はそう言うと友達のグループに駆け出して行った。

 名残惜しさを感じながらもしょうがないと自分に言いかせて校門をくぐって下駄箱まで歩いていると後ろからいつもの衝撃が襲ってきた。


 「紬、私見ちゃった。あの男ってもしかして例の?」

 「結依ちゃん。・・・うん。って男ってひどくない?」

 「う〜ん。いやね。なんか紬に変な虫がついたような、あーなんかむしゃくしゃする」

 「落ち着いて、ほらヒーヒーフーだよ」

 「それは出産のやつでしょ!私たちには早すぎるよ」

 「え?何言ってるの?」


 ———————————————


 2年生が始まって気づけば夏休みも終わり2学期が始まった。

 あれから蒼君と毎日登校をしているけれど結局何か変わることはなかった。

 一緒にいられるだけでも嬉しいけど・・


 「はぁ〜」

 「紬!?どうしたの?体調悪い?」


 思わずため息が漏れるとと結依ちゃんは大袈裟な反応を見せた。

 冗談まじりに笑うと


 「違うよ、ただね。いつもと何も変わらないなぁ、なんて私変だよね」

 「わかる!その気持ちわかるよ。あたしも毎日が刺激的だったらって毎日思ってるもん」

 「うーん。それとはちょっと違うかな」

 

 扉が開きそこから蒼君が教室に入ってくるのが見えて思わず横目で追ってしまう。

 けれど結依ちゃんはその行動が気に食わなかったのか私と蒼君の間に立つとムスッとした顔で私の頬を両手で掴んだ。


 「むぅ。急に何するの?」

 「今は私と話してるでしょ!何、あいつのこと目で追ってるのさ。ため息ももしかして!」

 

 私は目を逸らそうとするが顔をガッチリと結依ちゃんに固定されてるせいで背けることができなくて自然と顔が赤くなっていく。


 「んー。そんなこと・・・ないよ?」

 「バレバレだよ。あたしに隠し事できると思うなよー。ウリウリ」


 結依ちゃんは何か思いついたのか不気味な笑みを浮かべると「まかせて」とだけ言い残して教室を出て行った。


 放課後、芽衣先生に呼び出されてなんだろうと疑問に思いながら教室の扉を開けるとそこには楽しそうに作業をしている結依と気だるそうにしている蒼君の姿があった。


 「どう・・・したの?」


 扉を開けると思わず不安からかそんなか細い声が口から漏れてしまったことに気づいてハッとした。

 目の前の結依ちゃんはそんな声を聞いてびっくりしたのか先ほどの楽しそうな雰囲気から急いで私の元に駆け寄ってきた。


 「大丈夫!?」

 「うん、ごめんね。ちょっと勘違いしちゃっただけ・・・」


 結依ちゃんにだけ聞こえる声量でそう答えた。

 

 「安心して、あたしが取るわけないじゃん。あたしはいつでも紬の幸せを願ってるよ」


 結依ちゃんは大袈裟に可愛らしい腕時計を確認すると大声で「ごめん、予定あったの忘れてた」と言うとそのまま教室を飛び出して行った。

 

 「待って・・・私何すればいいのかな!?」


 私の声は結依ちゃんには届かなったようでそのまま虚空に消え去った。

 

 「あいつ、仕事投げ出して行ったから代わりに手伝ってくれないか?」

 「え、あ、うん。いいよ。任せて」


 机を見渡すとそこには文化祭と書かれた制作途中の看板が置かれていた。

 文化祭の看板を作ることになったらしい。


 「てか結衣のやつ。なぜか俺を敵対視してくるし何事にも絡んでくるから。苦手なんだよな」

 「え、そんな子じゃないと思うだけどなぁ」

 「いやいや、俺から見たら明らかに紬といる時だけ猫の皮かぶってるようにしか見えねぇぞ。しかも、さっきも意味わかんないこと言ってたし」

 「なんて言ってたの?」

 

 私が少し身を乗り出して聴くと彼はそっぽ向きながら答えた。


 「す・・・好きなやつがいるのか、とか理想な女性とかタイプとか色々だな」


 気になったけどどうしても聞けずに胸にしまい込もうと決めた時、彼は予想外の言葉を呟いた。


 「それで、なんだが。紬にはなんか気になるやつとかタイプとかはあるか?」

 「ん!?」


 蒼君から急に発せられた質問をぶつけられて私は動揺して顔を真っ赤に染めてしまう。

 だって好きな男の子が目の前にいるんだよ。

 どう答えるのが正解なのか動かない頭をフル回転させるがどれが正しい答えなのか悩んでいる私が面白かったのか蒼君がぷっと吹き出した。

 

 「はは。お前、表情変わりすぎだって。ごめん、意地悪な質問だったな。結依に変な質問されて俺も困ったのにそれを紬にするのどうかしてたわ俺」


 蒼君に笑われたことから私の中の糸がプツンと切れてどうしてか少し意地悪をしたくなって言ってはいけないことを口にしてしまった。


 「うーん。そうだね。蒼君みたいな人かな」

 「は、紬、何言ってるんだよ!?」


 蒼君の顔が見たこともないくらい赤くなる姿を見るとどこか私と似たものを感じて嬉しく感じてしまった。

 思わず、笑ってしまう。


 「ふふ、ごめん。冗談だよ。ほら看板作りの期限今日までなんでしょ?早く作らないと。実は私、絵かくの結構得意なんだよ」

 「知ってる。じゃ、じゃあ絵の方は任せるからな。力仕事は俺に任せろ」


 私が絵を描いて、蒼君がそれを支える。


 「よし、こっちは完成したぞ。紬、そっちの調子はどうだ?」

 「うん。こっちもあともう少しで終わるよ」


 そう告げてラストスパートと気合いを入れて筆を握ったはずだがどうしてか私のてのひらから筆が落ちてそののまま看板の上にぴちゃっと絵の具が飛び散った。

 あれ?指に力が入らないや。


 「大丈夫か、服に絵の具が付いたりしてないか!?」

 「見たところ大丈夫。でも、看板が・・・」


 薬飲んだから大丈夫なはずなのに・・・

 看板を見ると不自然な位置に絵の具が飛び散っており、これまでの頑張りと後がないと言うことからサーと背中に冷や汗が流れた。


 「ど、どうしよう。また描き直さないと」


 いまだに力が入らない腕を強引にもう片方の手で支えながら筆を持とうとすると隣にいた蒼君が筆を先に取るとニッと笑った。


 「あとは任せて。俺だって絵くらい描けるんだからな」

 「え、でも美術の成績2じゃなかった?」

 

 1学期の終わりに蒼君が美術の成績が2だったことを思い出して不安に問いかけると少し恥ずかしそうな顔をすると私の肩を軽く叩いた。それはとっても頼もしいもので動揺していた私も落ち着いてきて彼に任せることになった。

 

 「でも、絵の構成とかわからないから指示だけくれると嬉しいな」

 「うん。任せて。頑張って指示出すね。まずはそこに飛んだ絵の具少し顔みたいだから———」


 しばらく二人で看板を描いてると無事完成した。

 途中で絵柄が多少変わっているけどこれも味があっていい気がする。

 簡単に言うならあれかな。現代美術ってやつなのかな。


 「よし、完成したな。俺にしてはいいんじゃないか?」

 「うん。現代美術って感じでいいと思う」

 「おい、それ馬鹿にしてないか!?ま、それは置いといてほら」

 「なに?」


 蒼君は両手を広げて来いと言わんばかりに急かしてきていた。

 え、これってもしかして抱きついて来いってこと!?

 好きな人に抱きつくチャンスなんてもう・・・来ないかもしれない。でも恥ずかしいという気持ちと誰かに見られたらという羞恥心から戸惑ってそわそわしてしまう。


 「どうしたんだ?早く来いよ」

 「どうなっても知らないから。えいっ」


 周りに人がいないことを確認するとそのまま蒼君に向かって飛び込んだ。

 蒼君から「え?」みたいな素っ頓狂な声が聞こえてきた気がしたが今は自分の心臓の鼓動がうるさくて何も聞こえなくなっていた。

 蒼君の体は思ったよりもガッチリしていた。利き手の感触はいまだに戻ってきていないがもう片方のてからは蒼君のドクドクと心臓の鼓動を感じ取ることができた。

 優越感に浸っていると蒼君に肩を掴まれてゆっくりと離れて言った。

 名残惜しさと恥ずかしから目を合わせることが出来ずにいると蒼君から衝撃の言葉が告げられた。


 「お、俺はハイタッチのつもりだったんだ。決してやましい気持ちじゃないんだからな!?」

 「え?あれって抱きついてこいって・・・意味じゃ」

 

 え、待って私はやとちりしちゃったってこと・・・

 恥ずかしいよ。

 もしかして嫌な気持ちにしちゃったのかな。

 浮かれ過ぎてた。

 顔から血の気が一気に引く感覚がして一瞬にして真っ赤な顔から真っ青に変わっていく。

 恐る恐る蒼君の顔を見ると照れくさそうにしながら呟いた。


 「俺は嫌じゃなかったぞ?いい匂いだった・・・それに柔らかった?それじゃ」

 「え、ちょっと待って」


 蒼君は呂律が回っていないのか意味がわからないこと呟くとそのまま教室を飛び出して行った。

 嫌じゃなかった。その言葉と彼の温もりが体と心の中をぐるぐると回って噛み締めていると蒼君と入れ替わるように芽衣先生が入ってきた。


 「どうしたの朝霧さん。有馬君が飛び出すように教室を出て行ったのを見かけて何かあったのかと思っちゃったわ」

 「なんでもありません。あと看板完成しました」

 「それならいいけど。どれどれ」


 芽衣先生が看板を覗き込むと「いいじゃない」と言いながらもある場所を指をさした。

 「で、他はいいんだけど。これだけ教えてくれないかしら?」


 先生が指をさした先には犬か猫もしくはたぬきかわからない生き物が異様な雰囲気を漂わせながらそこに鎮座していた。これはまさに蒼君がこの世に生み出した生き物だった。


 「蒼君曰く、ポメラニアンだそうです」

 「えぇ、そうね。私からはノーコメントということにしておくわ」


 無事看板の提出が終わり、靴箱に向かっているとそこには少し、イラついた様子で立っている結依ちゃんの姿があった。

 帰ってなかったんだ。


 「なんなのあいつ!信じらんない。キー。」

 「どうしたの?」

 「ギャー。え、いたの?」


 結依ちゃんは大袈裟と思えるほどに驚くとごほんと息を吐いて私の肩に手を置いた。


 「一つ聞くよ。いい?」

 「う、うん。いいよ?」

 「教室であいつと何があったの?」


 その一言で抱きついた出来事と体温が一気にフラッシュバックして顔から湯気が出る勢いで顔が赤く染まった。

 この反応を見て結依ちゃんは顔色を変えて腕の裾を捲り上げた。

 

 「ついに一線超えやがったか。あの獣め。紬のために二人っきりにした瞬間にこれだよ。殺す」

 

 一線を越えたという事がよくわからないがこれは止めないとやばいことになると直感すると弁明の言葉を紡いた。


 「一線?という言葉はよくわからないけどぎゅっとだけしただけだから」

 「んー?ぎゅっとは?」

 「だ・・・抱きつく、ことです」

 「ギルティ!あいつは生かして置けない。今すぐ締め上げて警察に突き出してやる」

 「やめて、私の勘違いだっただけだったから!」


 私は一から結依ちゃんに何があったか話した。

 恥ずかしかったけど、この勢いだと良くないことが起きる気がしたから。

 

 「うん。話はわかった。そもそも勘違いさせるあいつが悪いから。紬は何も悪くないから気にしなくていいからね。空気悪くした瞬間、あいつを公開処刑にするから安心してね」

 「ほどほどにね」


 帰ろうと靴箱に手を伸ばした時だった。

 いつもは簡単に取れるはずの靴を掴もうとしたけれど手は空を切って足にも力が入らなくて。

 ・・・まずいかも。

 結衣ちゃんの声が遠くなって何を言っているのか聞き取れなくて。

 そのまま意識が暗闇に落ちて行った。


 

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