蠢く悪意(2)
区切りの関係で短くなります。
時を遡ること1週間ほど前ーーー
ユージンとユートは護衛の者達を連れぬまま、聖霊の巫女の元へと馬を走らせている。
朝から走り始めて、食事をとる以外は走らせてきた2人だったが、近くの町へ行くか進むかの岐路へと至ったユージンはユートに向けて合図を送った。
「ユージン、何か?」
「次の町で休むぞ。こいつも限界のようだ。」
そういってユージンは自らの愛馬を労るように撫でた。
まだ巫女のもとまで半分といったところである。軽装で駆けて来たとはいえ、前回は馬車で4日かけて行った場所に出来るだけ早く着こうとしているのだから相当な無理をしている。
最寄りの町に入ると常宿へと向かって2人は歩を進めた。この町は霊宮参りで栄えている大きい宿場町であり、王族が常宿としている宿があることも休むに適していたのだった。
旅の汚れを落とし、食事を部屋へと運んでもらって、ようやっと2人はリラックスすることが出来た。
「久しぶりに遠駆けをしたよ・・・腰が痛いな。」
「すっかり文官だな。少しは鍛えないと俺の側についていられないぞ。」
「だれのせいで書類仕事ばかりになって居るとっ。私はまだ学生なんだ。」
「ユートは趣味で学生をしているだけだろう。」
「・・・悪いか。」
「拗ねるな。その、だ、俺も兄上もお前の大事な人には興味がないわけだし、頑張れ。」
そう言って、ユージンはユートの肩を叩く。ユートは叩かれた振動でやや姿勢を崩して、少しうなだれている。
「お前はいいよな。念願のアナスタシア様と思いを通わせてさ。」
「・・・ふふ」
「殴っていいか?」
ユージンの何かを思い出したようなにやけた笑いにユートは心の底から腹ただしく感じてこぶしを振り上げる。
「おっ、主に手をあげるのか?」
「ふんっ。2人でいる時は友人でいろと言ったのはお前だろう。」
コンコン
突然、扉を叩く音が聞こえた。
ユートは素早く側付きの顔に戻り、扉へと向かい相手を確める為に声を掛けた。
「何用でしょう?」
そう言って少し扉を開けた先に居たのは宿の主人だった。
「失礼致します。領主が明日お伺いしたいと面会を申し込んで参りましたが、いかがいたしましょうか?」
ユージンの方へ振り返ると、ユージンは軽く頭を横へと振った。
「残念ですが、今回は急ぎの旅ゆえ朝一で出掛ける予定です。領主には次の機会にとお伝え下さい。」
「かしこまりました。」
宿の主人が去った事を確かめてからユートは席へともどる。
「確かここの領主はホソカワ公爵の親族だったか?」
「そうです。そう考えますと、この町を選んだのはうかつだったでしょうか?」
「いや・・・この際だ、膿みを出すのもいいだろう。はぁ、せっかくの良い気分が台無しだ。」
ユージンの言葉にユートは再び座った目で見つめた。
「良いですね。頭がお花畑で!アナスタシア様の前で今の鼻の下を伸ばしただらしない姿を晒してしまえばいいんだ。」
「男の嫉妬は醜いぞ。お前も相手の前でクールに振る舞い過ぎるからだろう?」
「仕方ないだろう、緊張するんだ・・・。それに、レン様の事が好きな気がするんだよ。」
「難儀なやつだな。」
ユージンは意外と小心者なユートを哀れみの目で見ている。この幼馴染は側付きとしては優秀で強気なわりに、プライベートは押しが弱いどころではないヘタレであった。
2人はゆっくりと体を休めて、翌日は日が昇る頃に合わせて宿を出て一路聖宮へと馬を走らせた。
しかし、その姿を遠くから見つめる人影がいた事に2人は気づかないままだった。彼らが町を出た事を確かめてその人影は走りさった。
誤字の指摘ありがとうございました!




