蠢く悪意(3)
遅くなりました。
朝食の席についたアナスタシアは目の前に座るセルゲイの目元にうっすらと隈が出来ていることに気付いた。
「殿下、また遅くまで起きてらしたのですね。」
「あぁ、お姉様。おはようございます・・・。」
セルゲイは朝食にも手をつけず、ぼんやりと言葉をかえす。
しかもアナスタシアが目の前に座ったことに気づかないほど、何かを考えているようだった。
「国で何かありましたの?そういえば、アレクシーの手紙もいつもと違いましたわ。」
アナスタシアの弟であるアレクシーの名前を出すと、セルゲイの目に光が戻ってきた。
その様子を見て、やはり何かあったのだとアナスタシアは思った。
なぜなら、いつもは毎日の事を書いているのかと思うほど話題豊富なアレクシーの手紙が、ここひと月ほど主に学園について避けているように感じるほど書いていなかったのだった。
「学園が大変そうですわね。」
「アレクからそう言ってきましたか?」
「えぇ。(書いてはいなかったけど、不自然ですもの。)」
「それは詳しく知りたいですね。お姉様。」
カマをかけようとしたが、セルゲイの妙にいい笑顔で失敗した事に気づく。セルゲイと仲のいいアレクシーが手紙を送っていないはずが無かったのである。
「もう・・・。どうせ私には内緒にするように言ってきてるのでしょう?」
笑顔で応えるセルゲイに何を言っても教えてくれないだろうと早々にアナスタシアは諦めた。
「アレクシーも殿下も、昔はなんでも話してくれたのに哀しいですわ・・・」
アナスタシアの悲しそうな顔に、まいったなと困ったような顔をするセルゲイ。
「僕たちはお姉様が大事ですから。余計なことで心を痛めて欲しくないんですよ。それに・・・今回のはバカ兄の事なんで気にして欲しくないんです。」
「イヴァン殿下がですか?それは珍しいですわね。あっ、そういえば最近は変でしたわね。」
アナスタシアは特に可も不可も無い第一王子のことを思い出していた。自分がした覚えのない婚約破棄をされた事でびっくりしたが、本来ならそのような事をする気力も考えも持ち合わせていないタイプだったのである。
「お姉様は、ジハネにきて良い方へ変わられましたね。」
「そうかしら?」
「よく笑うようになったと思いますよ。それに前なら人前で泣くことも無かったですよ・・・気づいてました?」
セルゲイの言葉にそうだったかしらとアナスタシアは考えこむ。
しかし、いままでも自分では感情を出していると思っていたのでセルゲイに怪訝な顔をむけた。
「私って、そう思われていましたの?」
「えぇ、昔から知っている僕たち以外からは表情は読みにくかったと思いますよ。」
「そうでしたの・・・」
セルゲイの言葉に、アナスタシアは両手を頬へ当てもみほぐすようにしている。
「そうだ、アレクに会ったら自慢してやろう!役得、やくとく。」
そう言って声を弾ませるセルゲイはいつもと違って年相応だった。
そんなセルゲイにアナスタシアは微笑ましそうにニコニコしている。
しかし、セルゲイの言葉にひっかかりを覚えた。
「??・・・殿下、アレクシーと会う予定が?」
「あぁ、そうだった。やはり一度は国に戻って対処しなければいけないかと思ってまして。」
「いつマノフへ?」
「早ければ今週中には出国しようかと。ユージン王子と入れ違いになりそうですね・・・。」
今週と聞いて、アナスタシアは顔を曇らせた。ナツとの約束を守ってあげられそうになかったからである。
「お姉様どうかしましたか?」
「実は・・・レン殿下と婚約者候補達で、ピクニックを今度の休みに行うことになりそうですの。」
「ユージン王子がいない時にいいのかな・・・」
「セルゲイ殿下?」
「あっいや、お姉様はレン王子にいい印象もたれてなかったなーと。」
「それは今もですわ。でも、エリザベス様のお願いですので・・・で、ナツ様がセルゲイ殿下も呼びたいとお願いされましたの。」
「ナツ様がですか。」
セルゲイは少し考えると、うんうんとうなずき。
「僕も茶会に出ます。」
「大丈夫ですの?」
「少し遅くなろうが変わりませんよ。それに、今帰ると何か面倒なことになりそうな気がするので。」
そう言ったセルゲイの顔はうんざりした顔をしていた。よほど国からきた手紙はひどいものだったのだろう。アナスタシアは、その様子にふたたび心配になったが、ナツにとっては良かったと思うのだった。
「ふふ、ナツ様が喜びますわ。」
「僕でよけば、いつでも。そういえば、ナツ様は努力家ですね。僕が会いに行くたびに新しい事を覚えてるんですよ。」
「そうね。目の前にすばらしい目標がいますからね。」
「そうなんですか?それは良かった。」
そう言って喜ぶセルゲイを見ながら、セルゲイほど敏感な人間でも自分のことだと気付かないものなんだとアナスタシアは思った。
この朝食から数日後、エリザベスから連絡がきてピクニックの日程が決まった。当初の予想どおり次の学園の休日に行うことになったので、慌ただしく準備で日々が過ぎていった。
お付き合いありがとうございます。




