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第8話 逃亡への第一歩

 鉄の扉が閉まる音で、ユウキは目を覚ました。


 薄暗い牢の中、隣ではバルドが眠っている。少し離れた場所には、膝を抱えたまま眠るトーマの姿もあった。


 昨日の夜、バルドから聞いた第五坑道の話が頭を離れない。


 古い運搬路が地上へ続いていたという話。


 そこへ辿り着くには、第四坑道の奥にある崩れた分岐路を通る必要があるらしい。


 もちろん、今も通れる保証はない。


 それでも、何も知らずにこの場所で働き続けるよりは、ずっと希望があるように思えた。


「……起きとるのか、坊主」


 不意に声がして、ユウキは顔を上げた。


 バルドが片目を開け、こちらを見ていた。


「……おはようございます」


「おう。昨日の話が気になって眠れんかったか?」


 ユウキは小さく頷いた。


「……はい。ずっと、考えてました」


「何をだ?」


「どうすれば、第五坑道まで行けるのかって」


 老人はしばらく黙っていたが、やがて小さくため息をついた。


「……本気なんだな」


「……はい」


 ユウキは迷わず答えた。


 その声を聞いたバルドは、ゆっくりと身体を起こした。


「なら、まずはこの鉱山の仕組みを覚えろ。逃げ道を知っとっても、看守の巡回や作業の時間がわからんようじゃ、すぐに捕まる」


「……巡回、ですか?」


「ああ。見張りの人数、交代の時間、荷車の動き。そういう小さなことを覚えておくんだ」


 ユウキは真剣に頷いた。


 今まで、自分はただ目の前の仕事をこなすことで精一杯だった。


 しかし、自由を取り戻すためには、周囲をよく観察し、考えなければならない。


「……わかりました」


 バルドはそんなユウキを見て、わずかに口元を緩めた。


「ただし、怪しまれるなよ。普段どおり働きながら調べるんだ」


「……はい」


 ユウキは手首の枷を見つめた。


 まだ鎖を外す方法さえわからない。


 それでも、昨日までとは違っていた。


 ただ逃げたいと願うだけではなく、逃げるために何をすべきか、少しずつ見えてきたからだ。


 ◇◆◇


 朝の点呼を終えた囚人たちは、いつものように採掘場へ向かった。


 ユウキは歩きながら、できるだけ自然に周囲へ目を向けた。


 通路の入り口には二人の看守。


 最初の分岐点には、黒い鎧を身につけた兵士が一人。


 そして、第二坑道へ向かう道には、荷車を押す作業員たちが行き交っている。


 普段なら何も考えずに通り過ぎていた光景だったが、注意して見ると、少しずつ違いが見えてきた。


 看守は全員が同じ場所に立っているわけではない。


 荷車が通るときには道を空け、運搬作業が忙しくなると、ほかの通路へ移動する者もいる。


 ユウキはその様子を頭の中で整理した。


 もっとも、いつも同じ動きになるとは限らない。今朝は第三坑道の警戒が厳しく、黒い鎧の兵士も増えている。


 今日見たことだけで、安全な道だと決めつけるのは危険だった。


「……おい、ユウキ」


 隣からバルドが小さく声をかけてきた。


「見すぎだ」


「……あっ」


 ユウキは慌てて視線を戻した。


 老人は苦笑する。


「覚えるのはいいが、あからさまに首を振り回すな。余計な疑いを持たれるぞ」


「……すみません」


「謝らんでいい。少しずつ慣れろ」


 バルドはそれだけ言うと、何事もなかったように前を向いた。


 ユウキも深く息を吸い、歩き続けた。


 ◇◆◇


 午前の採掘が始まると、ユウキはいつもの岩壁へ向かった。


 ツルハシを振り下ろすたびに、硬い岩を叩く振動が腕へ伝わってくる。


 左肩の痛みはまだ残っているが、昨日よりは動かしやすくなっていた。


 何度も繰り返した作業のおかげで、身体の使い方も少しずつわかってきた。


「……よし」


 小さな魔鉱石が転がり落ちる。


 ユウキはそれを籠へ入れ、再び岩壁へ向き直った。


 そのとき、少し離れた場所で何かが倒れる音がした。


「……っ!」


 振り返ると、トーマが地面に膝をついていた。


 少年の手からツルハシが滑り落ち、石の床へ転がっていく。


「……トーマ!」


 ユウキは思わず駆け寄った。


 トーマは苦しそうに息をしながら、顔を上げた。


「……だ、大丈夫だって」


 しかし、その顔色は明らかに悪かった。


 額には汗が浮かび、唇も乾いている。


「……熱、まだあるんじゃないの?」


「……ちょっとだけ」


「ちょっとじゃないよ」


 ユウキは少年の額に手を当てた。


 予想以上に熱い。


 その瞬間、背後から怒声が響いた。


「おい! 何をサボってやがる!」


 大柄な看守が鞭を手に近づいてくる。


 ユウキは反射的に身体を強張らせた。


「……す、すみません! この子、具合が悪くて……」


「ああ?」


 看守は倒れているトーマを見下ろした。


「またこいつか。昨日も作業が遅れてやがったな」


「……でも、熱が」


「熱があろうがなかろうが、働けるなら働かせる。それがここの決まりだ」


 男は鞭を持ち上げた。


 ユウキの身体が反射的に動いた。


 トーマを庇うように、二人の間へ入る。


「……待ってください!」


 看守の動きが止まった。


「……なんだ、てめえ」


 低い声だった。


 ユウキは喉が乾くのを感じた。


 怖い。


 今すぐ逃げ出したい。


 それでも、ここで退けばトーマが傷つく。


「……俺が、代わりに働きます」


「……あ?」


「この子の分も、俺が掘ります。だから、少しだけ休ませてあげてください」


 看守はしばらくユウキを見つめていた。


 そして、鼻で笑う。


「……いいだろう」


 意外な返答に、ユウキは目を見開いた。


「……本当ですか?」


「ただし、こいつの割り当ては全部お前が引き受けろ。終わらなければ二人とも飯抜きだ」


 ユウキは一瞬だけ言葉を失った。


 二人分の採掘。


 今の身体では、とても簡単にこなせる量ではない。


 しかし、看守は答えを待っていなかった。


「嫌なら、今すぐこいつを立たせろ」


 ユウキは拳を握りしめた。


「……やります」


 その返事を聞くと、看守は満足そうに笑った。


「最初からそう言え。せいぜい頑張るんだな」


 男はそれだけ言うと、別の鉱夫のもとへ歩いていった。


 ユウキはその背中が遠ざかるのを確認し、ようやく息を吐いた。


「……ユウキ」


 トーマが小さく呼びかける。


「……ごめん」


「……謝らなくていいよ」


「でも、俺のせいで……」


「違うよ。俺が勝手に決めたんだから」


 ユウキはできるだけ優しく笑った。


 トーマは何か言いたそうにしていたが、結局俯いてしまった。


 そのとき、バルドが二人のもとへやってきた。


「……まったく、お前は」


 老人は呆れたように首を振った。


「無茶ばかりしおって」


「……すみません」


「だから、謝らんでいいと言っとるだろう」


 バルドは深いため息をつくと、トーマの肩へ手を置いた。


「お前は壁際で休め。ユウキ、こっちへ来い」


「……はい?」


「少しでも早く掘る方法を教えてやる。二人分の割り当てを終わらせたいんだろう?」


 ユウキは驚いて顔を上げた。


「……いいんですか?」


「ここで倒れられたら困るからな」


 老人はぶっきらぼうに答えた。


 しかし、その目には確かな優しさがあった。


 ユウキは小さく頭を下げた。


「……ありがとうございます」


 ◇◆◇


 その日の作業は、これまでで最も辛いものになった。


 バルドの指導を受けながら、ユウキは何度もツルハシを振り下ろした。


 岩の割れ目を見極め、力を集中させる。


 砕けた石を素早く取り除き、次の場所へ移る。


 採掘 Lv.1の技能は、確かに身体の動きを助けてくれていた。


 しかし、技能があるからといって疲労が消えるわけではない。


 腕は次第に重くなり、掌の水ぶくれが破れて血が滲んだ。


 左肩の傷も再び痛み始める。


「……はぁっ、はぁっ……!」


 ユウキは荒い呼吸を整えながら、ツルハシを握り直した。


 もう何度振り下ろしたのかわからない。


 それでも、手を止めるわけにはいかなかった。


 自分が約束したのだ。


 トーマの分まで働くと。


 だから、最後までやり遂げたかった。


「……坊主、少し休め」


 バルドが声をかける。


「……でも、まだ」


「倒れたら、それこそ終わりだ。力の配分を考えろ」


 ユウキは言われたとおり、岩壁に手をついた。


 肩で息をしながら、採掘場を見回す。


 周囲の鉱夫たちは黙々と働いている。


 誰もが疲れ切っているはずなのに、作業を止めようとはしなかった。


 この場所では、生きるために働かなければならない。


 そして、働けなくなれば価値を失う。


 そんな理不尽な仕組みが、当たり前のように続いている。


「……おかしいですよね」


 ユウキは小さく呟いた。


「……何がだ?」


 バルドが尋ねる。


「……人間なのに」


 ユウキは握りしめたツルハシを見つめた。


「……みんな、人間なのに。どうして、こんな扱いを受けなきゃいけないんでしょうか」


 バルドは何も答えなかった。


 ただ、しばらくユウキを見つめていた。


 やがて、老人は静かに口を開いた。


「……この世界じゃ、力のある者が決まりを作る」


「……力のある者?」


「ああ。貴族、商会、軍隊、そして国そのもの。力を持つ連中は、自分たちに都合のいい仕組みを作るんだ」


 老人は採掘場の奥へ視線を向けた。


「もちろん、すべてがそうだとは言わん。だが、ここでは少なくともそうなっとる」


 ユウキは唇を噛んだ。


 この世界の仕組みを、一度に変えることなどできない。


 今の自分には、目の前の少年を助けることさえ難しい。


 それでも。


「……いつか、変わるといいですね」


 ユウキは小さく言った。


 バルドは驚いたように目を見開いた。


 そして、ゆっくりと笑った。


「……そうだな」


 その声には、どこか遠い昔を懐かしむような響きがあった。


 ◇◆◇


 夕方。


 ユウキは最後の鉱石を籠へ入れた。


「……終わった」


 その瞬間、全身から力が抜けそうになった。


 膝が震え、立っているのもやっとだった。


 それでも、目の前には確かに二人分の採掘量が積まれている。


 看守が近づき、無言で籠の中を確認した。


「……ふん」


 男は不満そうに鼻を鳴らした。


「まあ、今日はこれでいいだろう」


 ユウキは深く息を吐いた。


「……ありがとうございます」


「礼を言う暇があるなら、さっさと片づけろ」


 看守はそれだけ言うと、別の場所へ歩いていった。


 ユウキはその背中を見送り、ようやく壁にもたれかかった。


 腕が痛い。


 肩も、腰も、足も。


 身体中が悲鳴を上げている。


 しかし、心の中には小さな達成感があった。


 誰かのために、自分のできることを最後までやり遂げられた。


 それが嬉しかった。


「……ユウキ!」


 声がして、顔を上げた。


 トーマがこちらへ駆け寄ってくる。


 まだ少しふらついているものの、朝よりは顔色が良くなっていた。


「……本当に、全部やったのかよ」


「……うん。なんとか」


 ユウキが苦笑すると、トーマは唇を噛んだ。


「……ごめん」


「……だから、謝らなくていいって」


「……でも」


 少年は俯いたまま、拳を握りしめた。


「俺、何もできなかった」


 その言葉を聞いて、ユウキはゆっくりと首を振った。


「……そんなことないよ」


「……え?」


「トーマが休んでくれたから、俺も安心して働けたんだよ」


 少年は目を丸くした。


「……それって、俺が何かしたことになるのか?」


「……なると思う」


 ユウキは微笑んだ。


「だって、元気になってくれたら嬉しいから」


 トーマはしばらくユウキを見つめていた。


 そして、照れくさそうに顔を背けた。


「……変なやつ」


 その言葉に、ユウキは小さく笑った。


 ◇◆◇


 その夜。


 ユウキは牢の中で、疲れ切った身体を石壁へ預けていた。


 腕を動かすだけでも痛みが走る。


 それでも、今夜は不思議と気持ちが落ち着いていた。


 トーマは隣で眠っている。


 バルドは少し離れた場所で、静かに目を閉じていた。


 ユウキは小さく息を吐き、視界に魂盤を呼び出した。


魂盤【STATUS】


名前:ユウキ・コバヤシ

年齢:17

種族:人間(異界者)

職業:無職

レベル:1


HP:8 / 32

MP:5 / 8


STR(筋力):7

VIT(耐久力):6

AGI(敏捷性):9

MAG(魔力):3

MND(精神力):12

DEX(器用さ):11


【固有権能】

略奪 Lv.1


【習得技能】

嗅覚強化 Lv.2

身体強化 Lv.2

採掘 Lv.1


【状態】

重度疲労・負傷

魂蝕値:微増


 ユウキは表示された数値を見つめた。


 HPは大きく減っている。


 魔力は少しずつ回復しているようだが、身体は限界に近かった。


 しかし、採掘技能は確かに身についている。


 自分自身の努力で覚えた技能。


 その事実が、少しだけ自信になっていた。


「……まだ、弱いな」


 小さく呟く。


 戦えば負ける。


 逃げようとしても、今の身体ではすぐに捕まってしまうだろう。


 それでも、できることは増えている。


 昨日よりも、ほんの少しだけ。


 ユウキは手首の枷に触れた。


 鉄の輪は冷たく、簡単には外れそうにない。


 そして、バルドから聞いた第五坑道の話を思い出した。


 第四坑道の奥にある、崩れた分岐路。


 そこを越えれば、古い運搬路へ辿り着けるかもしれない。


 問題は、その場所へどうやって近づくかだった。


「……バルドさん」


 ユウキは小声で呼びかけた。


 すると、老人が片目を開けた。


「……なんだ?」


「……明日、少しだけ第四坑道の方を見られませんか?」


 バルドはしばらく黙っていた。


 そして、静かに頷いた。


「……ちょうど明日、第四坑道へ鉱石を運ぶ作業がある」


 ユウキの胸が高鳴った。


「……本当ですか?」


「ああ。運搬の人手が足りんと聞いた。うまくいけば、わしらも回されるかもしれん」


「……それなら」


「ただし、期待しすぎるな。古い分岐路までは、まだ距離がある」


 バルドは真剣な目でユウキを見つめた。


「それに、第三坑道の警戒が厳しくなっとる。少しでも怪しい動きをすれば、すぐに捕まるぞ」


「……はい」


 ユウキは頷いた。


 焦ってはいけない。


 今は、確実に情報を集めることが大切だ。


「……ありがとうございます」


 バルドは小さく鼻を鳴らした。


「……礼を言うのは、無事に外へ出てからにしろ」


 ◇◆◇


 同じ頃。


 第三坑道の最深部では、帝国の魔術師たちが慌ただしく動き回っていた。


 巨大な石の扉に刻まれた赤黒い魔法陣。


 その表面には、昨日よりもさらに大きな亀裂が走っている。


「……封印値が安定しません!」


 若い魔術師が声を上げた。


「魔力を追加しても、内部から押し返されます!」


 灰色の外套の男は、静かに扉を見つめていた。


「……原因は?」


「不明です。ただ、魂魄反応が外部の何かと共鳴している可能性があります」


 男は眉をひそめた。


「……外部の何か、か」


 脳裏に浮かんだのは、黒髪の少年だった。


 見慣れない服装。


 異国の響きを持つ名前。


 そして、不可解な力。


「……ユウキ」


 男は小さく呟いた。


 そのとき、扉の表面に刻まれた魔法陣が赤く輝いた。


 ――ドクン。


 巨大な心臓が脈打つような音が響く。


 魔術師たちが一斉に顔を上げた。


「封印内部から、意識反応を確認!」


「……何?」


「今までとは違います。こちらの動きを認識しているような……!」


 男はゆっくりと扉へ近づいた。


 その表面から、冷たい魔力が流れ出している。


 そして。


『……来る』


 幼い少女のような声が響いた。


 男の足が止まった。


『……あの子が、来る』


 魔術師たちは顔を見合わせた。


 しかし、男だけは表情を変えなかった。


「……やはり、あの少年か」


 男は静かに呟いた。


 そして、背後の兵士へ命じた。


「明日、少年の行動を詳しく調べろ。誰と話し、どこで働き、何をしているのか、すべて報告させるんだ」


「はっ!」


 兵士が駆け出していく。


 男は再び石の扉へ視線を戻した。


 赤黒い光が、不規則に明滅している。


「……お前は、いったい何者なんだ」


 問いかけに答える声はなかった。


 ただ、扉の向こうで何かが静かに笑ったような気がした。


 ◇◆◇


 翌朝。


 ユウキはいつもより早く目を覚ました。


 身体には昨日の疲労が残っている。


 しかし、今日は大切な日になるかもしれなかった。


 第四坑道への運搬作業。


 そこへ参加できれば、第五坑道へ続く古い分岐路の情報を得られる可能性がある。


 ユウキは小さく拳を握りしめた。


「……今日も、頑張ろう」


 そのとき、隣から声が聞こえた。


「……おい、ユウキ」


 振り返ると、トーマがこちらを見つめていた。


「……なに?」


 少年は少しだけ迷ったあと、真剣な表情で口を開いた。


「……俺も、手伝いたい」


「……え?」


「お前、ここから出ようとしてるんだろ?」


 ユウキの心臓が跳ねた。


「……どうして、それを?」


「昨日の夜、少しだけ聞こえた」


 トーマは俯いた。


「……俺だって、ここから出たいんだ」


 その声には、これまで聞いたことのない強い意思が宿っていた。


 ユウキはしばらく少年を見つめた。


 そして、ゆっくりと頷いた。


「……うん」


 トーマが顔を上げる。


「……一緒に、出よう」


 その言葉に、少年の瞳が大きく揺れた。


 そして、初めて見せるような笑顔を浮かべた。


「……絶対だぞ」


「……うん。約束」


 二人は小さく拳を合わせた。


 その様子を見ていたバルドが、深いため息をつく。


「……まったく、揃いも揃って」


 しかし、老人の口元には、わずかな笑みが浮かんでいた。


「……仕方ない。わしも、もう少しだけ付き合ってやるか」


 ユウキは驚いて振り返った。


「……バルドさん!」


「勘違いするなよ。わしはまだ、逃げると決めたわけじゃない」


 老人はそう言いながら、ゆっくりと立ち上がった。


「ただ、若いもんが無茶をするのを黙って見とるのも、寝覚めが悪いからな」


 ユウキは小さく笑った。


 トーマも、嬉しそうに頷いた。


 冷たい牢の中。


 鉄の鎖に繋がれた三人。


 それでも、その瞬間だけは、確かな希望が生まれていた。


 まだ脱出できる保証はない。


 外へ出られたとしても、追手から逃げ切れるかどうかはわからない。


 それでも、三人は同じ未来を見つめ始めていた。


 ユウキは鉄格子の向こうを見つめた。


 暗い通路の先には、今日も過酷な労働が待っている。


 しかし、その先に自由へ続く道があるかもしれない。


 そう考えるだけで、胸の奥に小さな勇気が湧いてきた。


 昨日までの自分は、ただ生き残ることだけを考えていた。


 けれど、今は違う。


 守りたい人がいる。


 一緒に笑い合いたい仲間がいる。


 そして、もう一度会いたいと願う少女がいる。


 ユウキは静かに息を吸った。


 どれほど険しい道でも、諦めずに進んでいこう。


 そう決意した少年の目には、以前にはなかった確かな光が宿っていた。


 灰の鉱山からの逃亡計画は、こうして静かに動き始めた。


――第8話 完。

魂盤【STATUS】


名前:ユウキ・コバヤシ

年齢:17

種族:人間(異界者)

職業:無職

レベル:1


HP:8 / 32

MP:5 / 8


STR(筋力):7

VIT(耐久力):6

AGI(敏捷性):9

MAG(魔力):3

MND(精神力):12

DEX(器用さ):11


【固有権能】

略奪 Lv.1


【習得技能】

嗅覚強化 Lv.2

身体強化 Lv.2

採掘 Lv.1


【状態】

重度疲労・負傷

魂蝕値:微増

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