第11話 鎖を断つ方法
朝を告げる鐘が鳴っても、ユウキはすぐには身体を起こせなかった。
左肩が痛む。荷車を倒したときに打ちつけた膝も、熱を持っているようだった。何より全身が重く、薄い敷物から背中を離すことさえ億劫だった。
昨日、岩穿ち鼠との戦闘で初めてレベルが上がった。
レベル二。
その事実は確かに嬉しかったが、身体の状態は決して良くなっていない。
最大HPが増えたところで、負った傷が消えるわけではなかった。
「……起きられるか、坊主」
頭上から聞こえた声に、ユウキは目を開けた。
バルドが心配そうに覗き込んでいる。
「……はい。なんとか」
「無理をするな。昨日は危うく死にかけたんだぞ」
「……すみません」
「謝るより、自分の身体を大事にしろ」
老人はそう言いながら、懐から小さな布を取り出した。
布には薬草を潰したような緑色の染みが広がっている。
「昨日、古株の鉱夫から分けてもらった。傷口に当てておけ」
「……いいんですか?」
「お前が倒れたら、わしらも困るからな」
ぶっきらぼうな言い方だったが、ユウキにはその優しさがよく伝わった。
「……ありがとうございます」
薬草の布を肩に当てると、ひんやりとした感触が広がった。
痛みがなくなるわけではない。それでも、何もしないよりはましだった。
少し離れた場所では、トーマが膝を抱えて座っていた。
「……おはよう、トーマ」
「おはよう。ユウキ、まだ痛むのか?」
「……うん。でも大丈夫」
「昨日もそう言ってただろ」
少年は不満そうに眉をひそめる。
ユウキは苦笑した。
「……そうだったね」
トーマは何か言いたそうにしていたが、やがて小さく息を吐いた。
「……今日は俺も気をつける。昨日みたいに、足を引っ張らないように」
「足を引っ張ったなんて思ってないよ」
「でも、俺が転ばなかったら……」
「トーマ」
ユウキは静かに名前を呼んだ。
「昨日、あの板を見つけてくれたのはトーマでしょ? それに、古い標識も見つけてくれた」
少年が顔を上げる。
「俺一人だったら、どっちも気づかなかったと思う」
ユウキがそう言うと、トーマは少しだけ頬を赤くした。
「……そっか」
「うん」
その様子を見ていたバルドが、呆れたように笑った。
「お前らは本当に似た者同士だな」
◇◆◇
朝の点呼が終わると、囚人たちは採掘班と運搬班に振り分けられた。
しかし、昨日までとは様子が違っていた。
第四坑道へ続く通路の前には、黒い鎧の兵士が二人立っている。さらに、看守たちは普段以上に厳しい表情で囚人たちを監視していた。
「第四坑道の奥は当分立ち入り禁止だ!」
看守の一人が怒鳴った。
「昨日、魔物が入り込んだ。封鎖区画の調査が終わるまで、勝手に近づくな!」
ユウキは思わずバルドを見た。
老人は小さく首を振る。
何も言うな。
その合図を理解し、ユウキは黙って列に並んだ。
せっかく見つけた旧連絡路。
そこへ近づく機会が、突然失われてしまった。
けれど、昨夜バルドと話したことを思い出す。
今必要なのは、逃げ道だけではない。
手首と足首に取り付けられた、この拘束具を外す方法だった。
ユウキは手首を少し動かした。
鉄の輪が肌に擦れ、鈍い痛みが走る。
輪の外側には、小さな黒い石が埋め込まれていた。
魔封石。
バルドによれば、魔力の流れを妨げ、無理に壊そうとすると警報を発する仕組みがあるらしい。
ただし、これまで実際にどう作動するのかを見たことはなかった。
わからないまま触れば、危険だ。
「……まずは、知らないと」
ユウキは誰にも聞こえない声で呟いた。
◇◆◇
午前の作業は、第二坑道の資材整理だった。
ユウキは採掘作業を免れたことに、少しだけ安堵した。
今の身体で一日中ツルハシを振るえば、途中で倒れてしまうかもしれない。
資材置き場には、古い木箱や鉄製の道具が積み上げられていた。
ユウキは一つずつ中身を確認し、使えるものと壊れたものを分けていく。
その作業中、ふと奇妙なことに気づいた。
床に置かれた大きな鉄箱から、微かな振動が伝わってくるのだ。
――コツ、コツ。
最初は遠くの採掘音だと思った。
しかし、意識を集中させると、一定の間隔で小さな衝撃が続いていることがわかった。
「……なんだろう」
ユウキは床へ片膝をついた。
石の表面に手を当てる。
すると、振動の輪郭が少しだけ鮮明になった。
鉄箱の中で、何か硬いものが触れ合っている。
新しく獲得した振動感知の技能によるものだろう。
だが、それ以上のことはわからない。
中に何が入っているのか、形までは見えなかった。
「……何をしている」
背後から声が響いた。
ユウキは身体を震わせて振り返った。
そこには、若い看守が立っていた。
「……す、すみません。変な音がしたので……」
「音?」
看守は眉をひそめ、鉄箱へ近づいた。
そして蓋を開ける。
中には、金属製の拘束具がいくつも収められていた。
手首用の鉄輪。
足首用の枷。
短い鎖。
どれも、ユウキたちが身につけているものとよく似ている。
「……あ」
思わず声が漏れた。
看守は面倒そうに箱の中を確認した。
「壊れた拘束具だ。昨日の運搬で留め具が緩んだらしい。まったく、余計な仕事を増やしやがって」
男は箱を閉じようとした。
しかし、その瞬間、廊下から別の看守が呼びかけた。
「おい! 交換用の枷は見つかったか!」
「ああ、ここだ!」
「動作確認をしてから持ってこい。昨日も一つ、警報が鳴らなかったらしいぞ」
若い看守は舌打ちした。
「……面倒くせえな」
そう言いながら、箱から一つの鉄輪を取り出す。
ユウキは思わず視線を向けた。
鉄輪の内側には、小さな溝が刻まれている。
外側には黒い魔封石。
そして、その反対側には、細長い金属製の差し込み口があった。
若い看守は腰から小さな道具を取り出した。
細い棒の先端に、青白い石が埋め込まれている。
その道具を差し込み口へ当てると、魔封石が一瞬だけ淡く光った。
――カチリ。
小さな音がして、鉄輪が開いた。
ユウキは息を呑んだ。
力任せに壊したわけではない。
あの道具を使って、正しい手順で開けたのだ。
「……なんだ、動くじゃねえか」
看守は鉄輪を閉じると、再び同じ操作を繰り返した。
今度は黒い石が赤く点滅した。
「……ちっ。こいつは魔封石が傷んでるな」
男は不機嫌そうに呟き、鉄輪を箱へ放り投げた。
そして、ユウキに向かって顎をしゃくる。
「おい、お前。この箱を向こうの検査台まで運べ」
「……はい!」
ユウキは慌てて返事をした。
胸の奥では、心臓が激しく鳴っていた。
見つけた。
枷を開くための道具。
そして、魔封石が正しく反応しなければ、正常に開かないこともある。
すべてが理解できたわけではない。
しかし、何も知らなかった昨日までとは違う。
確かな手掛かりを掴んでいた。
◇◆◇
午後になると、ユウキは別の作業場へ移された。
壊れた拘束具を運んだ先には、小さな検査台と金属製の工具が並んでいた。
そこでは、白髪交じりの男が黙々と作業している。
囚人たちと同じ粗末な服を着ていたが、手首には拘束具がなかった。
男はユウキの運んできた箱を見ると、面倒そうに眉をひそめた。
「……また壊したのか、あいつら」
若い看守が鼻を鳴らす。
「文句なら管理者に言え。今日はこれを全部確認しろ」
「はいはい」
男は気のない返事をした。
「そこの小僧は荷物を置いたら戻していいんだな?」
「ああ。余計なものに触らせるなよ」
看守が去ると、男は小さくため息をついた。
「……まったく、相変わらず人使いが荒い」
ユウキは箱を床へ下ろした。
「……あの」
「なんだ?」
「……これ、全部直すんですか?」
男はユウキを見た。
そして、小さく笑った。
「直せるものはな。だが、魔封石が完全に壊れたものは交換するしかない」
「……そうなんですね」
ユウキは慎重に言葉を選んだ。
聞きたいことは山ほどある。
しかし、あまり露骨に尋ねれば怪しまれる。
「……すごいですね。俺、こういう道具、初めて見ました」
男は少しだけ意外そうな表情を浮かべた。
「そうか。最近入ったのか?」
「……はい」
「なら知らんのも無理はない」
男は作業台の上から一つの枷を取り上げた。
「これはただの鉄輪じゃない。魔封石と封緘術式が組み込まれてる。無理に壊そうとすると、術式が異常を知らせる仕組みだ」
「……封緘術式?」
「ああ。簡単に言えば、鍵の役目をする魔法だな」
ユウキは真剣に耳を傾けた。
「……じゃあ、鍵があれば普通に開くんですか?」
「鍵というより解除具だ。魔力の流れを合わせて、術式を一時的に緩める。ただし、誰でも扱えるわけじゃない」
「……そうなんですね」
男は少しだけ首を傾げた。
「妙に興味を持つな」
ユウキの背筋が冷たくなった。
「……す、すみません!」
思わず頭を下げる。
男はしばらくユウキを見つめていたが、やがて苦笑した。
「怒っとらんよ。若いのに珍しいと思っただけだ」
ユウキはほっと息を吐いた。
「……ありがとうございます」
「礼を言うほどの話でもない」
男は再び作業へ戻った。
その背中を見ながら、ユウキは考えていた。
解除具。
封緘術式。
魔封石。
少なくとも、鉄の輪を壊さなくても外す方法は存在する。
問題は、その解除具をどう手に入れるかだった。
◇◆◇
帰りの通路で、ユウキは思いがけない人物とすれ違った。
灰色の外套。
顔の半分を覆う影。
そして、周囲の兵士たちとは明らかに違う冷たい気配。
第三坑道の封印を調べていた、あの男だった。
「……っ!」
ユウキは反射的に顔を伏せた。
しかし、男の足音が止まった。
「……ユウキ・コバヤシ」
名前を呼ばれ、ユウキの心臓が跳ね上がる。
「……は、はい」
男は静かにこちらを見つめていた。
「昨日は災難だったようだな」
「……え?」
「第四坑道で魔物に襲われたそうだ」
ユウキは小さく頷いた。
「……はい」
「生き延びたのは幸運だったな」
「……そう、思います」
男はしばらく黙っていた。
そして、ユウキの手首へ視線を落とした。
「……その枷、不便ではないか?」
唐突な質問だった。
ユウキは戸惑いながら答える。
「……はい。動きにくいです」
「そうだろうな」
男は薄く笑った。
「だが、この鉱山では必要なものだ。勝手に外そうとすれば、面倒なことになる」
ユウキの背筋に冷たいものが走った。
もしかして、さっきの検査場での会話を知られているのだろうか。
しかし、男はそれ以上何も言わなかった。
「……しばらくは大人しくしていることだ」
そう告げると、外套を翻して歩き去っていった。
ユウキはその場に立ち尽くした。
まるで、自分の考えを見透かされているような気がした。
けれど、何も知られていない可能性もある。
ただの警告だったのかもしれない。
今は判断できなかった。
◇◆◇
その夜。
ユウキは牢の中で、バルドとトーマに今日の出来事を話していた。
もちろん、周囲の囚人に聞こえないよう、声はできるだけ小さくしている。
「……解除具、か」
バルドが低く呟いた。
「やはり、専用の道具が必要なんだな」
「……はい。看守が腰につけていた、小さな棒みたいな道具でした」
ユウキは見たものをできるだけ正確に説明した。
細い金属の棒。
先端に埋め込まれた青白い石。
そして、拘束具の差し込み口。
老人は黙って話を聞いていた。
「……なるほどな」
「……何かわかりますか?」
「少なくとも、普通の鍵を盗めば済む話じゃなさそうだ。解除具の使い方も覚えにゃならん」
バルドは腕を組んだ。
「それに、管理者が持っとる解除具と、看守が持っとるものが同じとは限らん。囚人の枷に使えるかどうかも確認が必要だ」
ユウキは頷いた。
「……そうですよね」
すると、隣で黙っていたトーマが口を開いた。
「……あのさ」
「……なに?」
「その検査場って、誰が働いてたの?」
ユウキは少し考えてから答えた。
「白髪交じりの男の人だった。囚人みたいな服を着てたけど、手首に枷はなかったよ」
その瞬間、バルドの表情が変わった。
「……白髪交じりの男?」
「……はい」
「痩せた男で、左の眉の上に古い傷がなかったか?」
ユウキは記憶を辿った。
そういえば、男の顔には小さな傷跡があった。
「……ありました。たぶん」
バルドは深く息を吐いた。
「……まさか、まだ生きとったとはな」
「……知ってる人なんですか?」
老人はゆっくりと頷いた。
「ドランという男だ。昔、この鉱山の設備を修理しとった職人でな。数年前から姿を見なくなったんで、別の場所へ移されたと思っとった」
「……ドランさん」
「ああ。腕は確かだが、気難しい奴だった」
バルドは少しだけ笑った。
「昔、わしの壊した道具を何度も直してくれたことがある」
ユウキの胸に、小さな希望が生まれた。
バルドの知り合い。
しかも、拘束具の仕組みを知っている職人。
もし協力してもらえたなら、枷を外す方法が見つかるかもしれない。
「……その人に、相談できませんか?」
ユウキが尋ねると、バルドはすぐに首を振った。
「簡単にはいかん」
「……どうしてですか?」
「ドランが今も信用できるとは限らんからだ」
老人の声は真剣だった。
「この鉱山じゃ、生き延びるために看守へ情報を売る奴もおる。ドランがそうだと言いたいわけじゃないが、何年も会っとらん相手を無条件に信じるのは危険だ」
ユウキは唇を噛んだ。
確かに、そのとおりだった。
自分たちの逃亡計画を知られれば、三人とも処罰される可能性がある。
最悪の場合、命を奪われるかもしれない。
「……じゃあ、どうすれば」
「まずは、わしが様子を見る」
バルドは静かに答えた。
「話せる機会があれば、昔のことを少し聞いてみる。それから判断するんだ」
ユウキは頷いた。
「……お願いします」
バルドは小さく鼻を鳴らした。
「お前はその間に身体を治せ。今のお前じゃ、逃げ道を見つけても途中で倒れるぞ」
「……はい」
ユウキは苦笑しながら答えた。
◇◆◇
消灯の鐘が鳴り、牢の中が静かになった。
トーマはすでに眠っている。
バルドも目を閉じ、壁にもたれていた。
ユウキは静かに自分の手首を見つめた。
冷たい鉄の輪。
魔封石の鈍い光。
昨日までは、ただ自分を閉じ込めるためのものにしか見えなかった。
しかし今は、その仕組みの一端を知っている。
何かを知らなければ、何も変えられない。
そう思いながら、ユウキは魂盤を呼び出した。
魂盤【STATUS】
名前:ユウキ・コバヤシ
年齢:17
種族:人間(異界者)
職業:無職
レベル:2
HP:8 / 36
MP:7 / 8
STR(筋力):8
VIT(耐久力):7
AGI(敏捷性):9
MAG(魔力):3
MND(精神力):12
DEX(器用さ):11
【固有権能】
略奪 Lv.1
【習得技能】
嗅覚強化 Lv.2
身体強化 Lv.2
採掘 Lv.1
振動感知 Lv.1
【状態】
負傷・強い疲労
魂蝕値:上昇中
ユウキは表示された数値を見つめた。
HPはわずかに回復している。
薬草の処置と、今日の比較的軽い作業のおかげかもしれない。
それでも、最大値の36には程遠い。
レベルは二のまま。
新しい技能も増えていない。
けれど、今日得たものは数字には表れない知識だった。
枷の構造。
解除具の存在。
そして、ドランという職人。
「……少しずつ、だね」
ユウキは小さく呟いた。
明日になれば、また何かがわかるかもしれない。
そう信じて、目を閉じようとした。
そのときだった。
――トン。
足元から、小さな振動が伝わってきた。
ユウキは目を開けた。
昨日、岩穿ち鼠から奪った振動感知。
その技能が、わずかに反応している。
――トン、トン。
一定の間隔で続く振動。
看守の足音ではない。
もっと深い場所から響いている。
「……また、第三坑道?」
ユウキは石の床へ手を当てた。
振動の方向までは正確にわからない。
しかし、何か大きなものが地下で動いているような感覚があった。
その瞬間、視界の端に青白い文字が浮かび上がる。
《未登録の魂魄反応を検出》
《反応源:第三坑道最深部》
《固有権能「略奪」が共鳴しています》
ユウキは静かに息を呑んだ。
また、あの反応だ。
そして、頭の奥で幼い声が響いた。
『……もうすぐ』
「……え?」
『……扉が、開く』
ユウキの背筋が冷たくなった。
扉。
第三坑道の奥にある、赤黒い魔法陣が刻まれた石の扉。
あれが開くというのだろうか。
「……待って。どういう意味?」
ユウキは小さく問いかけた。
しかし、声は答えなかった。
代わりに、足元から大きな振動が伝わってきた。
――ドクン。
巨大な心臓が、一度だけ脈打ったような感覚。
ユウキは思わず身体を強張らせた。
眠っていたバルドが、ゆっくりと目を開ける。
「……どうした、坊主」
「……バルドさん」
ユウキは震える声で答えた。
「……今、地面が揺れませんでしたか?」
バルドは少しだけ眉をひそめた。
「……いや、わしにはわからんかったが」
「……そう、ですか」
ユウキは床を見つめた。
自分だけが感じた振動。
そして、第三坑道から聞こえる声。
何かが起きようとしている。
それだけは、確かな気がした。
◇◆◇
同じ頃。
第三坑道の最深部では、灰色の外套をまとった男が魔法陣の前に立っていた。
石の扉には、以前よりも大きな亀裂が走っている。
赤黒い光が、その隙間から漏れ出していた。
「……封印の状態は?」
男が尋ねる。
隣の魔術師が、震える声で答えた。
「……危険な状態です。あと数日も持たない可能性があります」
「……数日か」
男は静かに目を細めた。
「補修術式は?」
「試していますが、内部から干渉を受けています。通常の方法では、もう抑えきれません」
男はしばらく黙っていた。
そして、小さく呟いた。
「……やはり、あの少年が必要なのかもしれんな」
魔術師が顔を上げる。
「……少年、ですか?」
「ああ。ユウキ・コバヤシ」
男は石の扉へ視線を向けた。
「異界から来た可能性のある少年。そして、封印と共鳴する不可解な力を持つ存在だ」
魔術師は息を呑んだ。
「……では、拘束してこちらへ?」
「いや」
男は静かに首を振った。
「まだ早い。あの力の正体を確かめる必要がある」
そして、しばらく考え込んだあと、低い声で続けた。
「……だが、時間がないのも事実だ」
石の扉が、低い音を立てた。
――ミシリ。
新たな亀裂が走り、赤黒い光が強くなる。
魔術師たちは慌てて後ずさった。
しかし、男だけは動かなかった。
「……何が眠っているというんだ」
問いかけに答える者はいない。
ただ、扉の向こうから幼い少女の声が響いた。
『……早く』
男の目が細くなる。
『……あの子を、連れてきて』
赤黒い魔法陣が、不気味な光を放っていた。
灰の鉱山に眠る秘密は、もはや静かに待ってはいなかった。
そして、ユウキたちの逃亡計画にも、確実に危険が迫り始めていた。
――第11話 完。




