9 裏をかいた作戦
ジルベルトの人差し指がエリア(ロザンナ)の顔の前に差し出された。
「この指先をじっと見なさい」
ジルベルトは立てた指を左右上下に動かす。
エリアの瞳が指先に追随した。
「大丈夫みたいだな。でも念のために今日の仕事は休んでもらう」
「大丈夫です。仕事はできます」
「駄目だ。わが部署のエースに無理はさせられない」
エリアはアランを気にした。
「心配しなくていい。アランは、特別捜査官だ。君の同僚だよ」
「えっ、そんなの聞いてない。裏の部署があるのは噂で知ってたけど……」
エリアは左手を無意識に掻いた。理不尽なことがあると全身が痒くなるのだ。
アランは肩をすくめた。
「僕らは裏方の仕事で潜入捜査専門だからね。顔は知られたら困るから部署が違うんだよ」
「僕ら(彼ら)って……まさか」
「水晶宮の下僕全員が僕の部下だ。クリスティーナをまんまと騙したってことさ」
ジルベルトが言った。
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クリスティーナが父親のミローネ伯爵に今回の計画を話した。
婚約者のジルベルトの浮気を断つ。そのために半年間、ジルベルトの別宅の水晶宮に閉じ込める。
しかも自分以外に女を寄せ付けないように、下僕はすべて男にする。
男だらけの屋敷で、彼の本当の愛を確かめると。
「だから男性の下僕を集めてください。私の切実な願いを叶えてください」
とクリスティーナは、ミローネ伯爵に頼んだ。
「よし、わかった」
可愛い娘の頼みをミローネ伯爵は快諾した。
ミローネ伯爵は友人のコルブッチ男爵に相談したら、快く引き受けてくれて、下僕たちを手配してくれた。
しかし、ミローネ伯爵は、コルブッチ男爵がジルベルトと密かに通じていることを知らなかったのだ。
それで、水晶宮の男の下僕はすべて潜入捜査専門の特別捜査官に入れ替わったのだ。
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「まんまと裏をかいてやったよ。クリスティーナは何も知らないよ」
ジルベルトは快活に笑った。
「でも潜入捜査の部下をここ一か所に集めたら、監察官の仕事は……」
「貴族の屋敷に潜入捜査する訓練として機能しているからね。いずれ大物貴族の屋敷に潜入させるつもりだ。一石二鳥だよ。それに、表の部下も頑張ってるよ。報告は受けてるし、指示も出している」
とジルベルトはウインクした。
その日一日、エリアは使用人部屋の自室にこもった。
やはり後頭部を打ったからか、ベッドに入るとすぐに寝入ってしまった。
エリアは目が覚めた。
伸びをして上体を起こしたら、隣から声がした。
「おはよう。夜だけどね」
窓辺の机の上のランプが灯っていた。
ベッド脇に持ってきた椅子にアランが座っていた。
「長官に部屋の鍵は外すように言われたけど、ずっとそこにいたの?」
「おかげで寝顔が見れてラッキーだった。やっぱり女の子だとわかったらドキドキするね」
「やだ、恥ずかしい」
エリア(ロザンナ)の頬が朱色に染まった。
ふとサイドテーブルを見ると水の入った洗面器と絞ったタオルがあった。
「あっ、これね。寝汗かいてたから、額の汗を拭いたよ。首筋も……もちろん変なことはしてないよ」
エリアは寝る前に胸の晒し布は外しておいた。
それもサイドテーブルの上に乗っていた。
「でも胸の汗拭ったでしょ? 正直に言いなさい。私、胸の下に汗がよく溜まるの。まさか、看病でそれを放っておいたりしないわよね」
「ごめんなさい。でも目を瞑って拭いたから……」
アランはおどおどした。
エリアはその様子が面白かった。
「ハハハ、そんなこと気にしてないわよ。変ね、アランといるとなんか安心する。一緒にいても緊張しないものね」
「それって僕のことを男として見てないからだね」
「そんなことないわよ」
アランは首を振った。
「だって、ほんとにそうなんだもん」
アランは椅子から立ち上がると開襟シャツのボタンを外した。
「な、なにするのよ」
アランは開襟シャツを脱いだ。
まるで彫像のような美しい身体が現れた。
エリアは、アランの引き締まった身体の美しさに見とれてしまった。
「これを見てドキドキする?」
アランが言った。
「しない……綺麗だけどときめかない。生々しい男の野性味が感じられない」
「そうだろ? 僕の身体に興味を持つのは、決まって女より男なんだよ」
アランが悲しそうな顔をした。
「そんなことない。だって私は綺麗な男の子は大好きだよ」
「でも、ときめかないんだよね」
「う〜ん、今のところはね。会ったばかりでお互いよく知らないから壁を作っちゃう」
「いつかその壁がなくなるといいなー」
アランは開襟シャツを着た。




