7 男も女もない
ロザンナは、ベテランの監察官モルテードと一緒に貴族の屋敷で汚職の捜査令状を提示したところ、玄関前で足止めをくらった。
「女は入るな。俺の屋敷に一歩でも入ってみろ、後悔させてやる」
汚職疑惑の伯爵が言った。
ロザンナは玄関前で足止めさせられた。
汚職捜査に対する意趣返しだ。
モルテードは、ロザンナを一瞥してフンと鼻を鳴らした。
そして嘲笑して玄関の扉をくぐった。
ロザンナは屋敷の庭で待機した。
モルテードが監察官室に戻ると、ことの成り行きを知ったジルベルト長官は、烈火のごとく怒って、机を拳で叩いた。
「どういうことだ? ロザンナが屋敷に入れなかったのに、それをほっといたのか」
「あっ、はい。伯爵の指示に従ったままです」
「バディは一心同体じゃないのか……」
「長官、新人の女です。足手まといで邪魔なだけです」
モルテードはロザンナを睨んだ。
(あっ、やっぱり私は邪魔者なんだ……一度飲みに誘われたのを断ってから態度が急変した。私に人一倍辛くあたるようになった)
ロザンナの心が冷え込みかけたとき、ジルベルト長官が言った。
「モルテード、とっとと荷物を持って出て行け。監察官室には、お前のような男に居場所はない」
「長官、これは冗談ですよね。まさか本気では……」
「はっきり言うぞ、お前はクビだ!」
書類整理に追われていた官僚たちの手が止まって、ジルベルト長官とモルテードを見た。
(ジルベルト長官が……私を庇ってくれた。なぜ?)
「……わかりました」
モルテードはうなだれた。
荷物の箱を持ったモルテードが部署から出て行った。
「みんな、この部署では男も女もない。実力主義だ。モルテードはこれまでも新人イビリをしてきた。みんなも見聞きしていただろ? 俺は何度も注意した。しかも監察官が被疑者の貴族の顔色をうかがうなど言語道断だ。誰であろうと厳しく取り締まる。それができないならば、今すぐこの場を去ってくれ」
「長官、いいですか?」
官僚の一人が手を上げた。
「何だ言ってみろ」
「ちょっとスカッとしました。去るのはモルテード一人で十分です」
パチパチパチ!
周りから拍手が起こった。
部署の空気が一変した。
ロザンナは冷え切った胸の奥に不意に鮮やかな色が投げ込まれたような感覚になった。
(もしかして、これって恋なの?)
その一件があった後、ロザンナは懸命に働いた。
半年後には、汚職の摘発件数が部署で首位になっていた。
「よくやった。毎月の摘発の最優秀者には報奨品がもらえる」
ジルベルトがそう言って机の上に出したのは、小さめの高級そうな木枠のケースだった。開けると、葉巻が並んでいた。
「葉巻ですか?」
「伝統的にこの部署では葉巻だったけど……花束とかのほうが良かったかな」
ジルベルトは困った顔をした。
「いえ、葉巻でいいです」
「ほんとに」
「はい!」
この日の出来事でロザンナはジルベルトを一気に見直した。そして、少し意識するようになった。
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エリア(ロザンナ)は使用人部屋で、机の上に置いたランプを眺めた。
屋敷で使ったロウソクが短くなったら、下僕たちに回ってくる。それを使用人たちは使っていた。
「葉巻が吸いたいなー」
エリアは、ベッドで横になって呟いた。
半年前にジルベルトが切った啖呵を、葉巻を吸うたびに思い出した。煙の向こうにジルベルトの顔が浮かぶのだ。
そろそろ寝ようかと、ベッドから起きて、いよいよ胸の晒し布を外そうとしたとき、ドアからノックの音がした。
エリアは慌てて男物の寝間着の前ボタンをはめ直した。
ドアを開けると、アランが立っていた。




