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女人禁制の屋敷に男装潜入したら、浮気の犯人は長官の部下だった  作者: 御厨そら


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6 なぜ来た?

エリアは厨房に案内された。アランはコックに言った。


「この子は新人の──」

「エリアです。よろしくお願いします」

「聞いてるぞ、さっそくだけどかまどに火をつけてくれ」

と火打ち石と鉄片を渡された。


エリア(ロザンナ)は、かがんでかまどを覗いた。

かまどの薪の間に麻の紐がばらして突っ込まれていた。そこに火花を飛ばして火をつけた。


「おお、うまいな」


(葉巻吸うからね。でも今は禁煙、辛いわ)



庭に出て落ち葉の掃除と生け垣の剪定をやった。これも植物が好きなエリアにはお手の物だった。


「へー君は器用だね。手慣れているのがわかるよ」


(アランが褒めてくれるのが嬉しい。綺麗な男子と顔を近づけて仕事するのがこんなにも楽しいものだとは思わなかった。

それにしても、アランは美しい。

アランだけではない。ここに働く下僕たちの男前ぶりは尋常ではない。


侍女を排除して男だけの下僕を屋敷に入れたクリスティーナは、本当にジルベルト様の浮気封じのためだろうか? 


もしや何らかの意図があるとすれば、それを見つけなければならない)



エリアは胸の奥に生まれた疑問を押し殺して仕事を続けた。




夜の九時すぎ。

エリアは、一日の仕事が終わって自室に戻った。ベッドの縁に腰を下ろしてため息をついた。


(仕事の疲れより、側で指導する先輩のアランに疲れた。あんな綺麗な男が側にいるだけで緊張するじゃない。やはり、男性経験のなさが身体をこわばらせる)


エリアは、男物の寝間着に着替えても、胸の晒し布は外さなかった。股間の防具用のカップもだ。寝る直前に外すつもりだった。用心深く行動する。それが潜入捜査の基本だからだ。



部屋の隅に置いたトランク。唯一持ってきたものだ。壁にぴったり置いたはずだが、わずか斜めになっていた。


(しまった。誰かが部屋の中に侵入した!)


トランクを開けた。

着替えの晒し布に平服、下着類があった。二重底からノートと護身用の警棒を取り出した。

ノートは屋敷の構造を調べて書くつもりだったが、二つ折りの紙片が挟まっていた。


【なぜ来た?】


見覚えのある文字だ。

エリアはドキッとした。


(トランクの二重底は、一般人には見つけられない。

そこにメッセージを入れられるのは、あの人だけだ。


ジルベルト様だ。

やはり自分の正体を見破っていたのだ)


エリアは男装がバレた恥ずかしさで、身体が火照った。


(普段の姿ではない男装を見て、ジルベルト様はどう思ったかしら。無様だと顰蹙を買ったかな……それとも内心喜んでくれたかも……)


それと同時に潜入捜査の未熟さを恥じ、自らを叱責した。


(こんなんじゃ駄目よ、ジルベルト様を騙すぐらいじゃないと……)



エリアは、初めてジルベルトに会った頃を思い出した。

男爵家の三女で愛想のないロザンナは、政略結婚より働くことを選択した。


男爵のコネで財務大臣傘下の監察官の部署で働くことになった。

そこで出会ったのが、ジルベルト長官だった。


初めて会ったとき、『こいつが噂の女たらし』と警戒の眼差しを向けた。ともかく浮気男には興味がなかった。

でも仕事はハードだった。男だらけの仕事場で花一輪とはいかず、外回りの調査の仕事ばかりで、朝から歩き回って足が棒になった。


仕事が一段落して部署に戻ると、机に二つ折りの紙片が置いてあった。


【ご苦労様、今夜は湯浴みをしてふくらはぎをよくマッサージしなさい。早めに寝ること。早退してよろしい。長官より】


(ふーん、男のわりに気がつくじゃない。ちょっといいところもあるのね)


その時はそんな印象だった。

まだ、意識はしていなかった。


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