5 美男子だらけの屋敷と、ねっとり視線の執事
「華奢なあなたには、この制服でよろしいでしょう」
執事のデルゾーニがエリア(ロザンナ)に制服を手渡した。そして使用人部屋に案内した。一番奥の部屋の扉の前で合鍵を手渡した。
「部屋の片付けが終わったら使用人室に来てください。みんなに紹介します」
「わかりました」
深々と頭を下げたエリアをデルゾーニがじっと睨む。
「いい匂いがしますね」
鼻の穴をピクつかせたデルゾーニが言った。
(えっ、身体はくまなく洗って女らしい匂いはないはずだけど……)
デルゾーニの手が伸びて、エリアの襟元に指を持って来た。
掴んだのは、薄いピンク色のバラの内側の花びらだった。
「バラ園の花びらが風に飛ばされて、あなたの元に来たようですね」
「気づかなかったです」
「バラに好かれてるようですね。素敵です」
そう呟いたデルゾーニ執事はニコッと笑って、背中を向けて行ってしまった。
ほっと胸を撫で下ろしたエリア。デルゾーニのねっとりした視線が苦手だった。
(でも、渋い中年男性なのね。ちょっと意識してしまうわ……)
エリアは鍵を使って自室の扉を開けた。
空気がかび臭かった。天井を見るとむき出しの梁に雨漏りのシミがあった。
窓辺の机と簡易ベッド、使い古しのチェスト。狭くて圧迫感が半端ない。
エリア(ロザンナ)は男爵令嬢の三女。使用人部屋に入るのは初めてだった。
しかし、目的のためなら、泥水でも飲む覚悟だった。
(やることは一つだけ。ジルベルト様と二人っきりの時間を作って愛をはぐくむことだ。
婚約者のクリスティーナだけでは、ジルベルト様は我慢できない。数多くの浮名を流したジルベルト様。なのにどうして部下の私には手を出さなかったのかしら?
よくよく考えたら不思議だ。タイプじゃないのかな……でも今はジルベルト様の浮気をクリスティーナに見せつけて【婚約破棄】に持っていく。
立派なことを言ったけど、本当はジルベルト様といい関係になりたいだけかもしれない……)
午後の休憩時間。使用人控室には十人の下僕がいた。
「新人のエリア・シャンナだ。よろしく頼むぞ」
デルゾーニ執事が長テーブルに腰掛けた下僕たちに言った。
エリア・シャンナはかしこまって挨拶した。
「はじめまして。エリアと呼んでください。先輩たちの足手まといにならないように一生懸命働きますのでよろしくお願いします」
下僕たちがエリアを見た。退屈だった日常にちょっとしたハプニングがやって来たような、何かを期待するような眼差し。
(そんなに興味持たないでよ)
と伏せた目を、テーブルの十人に向けた。
エリアはドキッとした。
瞼をぱちくりさせた。
(──何だこれは? みんなとんでもない美男子ではないか。
年齢は十代後半から三十代までの十人。それぞれ曰く有りげな雰囲気を持ってる。これはいったい何なんだ?)
「じゃ、アラン。君が指導係だ。頼むぞ」
長テーブルの端っこで本を読んでいた青年が顔を上げた。
「はい。わかりました」
エリアは近づいて頭を下げた。
「よろしくお願いします」
「うん、僕は可愛い子は大好きさ」
その声は高くて、甘ったるいものだった。
「僕が手取り足取り教えてあげるよ」
エリアはアランの笑顔に魅入られそうになった。
(待って。私の目的を忘れては駄目だ。私の操を捧げるのはジルベルト様よ)




