4 男装潜入成功……のはずが、男の危機
「えーと、君の名前は?」
手渡した紹介状を一瞥したジルベルト。中身を読みもせずにテーブルに置いた。
「エリア・シャンナです」
ロザンナはドギマギした。いろいろ工作して新人の下僕として水晶宮の屋敷の面接にこぎつけた。
当然、執事の面接で決定すると思ったけど、なぜかジルベルトと婚約者のクリスティーナまでも一緒に面接することになったのだ。
ロザンナは自分が男装した女だとバレるのではないかと思った。
「年齢は?」
ジルベルトが聞いた。
「二十歳です」
「若いな、僕より五つも若いや。クリスティーナは同じくらいだよね」
と横を向いた。
「二十二です。覚えてないの?」
クリスティーナの言葉にトゲがあった。
「いやいや、確かめただけ。もちろん知ってるよ」
ジルベルトは慌てた。
「ごめんなさいね。ほんとは執事が面接するものだけど、ジルベルトが『暇だから一緒に面接しよう』って言ったのよ」
「気にしていません。むしろ御当主のお二人に面会できて嬉しいです」
ロザンナは精一杯の笑顔を見せた。
ロザンナは男装するのに、長い黒髪をばっさり切って短髪にした。大人っぽく見せるための化粧をやめた。
もともと童顔だったので、十代の少年ぽくなった。
胸は晒し布で押さえた。股間は革製のカップだ。急所を守る防具でごまかした。
「クリス、どう思う」
「私は気に入ったわ。こんなに可愛い男の子がいると屋敷が華やかになっていいじゃないの」
「僕もそう思う。可愛くて誠実さが滲み出ている。いい子だと思うよ」
ロザンナは、『えっ』と思った。そんなに簡単に決めていいのかな?
(あまりにも無防備じゃない。そもそもせっかく貴族院の有力者である伯爵の推薦状を書いてもらって、シャンナ男爵の三男坊の名前を借りた。もちろん彼には隣国に半年間滞在してもらう費用も出した。バックグラウンドを調べられても大丈夫なように入念に準備したのよ)
それがいとも簡単に潜入できたのだ。
ロザンナは不満だった。
(危機管理ができていない。こんなことじゃ先が思いやられる。やっぱり私が側にいないと何もできないのね……)
ふと、うっとりジルベルトを見てしまった。
するとジルベルトが目ざとく気づいた。
ジルベルトは“特異能力”の持ち主だ。私の喋る言葉を一語一句覚えて表情まで再現できる。
すでに違和感を抱いただろうか。
何やら小難しい顔になった。と思ったら、軽くウインクされた。ほんの一瞬で、クリスティーナは気づいていない。
「トマーゾ、もういいぞ」
執務室の扉の前に立っていた渋い中年男性が入って来た。
「はい。ジルベルト様、お決まりになりましたか?」
「こちらが執事のトマーゾ・デルゾーニだ。彼は合格だ。よろしく頼むよ」
「執事のデルゾーニです。よろしくお願いします」
執事はロザンナに慇懃無礼に挨拶した。
「エリア・シャンナです。よろしくお願いします」
会釈をして顔を上げると、目の前にデルゾーニ執事の顔があった。
今にも鼻と鼻がぶつかりそうだった。
「……肌が綺麗ですね。もちもちしている」
「えっ」
「まるで……」
(あー、もう入口でバレたのかしら。せっかくの男装が台無しじゃない)
「──少年のようですね」
そう言ったデルゾーニ執事がはにかんだ。そして瞬きをして熱い眼差しをロザンナに向けた。
ロザンナは背筋に悪寒が走った。
(この屋敷に女はクリスティーナだけだ。だから男装して潜り込んだのに、男には男の危機があるとは思いもよらなかった)
「へー、君たち相性良さそうだね。これから楽しくなりそうだ」
ジルベルトが屈託なく笑った。




