2 半年間の休暇と、優秀すぎる部下の片思い
「貴族院の公務はなしだって!」
翌朝、朝食後に出かけようとするジルベルトにクリスティーナが言った。
「半年間の休暇を貰っています。仕事はしなくていいのですよ」
ジルベルトは不満だった。肩書きは監察官の長官だが、貴族院の仕事は部下の官僚にまかせて、ほとんどしていなかった。
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ジルベルトは毎日、ほかの役所に顔を出して紅茶や菓子をいただきながら世間話をする。それが仕事だった。
一日中、世間話をして夕方になったら帰るのが日常だった。
ところが、ほかの役所からは「ジルベルト長官がまた探りに来ている」と恐れられた。
これまで、他領主の横領事件や重税を見抜いて摘発したからだ。
巷では歴代で随一の監察官として恐れられ、一目置かれていた。
でもその実態は部下のロザンナ・カペッロが優秀だったからだ。
「ジルベルト長官、今日は誰とどんな話をしましたか?」
とロザンナは貴族院の食堂で聞き出すのだ。
脳天気なジルベルトは、喋った相手のことを事細かく話すと、ロザンナの眼差しが途中で鋭くなっていく。
そして数日後、
「調査は終了しました。摘発に向かいます」
とロザンナが言うのだ。
「あ、そうなの……」
ジルベルトは書類に署名捺印をした。
するとどういうわけか、大疑獄事件の摘発がジルベルトの手柄になっていた。
貴族院議長からは、
「お手柄だ。よくやった。君ほど優秀な監察官はいない」
と褒められた。
新聞で『敏腕監察官、汚職事件を摘発』の見出しと共にジルベルトの名前が庶民にも浸透した。
いわば、ちょっとした英雄になってしまったのだ。
王はことのほか喜び、我が一族の誉れだと褒めた。
しかし、ジルベルトは納得がいかない。
「これってロザンナの手柄だよね」
「何をおっしゃいます。ジルベルト長官の適切な指示がなければ摘発できませんでした」
「指示? したかな」
と首を捻った。
そんなジルベルトをロザンナは熱い眼差しで見つめた。
この部署に配属されて以来、ロザンナは上司のジルベルトのことを意識していた。
「……もしかして」
「はい」
ロザンナの胸が跳ねた。
「僕の顔に何かついてるの?」
ロザンナはがっかりした。肩を落として席に戻った。
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「クリス、僕に仕事をさせないの」
「公務は休ませてもらいます。それと身内の女性とも会っては駄目です」
クリスティーナがきっぱり言った。
「母上と妹にも会ってはいけないの?」
「はい。女ですから」
「それは殺生な話だ。ねえ、前から思ってたけど君ってちょっと極端なところがあるよ。それって治したほうがいいんじゃないの」
「ジルの女癖を治すほうが先です。その後ならいくらでもご要望にお応えします」
けんもほろろな対応だ。
ジルベルトは考えた。このままクリスティーナの言いなりになってしまったら、それこそ結婚後、尻に敷かれてしまうのではないかと。今回屋敷に閉じ込められたように、自由のない籠の鳥になってしまう。
(そんなのは嫌だ。籠から飛び出して自由に空を舞いたい)
ジルベルトは窓辺から外を眺めた。森の梢に飛び交う野鳥を見て決意をした。
「そもそも僕は本気で悪いとは思っていない。クリスに一泡吹かせてみせるぞ」
ジルベルトは手紙を書いて御者に手渡した。宛先は監察官事務所のロザンナ・カペッロだった。
届いた手紙を読んだロザンナはびっくりした。
「大変だ! 私がジルベルト様を助けなくては」




