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希望 4

王都アルバス郊外


古びた小屋の中。

マディラと共に、ジュリアンは慣れない針仕事を進める。

「ひょっとして戦力外?」

ジュリアンは、考え事をせずに集中しても彼女のように早く縫える自信がなく、質問をする。

「そんなことないよ。あ、じゃあ、こっちを手伝って」

まだ何かあるのか?と警戒をする。


「服を着せ終わった人形を包装してほしいの」

そう言いながら、彼女は部屋の奥から包み紙とリボンの束を持ってくる。

「この包装は袋状になってるから、一体づつ入れて口をリボンで閉じるだけ。」

「そっちの方がお役に立てそうだ」

針仕事から解放されて、安堵した表情のジュリアン。

新しい作業を始めると、ものの10分くらいで、50体ほどの人形の包装作業まで終えることができた。


全作業が完成をして、ほっとした表情で見つめあう二人。

完成品を眺めて嬉しそうに微笑むマディラに、彼が近づこうとした。

急に入り口の扉の隙間から光が漏れ出す。

「ほら、もう行かなきゃだめよ」

そう言って、ジュリアンをそっと扉の方へ押すマディラ。


え?何のことだろう。

彼は体を扉の方を向けつつ、顔はマディラの方を向ける。

「君も来るだろ?」

彼の問いかけに、ちょっと寂しそうな、困った表情をして彼女は動かない。

「私は後で行くから、先に行ってちょうだい。あ、そうだ、これを持っていて」

さっき包み終えたはずの人形が一体だけ残っており、マディラはそれを彼に手渡す。

「これ、試作品だからプレゼントじゃないんだけど」

う、うん……

よくわからないまま扉の前に進むと、ジュリアンは光に包まれて意識が遠のいていった。



――――――――――



ジュリアンが目を開けると、試練の間の扉の前に立っていた。

「おかえりなさいませ」

ジョナサンに声をかけられる。

あれはすべて扉の中での出来事か、と少し安堵する。

「『印』はお持ちでしょうか」


しまった

ジュリアンはそんなこと一切忘れていた。

印を入手できる場所はなかった……

財宝の中だったのだろうか


そう思い返しつつ、何気なくポケットに手を入れる。

そういえば、マディラから立ち去り際に人形ならもらった。

ふと思い出し、より奥深く手を入れる

予想と違ったものが手に触れる。

ひょっとして

と思い急いでその手に触れた物を取り出す。

人形はいつの間にか直径5センチほどのサファイヤに変わっていた。


「はい、間違いなく印を確認させていただきました。これで正式に王家へ入っていただけますね」

それを見て、ジョナサンは嬉しそうににっこりと微笑んだ。


彼女のおかげだ、ありがとう

小屋でのマディラを思い出し、とジュリアンは心の中でつぶやく。


「マディラは、もう出てきたのですか?あれからどれくらい時間が経ったのでしょう」

「婚約者殿はまだですよ。今は夕刻です。通常だと王子のように2-3時間、長い人で半日ほど、最長で2日の記録がありますので、もう少し時間がかかるかもしれないですね」

ジョナサンは、淡々と答えた。



――――――――――



女王の執務室。


「もう、3日目ですよ」

ジュリアンは、少し焦った声でソフィアに質問をする。

本来は、ジュリアンとマディラの二人が晴れて試練の間で印を持って帰ってきてから、引き継ぎをするはずだった。

だがマディラが部屋から出て来ず、ジュリアンが手持ち無沙汰だった。

戴冠式の日程を考慮して、極秘事項にならない情報から新王候補への引き継ぎを開始していた。

万が一、マディラが試練に落ちていても、ジュリアンほどの執務実行能力の持ち主であれば、アルバス城内での仕事をお願いしたいとソフィアが考えたからだ。


「歴代で、こんなに長い試練を受けた方はいらっしゃいませんでした。私も、心配は心配なのですが」

ソフィアも戸惑いながらそう答える。

「中で、体調不良になっていた場合はどうなるのですか?」

「その場合は、扉が自動的に開いて、外から人が入れるようになります。そうではないということは、マディラ様は、飲まず食わずで、睡眠も取らず今も試練を受けていらっしゃる可能性が高いです」

「その……『砂漠のデスマーチ』をですか?」


歴代の試練の間の挑戦者の証言から、室内でのシナリオは、2-30パターンほどに分かれることが判明している。

その中で、一番過酷と言われているのが『デスマーチ系』と言われる、絶望的な作業に従事したり、ひたすら何かの単純作業に関わるストーリー。

それも、砂漠をひたすら歩くパターンが一番長く、2日ほど閉じこもった候補者がいたらしい。

入室した者が体力おばけか、精神が病んだ際に国を破滅に導く可能性がある場合に展開される。

後者の場合、無事に退室するも、ほぼ全員が失格になっているとのこと。

ジュリアンは少し焦っていた。

彼女の場合、体調も心配だし、失格の可能性もあるからだ。


万が一、後者だったら?

いやいや、前者の可能性だってあり得る。

何せ、ジュリアンが風翁と対峙した時に、彼女は力を封じ込められた状況から、自分にかかった封印を自力で解いた上に、風翁のエネルギーの全てを無効化にしていたのだ。

それに……

そもそも、人間界で守衛に襲われた時、そのきっかけは自分の体力の限界に挑戦したいから学校に居残っていたという話だった。

あれは能力が解放される前のことだった。

結局、彼女のスタミナは、一体どこが底だったのか……?



――――――――――



マディラの試練の間


ずっと変わらない、見渡す限り砂漠の景色の中で。


もう、どれだけ歩いたかわからない。

意地でここまできたけど、どれくらいこの部屋にいるのかわからなくなってきた。

丸1日は、経っていると思う。

相変わらず日は天頂で輝き、足はいい加減棒のようになっている。

もう、五感が麻痺している状況だ。


あっ


砂に足を取られて、マディラはそのままうつ伏せに倒れる。

私、一生この部屋から出れないかもしれない。

なんで、こんなことしてるんだっけ……

そのまま、マディラの意識が遠のいていった。



――――――――――



二人が異国の地に来て10日。


ジュリアンは、王位を継ぐにあたり膨大な事項を記憶していくのに、卒なくどんどんこなしていっているらしい。

かなりのハードスケジュールにも関わらず、特に苛立ちを見せるわけでもない。

常に物静かで穏やか、人当たりも良い。

女王をはじめ、周りの評価は上々で、侍女たちにも好かれているという噂を聞いた。


王妃候補者は、国王と比べると覚えることが少ない。

それでも、日中はいろいろ予定が詰まっていた。

マディラの体調は、まだ本調子ではない。

ベッドに横になりながら、法律等記憶しなければならない事をまとめた書類に目を通していた。


自分は、試練の間に入って3日半後に出てきたらしい。

本来なら数時間、長くても半日で多くの挑戦者が戻ってくる。

入室当日は、ジュリアンやジョナサンが地下でマディラの試練の終了を待っていたらしい。

けれど、全く出てくる気配がないため、地下の守衛に様子を見守らせていた。

4日目の夜遅く、ずっと音沙汰のなかった扉が突然開いた。

光に包まれて現れたと思ったら、手にしていた直径5センチほどのサファイアを守衛に渡し、その場に倒れてしまったらしい。

その後、この後宮まで運ばれ、1日半ほど眠って、ようやく目を覚ました。


扉を自分から開けた記憶は全くない。

目が覚めたらつわりは収まったため食欲はあり、なんでもよく食べるようになっていた。

ただ、いまいち眠気のためぼーっとし、侍女にも気が利かない言動をしている。


試練の間を出た時から、一度しかジュリアンを見かけていない。

その時は、周りに女王や色んな人がいたため、事務的な打ち合わせで終わった。

そもそも、彼と二人っきりでまともに喋ったのはいつが最後だったか……。

妊娠をしていることが彼に伝わり、自分の寝室に来た時ではないか。

そのあと、父王の命令が出たと言いに来た時も、彼の部下がいたり兄が乱入してきたので会話らしい会話もせず。

次に会ったのは扉(ゲート)をくぐる当日で、それもすぐにジョナサンがいたので二人きりで話す機会はなかった。


もう、何がどうなっているか、さっぱりわからない。

目まぐるしく変わる状況。

彼の、食い違う説明。

なんで自分はこんな目に遭っているのだろう?

わからないどころではなく、むしろ彼に対して不信感すら募らせていた。

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