希望 2
グリーンフレードム国 アルバス城 謁見の間
謁見の間の大きな扉が開かれ、ジュリアンとマディラは静かに歩を進める。
部屋にはこの国の主人である女王ソフィアが王座に座っていた。
見た目は50代後半くらいだろうか。
顔立ちは柔らかく、穏やかな笑みが絶えない。
その瞳には深い知恵と鋭い観察力が宿って、全体的に歳を重ねた優雅さが感じられる。
少し灰色がかった白銀のような美しい色の髪はきちんと結い上げられ、髪の一部には上品な髪飾りが付けられている。
耳には小ぶりながらも存在感のあるダイヤのイヤリング。
深い紫と紺のロングドレスには細かな金糸や銀糸で刺繍が施されており、花や王家の紋章をモチーフにしたデザインが美しく輝く。
袖口や襟元にはレースがあしらわれ、彼女の上品さを引き立ていた。
「ジュリアン・アレクサンダー・ド・ソレイユ殿と、その婚約者マディラ・イザベラ・ジュリエット・エレオノール殿です」
執事が二人を紹介し、女王とジュリアンが挨拶を述べる。
しかし、マディラはここでも違和感を感じた。
なぜ、二人の姓であるモンティセルロとヴィンランドを省略して紹介されたのであろうか。
養子に入るから必要ないってこと?
女王は優雅に微笑み、静かながらもはっきりとした声で語りかけた。
「遠路はるばるお越しいただき、ありがとうございます。また、我が王家に入ってロワイヤルを名乗っていただける事、嬉しく思います」
その声には、感謝と敬意が込められており、彼女の誠実な思いが伝わってくる。
言葉の一つ一つは慎重に選ばれ、相手に対する温かさと期待が織り交ぜられていた。
「ただ、お越しいただいて早々、慌ただしくて申し訳ないですが、この後すぐに『試練の間』に入っていただき、我が王家に相応しい方か見させてください。」
女王は落ち着いた口調で、二人に語りかける。
「特にジュリアン様は王位を継承いただくに相応しいかどうか……我が国のしきたりですので、お二人に限らず、私含め歴代の国王と王妃はこの儀式を行なっておりますので、どうかご容赦いただきたく。」
彼女は、儀式の重要性を伝えるとともに、相手への配慮を見せた。
そのの眼差しは、二人をしっかりと捉えている。
儀式の重みと歴史的な意味を理解するよう、促しているかのようだった。
「承知いたしました。」
ジュリアンは返事をする。
マディラと二人でもう一度頭を下げて敬意を示し、礼をして退室する。
侍従が部屋の外で待っていた。
一息つく間も無く、二人は再び廊下を歩いて今度は城の地下へ案内された。
――――――――――
城の地下 試練の間の控室
地下では、さっきまで一緒だったジョナサンが待っていた。
ジュリアンとマディラは、ここで小休憩を兼ねて軽食を取りつつ、試練の間の説明を聞いている。
どうやら、王家の直系であってもこの部屋で「一定の能力を持っている者」と認定されないと、王位が継げないらしい。
ソフィアとその王配の間には3人の娘がいた。
その娘達も、そして娘の婚約者も試練の間で認定されず後継者候補が国内にいなくなった。
今回、ニーベルから能力が高い者を養子に迎えることとなったとのこと。
「今回お二人とも王家へ入っていただく予定ですので、両名とも試練の間で認定を受けてください。万が一どちらか認められない場合は、お二人とも王家へ入らず、ニーベルにも戻らず、この国で一市民として滞在すると聞いておりますが、それでよろしいでしょうか?」
ジョナサンは、事務的にジュリアンとマディラがニーベルに戻るつもりがないことを確認する。
「はい、それで大丈夫です」
どうやら、あらかじめジュリアンは養子の交渉時にそのように話していたらしい。
二人とも準備ができたので、試練の間がある廊下に移動をする。
同時に二人が試練に挑戦できるらしい。
なんの変哲もない、古ぼけた扉が二つ、そこには並んでいる。
そのふた部屋に特に違いはないと言われたので、先に歩いていたジュリアンが奥の扉の前に立ち、手前の扉の前にマディラが立った。
「ニーベルの方々はほとんど落ちたことはありませんが、この扉では国王の能力と気質が測られます。認められたものは『印』を持ち帰ってきます。では、行ってらっしゃいませ」
ジョナサンのその言葉を受けて、二人は扉に手をかけて、別々の扉の向こうへと消えていった。
――――――――――
ジュリアンが選んだ試練の間
扉を開けると、そこは、グリーンフレードムの王城、アルバス城の城内だった。
ジュリアンは、一旦扉を閉めた。
再度戻れるか後ろを振り返っても、そこに扉はなかった。
——なるほど。
何かしらの結末を迎えないと、戻れないか。
いつの間にか、瑠璃色の豪華な金や銀の刺繍が入ったジャケットを着用している。
権威を示すために豊富な装飾が施されている。
また、紋章が大きくあしらわれたマントも着用していた。
少し歩くと白い大理石でできたバルコニーがある。
眼下には広大な国土と、数万の兵がひれ伏している。
部屋の片隅には、山のように積まれた金銀財宝が輝いている。
再度振り返ると、宮殿内の様子が変わり、華やかなパーティーが繰り広げられていた。
高級なシャンデリアが煌々と輝き、音楽が響く中、貴族たちが彼のために贅を尽くして集っている。
広間をゆっくり歩くと、皆跪いてジュリアンに挨拶をする。
室内の横の半個室となってる一角に、貴族のような衣装を着たサロモンがいた。
きれいに着飾った女性を従え、食べ物を口に運んでもらっている。
ジュリアンと目が合い、サロモンが呟く。
「お前、既に立派な肩書も財産も持ってたじゃないか。さらなる富も権力も武力も手に入れて、何がしたいわけ?」
いまいち状況がわからない。
友人の言葉に返事もせず、彼は使用人に案内されて玉座に着く。
周囲には美しい女性たちが集まってきた。
彼女たちは、艶やかなドレスを身にまといながら、彼に近づき、軽やかな笑みを浮かべていた。
目を合わせるだけで、その瞳に潜む熱が感じ取れるほどに、彼女たちは彼に視線を注いでいた。
一人の女性がそっと彼の肩に手を置き、まるで偶然を装うかのように指先を滑らせながら、優しく囁いた。
「今宵は、王に尽くしたいと思っております。」
彼女の声は甘く低く、どこか挑発的で、その響きは彼の耳元を撫でた。
彼の指には、いつの間にか冷えたワイン用の杯が握られていた。
別の女性が、その杯に鮮やかな赤のワインを注ぐ。
ジュリアンは促されるままその液体を喉に流し込む。
次々と差し出される酒に、浸るように酔っていった。
女性たちは近づき、彼の周囲に座り込んでいる。
一人は膝に座り、まるで偶然のように身体を預けてくる。
もう一人は彼の背後から腕を回し、肩越しに甘い笑みを浮かべながら耳元で囁く。
「すべては、王のお望みのままに……」
その声は低く、吐息が彼の肌を撫で、まるで指先の触れ合いと同じくらいの重みを持っていた。
彼は意識朦朧としながら、無言のまま彼女たちの誘惑を受け入れた。
彼女たちは優雅な手つきで彼に触れ、衣服の端を軽く引きながら、薄く露出した肌にそっと触れる。
その仕草はエロティックでありながら、巧妙に節度を守っていた。
ジュリアンがグラスの酒を飲み干すと、彼の周りの女性たちは一層親密に寄り添い、ただ彼に仕えることだけを求めているようだった。
彼は、まるで世界が自分のためにあるかのように感じる。
目の前に広がるこの贅沢な光景と、その全てを掌握した感覚に酔いしれていった。




