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旅立 9

マディラの部屋付きの謁見室


マディラ、ジュリアン、そしてパトリック王子の3人だけがこの部屋に残っている。

二人とも急にふっと柔らかい表情になり、外で話すような険悪な雰囲気がなくなる。

「お前のことは、目をかけていたのに、こんな形で手放すことになるとは、と陛下は嘆いていたよ」

「何とでも言っていただいて結構ですよ。」

パトリックの話に、ジュリアンは苦笑しながら答える。

「親王派の筆頭格だったらしいですからね、僕。大体、僕は選択肢を提示しただけで、選ばれたのは陛下ですよ」

ジュリアンのしれっとした顔に、パトリックはやれやれという表情で答える。

「やりとりの又聞きだけど、あんなふうに言われたら、普通は実績があるやつを選ぶだろう」


ふと気になった事を、ジュリアンが口にする。

「登録抹消されますかね、翁のリスト。」

「どうだろうな、登録を抹消しても、すぐに出現するとも限らないし。

出現したやつが、歴代最高の英知といわれたお前と生きて比べられるなんて、たまったもんじゃないと思うぞ。

まぁ抹消せず、当分は空位でいいんじゃないか。英知が居なくたって、誰かが戦略立案するさ。」

そこまで話し、一呼吸おいて、ため息混じりにパトリックが呟く。


「お前がいなくなると、寂しくなるな。」

「緑の世界に飽きたら帰ってきますよ」

幼馴染の残念そうな顔に、茶目っ気たっぷりに返すジュリアン。

「そう簡単に任務を投げ出すようなやつじゃないのはわかっているさ。陛下じゃないが、お前のような優秀な人材が流出するのは痛いが、妹がいるせいで父上は枕を高くして寝れないらしいし」

呆れた風に返す皇太子。

本当にどうしようもない父親だ、と言わんばかりの表情だ。


「敵に回るようなことだけはしでかすなよ、お互い腹が読める仲だし、お前のような手強い相手と互角にやりあう自信がない」

「またまたご冗談を。僕如きが王族に敵う訳ないですよ。」

そんなパトリックの真剣な意見に、まだ穏やかな笑顔で返すジュリアン

だが次の皇太子の一段低いトーンの言葉に、急に顔が引き締まる。


「次回会うときはこの国もどうなっていることか。駆逐作戦なんて今やらなくても……父上の疑り深くて強引な性格で、今、国内では不満が続出している」

そう言いながらパトリックがチラリとマディラを見た。

彼女は二人が何かを話したいのだと察し、そっと退室をする。


「……ここだけの話だが、反国王一派によるクーデターの情報も出てている。有事の際にお前が反乱分子に加担するのか父上につくのかはわからないが……」

彼は一瞬言葉を切り、軽く肩をすくめて続けた。

「そうなる前に国外へトンズラするのは一計かもな、お前も。そしてマディラも再び利用されないとも限らないし」

その言葉には、皮肉と警戒が交じり、まるでジュリアンの動向を探るかのような響きがあった。

彼は冷静な表情を崩さず、わずかに笑みを浮かべて応じた。


「このタイミングで行くのはたまたまですよ。陛下が養子の話を先送りにしたから今になっただけで、それに掃討作戦が重なっただけです。」

皇太子の視線は鋭く、ジュリアンの言葉の真意を探るように彼を見つめていた。しかし彼は、それを気にせず続けた。

「それにクーデターのことは知ってましたよ。つい先日、接触がありましたから。あなたが先導しているのですか」


皇太子は一瞬だけ驚いたように眉を動かしたが、すぐに冷笑を浮かべて答えた。

「まさか。噂は聞いているが、俺が主導するわけだろう、なんの旨味もないのだから。」

彼の口調は軽いが、その裏には深い計算と慎重さが感じられた。

「危険な目に遭わないように、当面は静観だよ」

パトリックは天井を見上げながら呟いた。

「なるほど、そういう状況でしたか。」

ジュリアンの返事は穏やかだったが、彼の目には一瞬の鋭さが見えた。

皇太子はその視線に気づかないふりをし、再び余裕の笑みを浮かべていたが、

二人の間には何か目に見えない緊張が張り詰めていた。


ジュリアンはふと、部屋の隅に置いておいた荷物に進む。

その中から封筒を二つ取り出した。

一つは赤い封蝋が、もう一つは黒い封蝋がついている。

どちらも英知翁が封をしたことを表すマークが入っている。

「なら、こちらをどうぞ。ちょうどこの後、皇太子殿下にこちらをご高覧いただこうと思っていたところです。」

そう言いながらパトリックに渡した。

「提案書は2パターン作っておきました。一つがクーデターを起こさせない前提で掃討作戦を実行する場合、もう一つは異国の民が侵入してきたのは罠で、クーデターを進行させると仮定した場合です。ご要望があれば、2両日中であればシナリオ変更をしますよ。」

そこまで説明し、チラリと皇太子の反応を伺う。

「もっとも、加筆修正の余地はないと思いますが」

ジュリアンは冷静に一言付け足す。


「作戦進行中に不測の事態が起きたらどうするんだ。お前がいなければ対応できないんじゃないか」

本人がいなくなるのに、そんな先まで想定されたものを自信たっぷりに渡され、心配そうな表情を浮かべる。


「その辺も加味してありますよ。情報が集まれば集まるほど、考えれば考えるほどこの2案に集約されて、そこに記してある以上の不測の事態が起きようもありません。プログラミングを組んで無限試行をして得た結論です」

「こんな短時間でよく二つも作戦を作ったな。さすが英知翁だ、大した奴だよまったく」

パトリックは、プログラミングなるものの知識は全くない。

しかし英知翁がそこまでキッパリと断言するので、驚きの表情をする。


「ええ、本当に大変でしたよ、こんな短時間で大規模な作戦を一つ練るだけでも大変なのに、対案も作って、おまけにグリーンフレードムとの交渉もこなしたんですから」

そう、わざと嫌味な事を茶化していうジュリアン。


「そのうちどちらを国王に渡すかはあなたに任せますよ。選べる未来は、一つしかない。二つを混ぜることはできません。」

すぐに真剣な口調に戻し、淡々と話す。

「どちらも「代価」を支払う必要がありますが、それぞれ、それに見合う未来なのか、王家としてよくご検討された方がいいと思います」

しばし真顔で二人は見つめあう。

「お任せはしますが、渡さない方は確実に処分して、他人の目に触れるようなことは絶対ないように」

その一言だけは真剣な眼差しで、重々しく皇太子に忠告をした。


二人の会話は終了となり、まずパトリックが退出したので、マディラがとジュリアンの様子を見に行く。

次の予定があるから、と、すぐにジュリアンも行ってしまうという。

「証言が食い違う場面に遭遇するかもしれませんが、いつか必ず説明しますので、私を信じてください」

別れ際、ジュリアンは王女に言い残した。

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