旅立 7
王宮の外回廊脇
黒装束の二人組が同時にジュリアンに襲いかかる。
だがパソコンや荷物を利き手で抱えており、帯刀していたが剣が抜けない。
ジュリアンは腕を鋼化させる呪文を咄嗟に唱えた。
後方から来た剣を左腕で直接防御。
右足を蹴り上げ前方の人物の腕から剣を落とすことに成功する。
そして相手が怯んだ隙に後方にジャンプ。
二人組から間合いを取る。
「さすが英知殿。お噂では、極秘任務で前戦に行かれていたと聞き及んでおりましたが、文官らしからぬ身のこなし。」
黒装束の一人が声をかける。
「……そして頭脳明晰でお家柄も良い。是非とも我らの同志として、より良い国を築く一役を担っていただきたい」
「……」
無言で応じるジュリアン。
「一つお伺いしたいのですが、陛下のことはいかにお考えでしょうか」
「——何が知りたい」
もう一人の黒装束の質問に対してジュリアンは返事をせず、逆に質問をする。
まずは彼らの真意を確かめたい。
「猜疑心の強い陛下は、民の方を向かずに暴走気味で、求心力が低下しています。我らは、よりふさわしい方に王座についていただこうと、秘密裏に活動しているのです。陛下か我ら、究極的にはどちらにご賛同されるのか」
「どうでもいい」
ジュリアンは、短く感情なく吐き捨てる様に言う。
「え?」
予想外の返事に、思わずたじろぐ黒装束たち。
彼の表情は、学院時代、史上最悪に残忍な戦略を立案したという噂を信じるには、十分に冷徹だった。
「僕は親王家でも反王家でもどちらでもない。自分の任務をこなすだけだ」
「それはどういう意味で——」
「説明する義務はない」
冷血な戦略家は答える。
「ぐ……どうであれ、われらにご賛同いただけないのであれば、すみませんがこの場で始末させていただく。この話を知られて、そのまま帰すわけにはいかない」
片方の男が、手に持っていた剣を握りなおす。
ジュリアンに飛びかかろうと構える。
「——このまま、この僕があっさりと君たちにやられると思うのか?」
英知翁はゆっくりと口を開く。
「今の話は聞かなかったことにするから、引き下がってくれないか。」
その声は低く落ち着いており、まったく動揺を感じさせない。
「もし決着をつけようとすると、騒ぎに気付いて人が来るぞ。計画に支障が出ると思うが」
ジュリアンの視線は鋭く冷たい。
挑発でもなく、恐怖を煽るわけでもない。
ただ冷静で淡々としたものでありながらも、圧倒的な自信がにじみ出ていた。
——まるで相手を全く脅威とは見ていないかのように。
「——一旦引こう」
「だがしかし……」
武器を落としていた方の覆面は、剣を拾って鞘に収めつつ、相棒を引っ張る。
剣を構えている方が、まだその姿勢を解かず、覆面同士で意見が分かれているようだ。
「王家とか、クーデターとか、僕にとってはどうだっていいんだ。ほっといてくれ」
そうつぶやくジュリアン。
その雰囲気は、どこか無関心さを漂わせている。
その言葉を聞いて、ジュリアンは反乱に対し興味がないと伝わったのか。
もう一人も、このやりとりも他言しない事を悟ったのだろう。
剣をしまいながら念を押す。
「ジュリアン様、くれぐれもこの件はご内密に」
ジュリアンが無言でこくりと頷くのを見届け、二人組は立ち去る。
ハーっ
深いため息。
次の瞬間、彼は膝から崩れ落ちる。
「ハッタリが効いてよかった……誰だったかわからないけど、こんな状態で二人組を相手にできるわけないだろう」
そうつぶやきながらゆっくりと体を起こす。
彼は車寄せへに向けて歩き出す。
そう、本当にどうだっていいんだ。
王家とか、そういった話はもう。
今はただ、体を休めよう——
――――――――――
国王の執務室
国王と、彼直属の秘書官数名が事務的な打ち合わせをした後、国王とジュリアンが二人きりになっている。
「先日、グリーンフレードムからの使者が来ておりましたが、そろそろ返答を出して欲しいと申しております」
彼は報告を淡々と進めつつも、その言葉には微かに焦燥感がにじむ。
「なんだ、そんなことより作戦の件はどうなった。いつまで待たせるつもりだ」
国王は椅子に深く腰掛け、疲れを隠せない様子で腕を組んだ。
彼の声には苛立ちと焦りが混ざり、ジュリアンの報告を一蹴するような冷淡さがあった。
「もう間もなくお出しいたします。」
国王の注意を逸らさないように冷静に続ける。
「一度皇太子殿下にお目通しいただいてから陛下にご高覧頂こうかと思いまして。その一方で、こちらも放ってはおけない問題です。」
彼は慎重に言葉を選びながら回答する。
「ふん、わかっておるが、これから作戦を実行するに、政務が行える年齢に達した能力が高い王家の直系や傍系男子が必要だ。おいそれとよくわからん異世界に送り込めるわけないだろう」
国王は手を振り、面倒事を払いのけるかのように答えた。
「しかし、条約を守らなければ、あの国からの扉はわが国にのみ開くという約束が守られず、ひいては異文化の民が異世界経由でわが国に侵攻してくる恐れが。攻略どころか逆に侵略されます」
「む……」
ジュリアンの指摘に国王は眉をひそめ、突然の沈黙の中で考え込む。
国王の心の中には不安がよぎるが、それを表に出すことなく威厳を保とうとしている。
「——こちらの状況をお伝えしたところご理解いただき、あちらから妥協案が出まして。
女子でも構わないが、血の濃さを保つため、上流貴族の未婚男子も同時に来させるのであれば、とのこと」
「つまり?」
「マディラ様をグリーンフレードムの王家に養子に入っていただき、上流貴族の文官を送れば作戦にあまり影響ないと思います。」
ジュリアンは、国王が納得するように穏やかな声で報告を続ける。
彼の表情は冷静そのもので、妥協案が解決策であることを強調している。
「ふん、前線に出れないカスを交渉の駒に使うか」
「ただ——」
ジュリアンは言葉を続ける。
「姫には懸念点ありますので、万が一、彼女が例の力を解放された際に、同行者は我が国への被害を最小限に抑えれるストッパーの役割をしていただきたいですね。そうすると、実質上位3家系で未婚の方々でないと務まらないかと。その条件の術者は3名おります……」
秘書官の冷静さがかえって会話の空気をより緊張感に満ちたものにする。
「回答期限まで時間がないので、直系のパトリック様マディラ様、傍系のヘンリー様アレン様のどなたに養子になっていただくかお決めいただけますか?」
「娘を外に出した場合、誰が同時に抜けるのだ」
国王の苛立ちを見せながら問う。
「翁の選択肢は暁、豊穣、英知です」




