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葛藤 3

王宮内 栄誉の大広間


王宮の中でも格式高いこの場所は、高い天井には黄金と深い青のモザイクが描かれている。

四隅に配置された巨大な柱は古代から続く王家の力を象徴するように厳かに立っていた。

天井の中央には、大きなシャンデリアが輝き、光を放って広間全体を優雅に照らしている。


赤い絨毯が中央を走り、両側には重厚な木製のベンチが配置されており、そこには貴族や宮廷の高官たちが列席していた。

壁には歴代の王や英雄たちの肖像画が飾られており、歴史と威厳が漂っている。


国王は、神聖な剣を持ち、正式な儀礼服に身を包んだジュリアンの肩に軽く触れ、彼を正式に英知翁に任命する儀式を取り行った。

叙勲の証として、彼には翁としてのシンボルである紋章が授けられる。

これにより、彼は正式に新しい役職を得て、貴族としての責務を果たすことが求められる立場となった。

彼は、拍手喝采の中で大広間を退出し、貴族たちからの祝福を受けた。


叙勲式後の列席者との歓談の席では、ジュリアンはじめ、今回各種任命を受けた貴族達と、それを祝福する関係者が和やかなひと時を過ごしてしていた。


「おめでとう。今まで世捨て人のように任務を放棄していたが、やっと出仕する気になったか。

自分で仕事をするタイミングを選べるなんて、いい身分だな」

叙勲式に出ていたパトリックから、お祝いの言葉と同時に皮肉なコメントをもらうジュリアン。

皇太子の背はジュリアンと同じくらいの高さだが、しなやかで鍛え抜かれた肉体に王族にふさわしい華麗な軍装を身に纏う従兄弟は、並ぶとかなり存在感が違うが、今はさらに高圧的にジュリアンに近づく。

彼に握手を求められたが、その嫌味に答えず一瞥をし、「どうも」と一言だけ答え、握手をせずにジュリアンはその場を立ちさり、父親に呼ばれて軍幹部に挨拶をして回る。


それを見ていた20後半の風貌の先輩貴族が、呆れたように同期の軍服を着た青年に話しかける。

「おい、あれ見たかよ。英知翁は国王のお気に入りか何か知らないけど、えらくお高く止まってるな。皇太子にもあの態度だよ。」

あぁ、と頷き、手にしたワインをグイッと飲み込んで、面白くなさそうに軍人が返事をする。

「パトリック様が陛下と思想を異にしているからだろう。あいつにとってみれば、陛下以外みんな敵なんじゃないか」

「皇太子様は我らの味方だもんな……。以前、皇太子様が貴族の意見も尊重したほうがいいと進言したところ、一般貴族に迎合しているなんて、と陛下に非難されていたしな」

「その後だったか、パトリック様が我らのためを思って施策を立案しようとし、英知にその話を持ちかけたところ「あなたのためには策は作らない」って断ったらしい」

へぇ、そんなことがあったのか、と先輩の文官が驚きながら返事をする。


「軍幹部を親に持ち、陛下の片腕にもなれば、強気に出ても誰も逆らえないからな〜」

ジュリアンの父の土翁は、若い頃かなり武勲を立てたらしく、鬼神の異名を持っていたので、表立って彼に喧嘩を売るような貴族はいなかった。

そんな会話に、先輩貴族達からさらに年上の風貌の、中年の貴族が加わる。

「若造だけど、誰にも媚びる必要がないってか。鼻につくね」


その話を、パトリックは密かに聞き耳を立てていた。

学院時代、ディベートの授業でジュリアンとパトリックは意見が衝突したのち、あわや取っ組み合いの喧嘩になるという出来事があった。

それ以来、この二人の従兄弟は仲が悪いとされている。

突っかかったパトリックは、この時は芝居ではなく本気でジュリアンに腹を立てていたが、この二人は授業後に密かに仲直りをしている。


王家およびヴィンランド家は、ここ数年の国王の暴政で、微妙な立場に立たされている。

それを知ってかしらずか、今回国王はジュリアンの英知翁承認とともに、国王の秘書官に任命した。

彼は国王をそばで直接サポートし、国政や軍事に深く関与する立場となるが、状況次第では国のNo.2や他の高官よりもさらに国王に近い立場になる。

そしてジュリアンが、数名いる秘書官の中で頭角を現せば、将来的には宰相や軍の最高指導者など、若くしてさらに高い役職に昇進する可能性も出てくる。


父王の言い分は、「優秀で自分に従順な者で周りを固めて何が悪い」ということらしいが。

確かに、クーデターを企てた風翁を見事に牢屋送りにした上、気に入ってはいないとはいえ、反乱に利用されかけた姫を守り抜いた騎士(ナイト)なのだ。

それを国王は純粋に評価しただけだった。

また以前、ある集団が、10歳になったばかりの英知の翁子を利用して、危うく反乱の片棒を担がされかけたので、ジュリアンを他の貴族から遠ざけた方がいいという話は出ていた。


だが、長年王家に仕えてきた者にとっては、学院を卒業したばかりの若者の、重要ポストへの配属は面白くないかもしれない。

叙勲の話をジュリアンにしたところ、当初かなり戸惑っていたが、最終的に受諾をした上、自分を悪者にして構わないと申し出た。


多くの貴族は、彼の国外での特務について知らない。

ジュリアンは今まで学院に長く留まりたいと我儘を言った挙句の、急な抜擢人事が気に入らないという声は上がっていた。

そこで、敢えて公衆の面前で皮肉を従兄弟に伝えるという茶番を、本人同意の上でパトリックはしたのだ。


「いやはや、今後この国はどうなるんだかね」

会場にいるそれぞれの貴族たちの言い分を思い出し、グラスに残っていたワインをクイっと飲み干しながら、パトリックはぽそりとつぶやいた。



――――――――――



王宮内 マディラの部屋


城内での生活も10日ほど過ぎたある日の午後。

「パトリック様がお見えです」

そう侍女に声をかけられて、すぐ後に颯爽と現れる腹違いの兄。


「お兄様、ご機嫌麗しゅうございます」

ソファーにて書類に目を通していたマディラが立ち上がり、皇太子に挨拶をする。

「良い、俺に気を遣わなくて良いから」

そう言いながら、彼はマディラのソファの向かいの一人用の椅子に腰をかける。


「どうだ、こっちの生活にも慣れたか?というか、幼少期の記憶はあるのか?青の世界はこことは随分違うと騎士(ナイト)から聞いていたが」

「残念ながら、幼少期の記憶はほとんどありません。ただ、城の配置や生活の決まりを聞けば、すぐに慣れていますので、実は色々覚えているのかもしれません。また皇太子妃メアリー様にも色々ご配慮いただきまして、大変感謝しております。」

「そうか、あれがよくしてくれたか」

出されたお茶を飲みながら、妹の話を聞いて満足そうな顔をするパトリック。


「そういえば、目下の課題は、ひょっとして見合い相手選びか?作法などはすぐに思い出せても、王宮に出入りする人間を一度に大量に覚えて、その中から父上がご納得される相手選びは、さぞかし大変であろう」

「そうですね……おっしゃる通りです。お兄様は、どなたか良いかたをご存知ですか?」

そう言いながらマディラは、使用人にお見合い写真をいくつか持って来させて、自分と兄のソファの間の机に置く。


父王は、異母妹(いもうと)を側に置いておきたくないので、早く辺境の地送りか幽閉をしたい。

しかし、当面はもっともらしい口実がないので手っ取り早く、見合いをさせて王族との婚姻ではなく貴族の元へ降嫁させたいようだった。

「いいやつはもう相手がいるからな……曲がりなりにも俺の義弟(おとうと)になるから。あ、これとこれは外してほしいな」

皇太子はアドバイスをして、どんどん候補者を減らしていく。


「騎士団長ファランの息子、ユリウス。有能だけどその自慢の腕力で、お山の大将的な奴だな。騎槍の翁子か。正式な翁への就任はまだみたいだが、お前より年下だからな。悪くはないが、ちょっとヤンチャな噂を聞く。男らしい奴が好みなら、こういうのも良いかもな」

「財務大臣カーヴァンの息子、リヒト。伝令翁か。 今は文章管理などの部門のリーダーをしてたな。学院時代から目立たなかったが、悪くはない。話してみて、お前が気にいるか……」

なぜか兄の方が、妹の相手選びに夢中になり、あっという間に候補者が二人に絞られたのであった。

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