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離別 5

蒼達の屋敷内


「やっとお前と対戦できる。あの時の続きをしようじゃないか」

屈強な男は、不敵な笑みを浮かべて一歩前に出る。


ひと組の男女が、対峙する彬をじっと見据えていた。

「イグナシオ、行くよ」

男にそう呼びかけながら、女は柔らかく指を動かすと、空気が急激に渦を巻き、冷たい風が彼女の周りに広がり始めた。

イグナシオは手のひらに炎を灯し、燃え盛る火球を形成する。

二人の呼吸が揃うと同時に、彼らは一斉に攻撃を仕掛けた。


この二人、風水師の姉弟(きょうだい)か。

その術を見た瞬間、”学院”の模擬戦闘で見てきた、上級貴族の同級生たちとは違う技の型で、彬はそう判断した。


風が鋭利な刃となって彬に襲いかかる一方、火球が唸りを上げて彼の周囲を取り囲む。

だが、彬は冷静だった。素早く手をかざし、堅固な結界を生成する。

風も炎も、その結界に阻まれ、彼に到達することはなかった。


「まだだ……」彬は呟きながら、彼の指先が輝き、口元がわずかに動くと、最初の攻撃魔法が放たれた。


「アエテルヌム・フランマ」

彼の声が響き渡り、燃え上がる青白い炎が両手から放射された。

この炎は通常の炎とは異なり、触れたものを凍結させる冷たい魔法の炎だった。

風使いの姉に向かって放たれた炎は、彼女の風のバリアにぶつかり、瞬間的に凍り付き、彼女の防御を一部封じ込めた。

しかし、彼女はすぐに風の流れを操作し、その氷を粉々に砕いた。


彬は同時に他の呪文を唱えていた。

「テラ・スパーダ」

氷の炎の放出から一瞬遅れて地面が震え、大広間の床板が裂け、地面から鋭利な石の剣が出現し、風使いの姉と火球を操る弟に向かって一気に突進した。

だが、弟は素早く炎を操り、その石剣を焼き尽くし、姉は風の刃で残りの石を砕いた。彼の攻撃はどちらも、

敵に大きなダメージを与えるには至らなかった。


両者の激しいぶつかり合いによって、通常の建物であれば半壊してもおかしくない。

どうやら、不思議な力によって、戦闘の衝撃がこの大広間を超えて漏れることはないらしい。


光の槍が彬の手から放たれ、まっすぐに男に向かって飛んでいった。

その輝きは目を焼くほどに強烈で、一瞬だけ大広間が真昼のように明るくなった。

しかし、イグナシオは火球を盾のようにしてその槍を弾き返し、槍は壁に突き刺さり、光の爆発が生じた。

姉も、風で弟が弾き漏らした分を押し返す。


彬の攻撃はことごとく無力化され、ダメージを与えられないままだった。

「お前の術は効かない。終わりだな……エアリア、あれをやる」

男が笑みを浮かべながらそう宣言すると、さらに大きな火球を作り出し、女も風をさらに強力に渦巻かせる。

二人は勝機を確信しながら、トドメの一撃を放とうとした。


その瞬間、「ここからだ……!」と呟きながら、彬は召喚用の呪文を同時に唱え終わる。

大広間全体が震え、空気が重く圧し掛かるような感覚が広がった。

すると、突如として床から、木の精霊ドライアドが、3メートルほどの巨大な鎧を抱えて出現した。


「シャドウアーマーだと!?貴様にそんなものが扱えるか!」

屈強な男がそういい、渦巻いた炎を纏い突進してくる。


陸軍の巨大兵器であるシャドウアーマーは、腕力で各種レバーを操作して攻撃を仕掛ける。

ギアで負荷をどんどん重くしていくことで攻撃が強くなるのだが、彬のような非力な術使いでは、使いこなすどころか、まず一番軽いレバーを動かすことができない。

イグナシオはそれを見抜いていた。

「ただの盾としてこんなものを召喚したのか。完全な宝の持ち腐れだな。お前のようなヒョロっちい術使いでは使いこなせまい!」


「クァぁぁぁぁぁぁ、動けーーっ!!」

彬は叫び、相当量のエネルギーを、本来鎧の操作レバーがあるはずの場所に叩き込む。

「魔力でそれが動くもんか!」と、エアリアも指摘する。

だがその時、鎧が急に動き出し、その存在感は圧倒的だった。


姉弟の攻撃はその鎧に跳ね返され、炎の渦は消え、風は鎧に吸い込まれるように無力化されていった。

鎧は咆哮を上げて大きな腕を振り上げ、圧倒的な力で反撃の一撃を放った。

その力に耐えられなかった風水師の姉弟は致命的なダメージを負い、倒れ込んだ。


静けさが戻った大広間で、肩で大きく息をしながら彬は鎧を見上げ、そして一歩前へ進み出た。

彬が何か呟き、精霊ドライアドと共に鎧は瞬時に姿を消す。


イグナシオの言う通り、本来は武官の兵器なので物理的に重く、エネルギー以前に、相当の怪力がないと使いこなせない。

パトリックに増援依頼を断られた時、代わりにと言って渡されものがこれだった。

恐らく、見合いの前に父親に刺客について相談をしたから、彼がこれを皇太子に託したのであろう。

陸軍が絡んでいると思われたくないので、彬は召喚魔法を逆転させて亜空間に鎧をすぐに格納した。


鎧は土翁の計らいで、使い捨ての、エネルギー装填カートリッジが外付けされていたおかげで、彬のエネルギーだけで鎧を動かせた。

しかし、もっと腕力があれば、カートリッジにエネルギーを満タンにしなくても術が発動できたのだが、どうやら自分が非力すぎて動かなかった。


この時ばかりは、本ばかり読んでないで日頃から筋トレをすべきだったと、彬は後悔する。

思ったよりも体力を消耗し、もしも次に何か攻撃が来たら耐えられないかもしれない。

そう思いながら、彼は風水師姉弟の前に行き、話しかける。


「……何故ですか。なぜ姫を手中に納め、王家に復讐を誓っているのですか」

「我々の尊敬する、大事な父親が裏切られて殺され、敵討ちを誓わない子供がどこにいる!」

彬の疑問に、イグナシオが答える。


「父親?」

「王家のお抱え風水師だったオーロス、無実の罪を着せられて王家によってお家断絶されたのさ」

エアリアが返事をする。


風水師——能力的には、上級貴族よりも一段劣るが、国土の要所を守る上で活躍している能力者たち。

彬の父親のような軍とはまた違った立場で、各地域に密着した活動を行っている。

風水師はもちろん、王都の要所でも活動している。

それがオーロスだった。

つまりオーロスは、並の貴族よりも王家の信頼を集めている、風水師の中で唯一、宮廷にも出入りできる存在だったのだ。


「それは……本当ですか?何かの間違いでは?」

「間違いなわけないだろう!でなきゃ、なんで父親がある日突然失踪し、死体で見つかるんだ」

彬の疑問に対し、イグナシオが叫ぶ。

が、彬が次の瞬間口にしたのは、三姉弟が把握していない事実だった。


「僕は、あの事件の内容を知っている。学院でインターンの初期に取り扱ったオーロスの不審死。あれには王家は関わっていない。むしろ事件解決に向けて努力をしたんだ。」

「なんだって?お家断絶を言い渡されたのではないのか?」

彬の説明に、エアリアが逆に質問をする。

「まさか。確かオーロスには子供がいたはずだけど……。調書によると、一家で行方不明になったあと、彼の死体だけが発見された。……その子供達が、あなた方ということですか?誰がそんな話を……」


彬とエアリアたちが、お互いに驚きの顔で見つめ合っていた。

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