5.2
「さて、本題ね」
紅茶を置いて足立さんが前を向く。
「何か用があるんでしょう?芳亜が颯稀くんを連れて用も無く来るとは思ってないわ」
横でへらへらしていたよし姉が真剣な顔に戻る。
「ミカの未来に颯稀は居るか?」
首を傾げる僕と足立さん。
「私の見る未来は私の視点しか無いわ。彼が居る保証は出来ないけど?」
「うちが定期的に連れてくる。正確じゃなくても良い。教えてくれ」
よし姉は僕の方を見る。さっきまでの笑顔は何処にも無い。
「死のうとしてるだろ?」
ストレートにそう言った。否定できない。
この力も、愛理ちゃんが死ぬくらいなら僕がと思ったから手にしたものだ。ダメージスワップでは無くダメージトレードである理由でそこを見抜いたのだろう。
答えを出さない事が答えになってしまったが、足立さんが手を叩いて注目を集める。
「見てみたわ。颯稀くんとまた会うかどうか」
唾を飲む。横にいるよし姉も真剣だった。
「…6年後、また会うわ」
立ち上がってたよし姉がソファに座り込む。何だか良い気分じゃない。
「でも、6年も先の未来は行動ひとつで簡単に覆る。保証はしないし、私は颯稀くんが不満を持って生き残るのはいたたまれないわ」
足立さんはまた目を細めて笑う。隣のよし姉が喉を鳴らした。
「うちは6年もここに颯稀を連れて来ないのか、随分と呑気な女だな」
「ふふ、呑気にできるのは幸せに生きてる証かもしれないよ」
ひとり会話に取り残されて机の上のセンニチコウを見ている。「愛理ちゃんは」とは聞けなかったし、そもそも足立さんは愛理ちゃんを知らないだろう。
足立さんが立ち上がって、何か箱を持ってくる。それを机の真ん中に置いた。
「これ、役に立つわ。使って」
箱を受け取る。中には石が入っている。箱の内側に
「探し物を見つける力」とメモ書きが入っている。
「芳亜がすぐに取りに来る未来が見えたから」
そう小声で僕に耳打ちする足立さんに、よし姉は不満の顔を隠さなかった。
事務所を後にする。軽バンに乗り込んでよし姉がタバコに火をつける。
「クソっ、ミカのやつ。絶対颯稀に気がある」
ネチネチと言うよし姉はいつもの狼みたいなイメージは無くなった。こちらを見てバツの悪そうな顔をする。
「…別に、颯稀が死のうとしてるから止めたかったんじゃないんだ」
怪訝な顔をする。それはフォローになっているのか。
「もちろん死なないに越したことはないよ。でも、その死で颯稀が満足するなら仕方ないさ。実際どうなんだ?答えを聞いてなかったな」
随分と素っ頓狂な事を言う。普通は死なないで欲しいとなるだろう。
「…ミカもあんなんだからさ、いじめとか差別とか、そんなのばっかだったんだ。世の中別に綺麗じゃないんだ、死を全否定出来る材料はうちには無い」
「…足立さんっていくつ?」
「お前の一個上」
「…よし姉足立さんとどういう関係なの?」
「そりゃあ運命の出逢いだな」
笑ってはぐらかすよし姉の目はこちらを向いていなかった。これ以上の詮索は辞めて、自分のことを考える。
「…彼女に会うまでは決められない。でも、僕の意思で言うなら…」
一度言葉を切る。煙を吐いたよし姉が目だけこちらを向く。
「死んでもいいからキスがしたい」
口の中の煙を吹き出しゲラゲラとよし姉が笑ってタバコの火を消す。
「小説のタイトルみたいなセリフだな。颯稀も男だな。やっぱり馬鹿だ」
馬鹿を強調しながらエンジンを入れて車が走る。ステレオからロックバンドが歌いだす。
「馬鹿がどんな結末を迎えるか見たくなった。行くぞ」
聞くまでもない。病院だ。ロックバンドがジャカジャカとギターをかき鳴らす。
ノリノリなよし姉とは反対に病院に近づくにつれて緊張する。携帯のメッセージはいまだ未読だ。
広い駐車場に停めて病院を見上げる。レンガ造りの病院はこれで何度目だろう。
受付に行き名前を言って木島さんの名前を出す。しばらくして木島さんが走ってやってきた。
「病院なんだから静かにしろよ」とよし姉が小言を言う。
「颯稀くん…来てくれて嬉しいよ…大丈夫。愛理ちゃんもあの男の子も無事だったよ…」
息を整えてこちらを向いた木島さんが僕の肩を掴んだ。僕は人殺しでは無いらしい。別に嬉しくもないが。
「愛理ちゃんが何処かに居なくなった!どこに行ったか知らないか!?」
なるほど、これが未来視と言うやつかと妙に感心した。




