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5.1

レジを打つ女の人を見る目がいつものよし姉じゃない。そんなよし姉を軽く躱してニコリと笑う女の人。指輪に視線を向けていると、女の人が気づいて手を振る。

「これ?結婚指輪じゃないよ。よく勘違いされるけど」

横のよし姉が目を輝かせるのでさっさと店を出る。


軽バンから見えるいつもの町は特に慌ただしいことも無く、警察も居ない。何の問題もなく僕の家に着いた。

「取ってきてやるよ。何が要るんだ」

シートベルトを外してよし姉がこちらを見る。

「壁にかかってるパーカー」

ニヤリと笑いよし姉が車をおりる。少し頭を下げて見守ってると、玄関で僕の親と少し話したあと家に入っていった。しばらくしてパーカーと小さな紙袋を持って車に戻ってくる。僕の頭を下に押して玄関で見ている親に見られないようにしたまますぐに車を出した。

受け取った紙袋には携帯と財布が入っている。携帯は充電が切れてて付かない。財布のお金は変わってなかった。

「…なんて言ってた?」

「病院から預かったってよ。適当にはぐらかして今こっちに居るとだけ伝えてきたよ」

車にある充電器を刺して携帯を再起動する。その瞬間大量の通知が来てまた充電切れで携帯が落ちた。

ほとんどが愛理ちゃんで、たまに親が混ざっていた。申し訳ない気持ちもあったけど、今まともに返信する気にはなれなかった。少なくとも愛理ちゃんは無事なのだと知り一息つく。


大きい道に路駐して少し歩く。前に来た事務所の階段をのぼり木製のドアを開けると足立さんが居た。

「あら、また会っ」

「ミカ〜会いたかったよぉ〜」

抱きつこうとするよし姉をひらりと躱してよし姉がソファにダイブする。僕のイメージのよし姉がワンツーと砕けて形を変えていく。

「座って、お茶を出すわ」

「ミカこそ座って、うちが出すから」

小さなキッチンに行ったよし姉を見て足立さんがソファに座る。こないだは机の上には何も無かったけれど、今日は真ん中に小さな花瓶がある。

「これは?」

「センニチコウよ、根が弱ってしまったから」

鞠のような小さな花は水のない瓶でも綺麗に花を咲かせている。ドライフラワーなのだろう。

「会えて嬉しいわ、颯稀くん」

そうにこやかに笑う彼女は前と変わらず大きな目を細めた。

「ダメだ、ミカは颯稀にはやらん」

紅茶を出しながら僕を睨むよし姉。

「私はあなたのものでは無いわよ」

足立さんが一蹴して紅茶を飲む。

「僕は彼女居るので」

とどこに向けたか分からない追撃をする。思い出して充電していた携帯を取り出す。

「颯稀くん?」

「どこにいるの?」

「何があったの?」

「大丈夫?」

「私は平気だよ」

「うるさいよね、ごめんね」

「私の事嫌い?」

「お返事待ってるね」

「また会いたいな」

100通以上送信が続く。ひとつずつ目を通す。最後の送信は明け方。

「大好きだよ」

そう締めくくられていた。

つたない指で何度も打ち直して、ひとつ送信する。その言葉が既読になることは無かった。



愛理0.9

夢を見た。今まで忘れていた過去の夢。忘れさせられたあの日の夢。

同じ幼稚園のあの子は真っ直ぐな子だった。言ったことは必ず実現させる。引っ込み思案な私にも優しくて、そんな彼が大好きだった。

いつものように砂場て絵を描いている私に、いつものように話しかける彼。私の描いた動物の横に彼が人の絵を描く。彼は他の子達に声をかけられて私に笑ってその子達のところに行く。またひとりぼっちになった私は彼の背中を追いかけることは出来なかった。

「あぁ、彼を私だけの物にしたい。他の所に行ってしまうなら」

ずっとそう願っていた。


いつものように砂場で絵を描いている私に、いつものように話しかける彼。また絵を描いて私の元を去ろうとする彼の手を掴んだ。

「行かないで」

そう言いかけて咳き込む。口から血が出る。止まらない。

彼が気づいて手を離す。だけど私から逃げること無く彼が何か言う。なんと言ってたか記憶は無い。

最後まで彼は優しくて、私のことを想ってくれる。

きっと、私のこれが何なのか教えてくれていたと思う。そんな彼の目を見て、私はどうしようもなく彼とキスしたくなった。私の元から離れるくらいなら、いっそ。あなたが死んでもいいから。


口の中は血だらけでキスの味はしなかった。笑う私とは反対に、彼は目を見開いて苦しみ始めた。胸を抑えて地面をのたうち回る。そんな彼も可愛い。

彼が必死に私を見て、苦しそうな顔で言葉を話した。それがきっと私にかけられた呪いの言葉。


颯稀くんに言おうかずっと悩んでた。私は、キスしたら相手が死んじゃう体質なんだって。必死に話した言葉は、思ってた伝わり方をしなかった。人と話しをするのに慣れてない私のせいだ。それでも颯稀くんは私を見て、私を肯定してくれて、私と生きたいと言ってくれた。

そんな颯稀くんの恥ずかしそうな顔を見て、何だか愛おしくて。つい手を握ってしまった。血を吐いた私を見て驚く颯稀くんに、思わずあの言葉を言ってしまった。

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