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SWORD of C 〜 帝国の人斬り令嬢《ブルートザオガー》は心ゆくまであなたを斬りたい  作者: 無色
Episode:7

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日常のワンシーン

「きゃー!」

「きゃあー!♡」


 いったいどれだけこの黄色い歓声を浴びただろう。


「元が良いと何着ても似合うのズルいですね!」

「ステキすぎますブルー様ぁ!♡」

「リゼ、次はこれ着せよう!」

「こっちも捨てがたいですよ!」

「ふ、二人ともそろそろ……。大佐もツルギさんも疲れてるでしょうし……」


 ヴィオレッタの言葉を聞かず、店内に服を漁りに行く。 

 かれこれ一時間は着せ替え人形にされ、ツルギとノクトの二人は辟易した顔で試着室の中で肩を落とした。


「ノクトさん、この店を斬ってしまえばこの無為な時間は終わりますよね」

「考えものだな。危うく許可しそうになった」


 普段とはかけ離れた印象の服に身を包む二人の華やかなこと。

 ただツルギだけは、腰に剣を差す異質さを切り離すことは出来ないが。


「まあ、ノクトさんの貴重なスカート姿が見られたので、この遊びにも利点はあったということにしておきましょう」

「……あまり見るな」

「個人的には膝上の丈の短いものが好みです。ふとした瞬間のチラリズムにグッとくるタイプなもので」

「下衆め」

「いやはや、わかる。わかるぞ」


 二人の会話に、隣の試着室の前に立つロマンスグレーの男性が腕組みしながら頷いた。


「あれはロマンだ。ふとした瞬間のときめきが良い。日常の中の非日常と言うかな。不可侵の聖域を垣間見れた幸福は何物にも代え難い」

「なッ?!」

「まあ」


 ノクトは目を丸くし、ツルギは呆けた。


「二人とも〜次はこの服……をぉッ?!」


 浮かれて戻ってきたオフィーリアらもまた、息を詰まらせて驚いた。

 無理もない。

 そこにいたのが、平日昼間の婦人服店にはあまりにもそぐわない人物だったのだから。


「な、な……」


 何故。

 そう問う前にノクトが。

 次いでオフィーリアとヴィオレッタ、一拍遅れてエリザベートが敬礼し、緊張で身を固くした。

 そんな中、


「ごきげんよう元帥閣下」


 ツルギだけが涼しい顔で微笑んだ。






 帝国軍最高権威元帥、アレクサンダー=(ベテルギウス)=ヴェルトリーチェ。

 皇帝アルバートの弟に当たる、英雄の頂(ベテルギウス)を冠せし一等星将(アストラル)である。

 同じ一等星将(アストラル)であり隊長を務めるノクトですら話す機会は殆ど無く、ましてや一般兵が直接顔を合わせるなど一生に一度あるかないかの出来事だった。

 その人物と今、婦人服店の試着室の前で邂逅している。

 だが当の本人は、そんな周囲の緊張などどこ吹く風だった。


「そう硬くなるな」


 アレクサンダーは苦笑した。


「今日は公務でも査察でもない。ただの休日だ。申し訳ないな、せっかく楽しそうにしているところを邪魔した」

「い、いえ、そんなことは」


 休日。

 その言葉にノクトたちはさらに困惑した。

 多忙で知られる帝国軍の元帥が休日に婦人服店へ来る理由など、一つも思い浮かばない。


「閣下……その、どうしてこちらへ?」


 勇気を振り絞りヴィオレッタが訊ねる。

 するとアレクサンダーは、ふむ、と頷いた。


「いや大したことじゃないんだ。ちょっと買い物の付き添いにな」

「ああ恋人ですか。では邪魔をしたのはこちらの方ですね。部下に蜜月を見られたとあっては閣下の威信に関わります」

「ハッハッハ、そういうことになるな」


 無遠慮なツルギに周囲は冷や汗をかいたが、アレクサンダーは磊落に笑い返した。


「と、言えるような相手でもいればいいのだが。何せこの歳まで戦うことしかしてこなかったものだからな。恋人はおろか情婦の一人もおらん」

「それはそれは。さぞ持て余しておられることでしょう。よろしければステキな娼館をご紹介しましょうか。一晩で忘れられない夢を見ることが出来ますよ」

「ツルギ!」

「ふむ、悪くないな。ぜひ話を聞かせて」

「だ、ダメです!!」


 アレクサンダーの言葉を遮るように、試着室のカーテンが開く。


「お、叔父様はそんな不埒なところ、絶対に行かないんですから!!」


 絵画から飛び出してきたかのようであった。

 眩いばかりの金髪が揺れ、蒼い双眸を潤ませた美女。

 一堂が息を呑んだのは、ひとえにその美しさに……ではない。

 それ以上に彼女の立ち場がそうさせた。


「こっ――――――――」


 いち早く声を上げそうになったオフィーリアの口に、アレクサンダーは目にも映らぬ素早い動きで手を当て発言を制した。


「騒ぐのはよそう。誰の得にもならない」


 ノクト、ヴィオレッタ、オフィーリアの三人がこれ以上無く驚愕し固まった。

 無理もない。

 多少の変装こそしているもの、そこに立っていたのは紛れもなく、帝国臣民なら誰もが知る人物だったのだから。

 だがアレクサンダーの視線を受け、誰もその名を口にしない。

 他の客や従業員たちも、まさかそんな超の付く重要人物がいるとは思いもしないらしく、店内には日常のままの空気が流れていた。


「これはまた、豪勢な逢引のお相手なことで」


 ツルギは特段意識せず、平常の態度を崩さない。

 彼女の意識は目の前の第一皇女、ディアナ=ヴェルトリーチェではなく、ただ帝国最強の男にのみ注がれていた。

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