花
新章開幕です。
またどうかお付き合いくださいますようにm(_ _)m
魔導帝国軍第一部隊。
選び抜かれた精鋭、総勢数百名。
内、在籍する女性の数は隊長ノクト=S=ミューラーを筆頭に五名。
その日は偶然、五名の休暇日が重なった日であった。
「女子会しましょう!」
オフィーリア=オブライエンが高らかに声を上げて、第一部隊の花は集まったという。
今回の話はそんな始まりから紡がれる。
カフェテラスでタバコを紫煙を纏い、コーヒーを嗜む。
それだけでノクトは周囲の視線を釘付けにした。
太陽の光に煌めく金の髪に、星の輝きを宿したサファイアブルーの瞳。
まるで一枚の絵画を切り抜いたような美貌の持ち主たる彼女。
そんなノクトに近付くのは、オフィーリアとヴィオレッタ=モルガンの二人である。
「こんにちは大佐」
「お待たせしました。遅れて申し訳ありません」
「いや。私も今来たところだ」
そう言って灰皿にタバコの先を押し当てる。
「大佐と外で会うの新鮮〜。私服姿なんて滅多に見ませんもんね。ちょっと飾り気が無さすぎませんか?」
「余計なお世話だ」
「ツルギさんとリゼさんはまだのようですね」
「奴らが時間通りに来るとも思えん」
「ですね。先に注文しましょうか」
「も、もう少し待ちませんか? せっかく皆で集まれる機会なんですから」
ヴィオレッタの進言こそあったもの、ノクトの言うとおり、ツルギとエリザベートの二人が集合場所を訪れたのは、待ち合わせ時間のきっかり三十分後のことであった。
「ふぁ……おはようございます……」
「遅れて申し訳ございません」
「ツルギもリゼも遅いよ! もうお腹ペコペコなんですけど!」
「そう言われましても。来てあげただけで感謝してほしいくら……ふあぁ……」
「きーっ!」
「いいオブライエン伍長。大方寝坊だろう。咎めるだけ時間の無駄だ」
「一応何度も起こしはしたんですけど……」
「そう聞いてください皆さん。今日は何ともステキな夢を見たんです。大きな、それはそれは大きな怪物を斬る夢で」
「はいはい。いいから座る。ほらリゼも」
オフィーリアの主導で軽い昼食と飲み物を注文。
テーブルに運ばれてきた後、オフィーリアが乾杯の音頭を執った。
「ではでは、第一部隊女子会昼の部開催ということで! 今日は一日楽しみましょうかんぱーい!」
「か、乾杯」
「ソフトドリンクで乾杯というのも味気ありませんね」
「お子様はそれで充分だろう」
「子ども扱いも今はモラハラの時代ですよノクトさん。それにしても」
クリームを浮かべたホットココアを一口、ツルギは目の前のパンケーキを切り分けた。
いちごのアイスとベリーがふんだんに乗せられたそれに舌鼓を打ちつつ、言葉の先を紡ぐ。
「どうしてわざわざ休みの日にまで、仕事仲間と顔をつき合わさなければならないのか。甚だ疑問です」
「だから女子会だって言ってるじゃん。日頃の愚痴とか、恋バナとか、職場じゃ話せないこといろいろあるでしょ。まあツルギみたいに開けっぴろげな性格だとそうでもないのかもしれないけど」
「話せないこと……オブライエンさんが密かに恋心を寄せていた第二部隊の殿方に失恋したようなことでしょうか」
「おい!!!」
顔を真っ赤にオフィーリアが叫ぶ。
「デートに漕ぎ着ける前に向こうに恋人がいるのがわかって良かったじゃありませんか。略奪愛で燃えるのは物語の中だけということです」
「なんでツルギがそれ知ってんだ!!」
「ヴィンセント軍曹が話しているのを聞きました」
「あの野郎ぶっ殺してやる!!」
「伍長。仮にも上官の前だということを忘れるなよ」
「だって大佐……くぅぅ!」
「というか、部隊の面々はわりと知っていると思いますが。ねえモルガン中尉」
「へっ?!」
ギロリとオフィーリアの目がヴィオレッタを睨む。
ヴィオレッタは慌てて目を泳がせた。
「ええと、その、そう……ですね……。聞いたような、聞いていないような……」
「その場にモルガンさんもいたじゃないですか」
「ツルギさんしーっ! しぃーっ!」
「くっそぉ皆して私を笑い者にしやがってぇ!」
「第一、軍内部に色恋沙汰を持ち込むな」
「大佐はいいですよモテるから! 恋人だって選び放題でしょう! 私もそんな顔面に産まれたかったですよ! いいですね顔面が一等星で!」
「顔面が一等星とはなんだ」
「ノクトさんの恋人は私ですよ」
「黙れ」
「ブルー様の恋人は私ですよ!!」
「死んでください」
「うるさい私の前でイチャつくな!! うわぁ彼氏欲しい結婚したい子ども産んで退役して円満な家庭築きたいぃ!!」
「まだアルコールも入っていないのに……」
「賑やかですね。あ、このケーキおいしい」
一頻り喚いて、オフィーリアは泣きながらパンケーキを口に押し込んだ。
その様の異様さに、周囲の客も見て見ぬふり。
「うぅ……こんな寂しい気持ちになる女子会やだぁ……」
「オブライエンさんはどうしてそう残念なんですか?」
「残念って言ったか? おん? 休みの日にも制服着てるツルギに言われたくないんですけど」
「私服で帯剣していいならそうします」
「いいわけあるか」
「とのことなので。案外気に入っているんですよこの制服」
それだけ魔改造していればそうだろう、とエリザベート以外の三人は言葉を呑み込んだ。
「よくお似合いですブルー様♡」
エリザベートが褒めようと、ツルギには右から左だが。
「ツルギってもしかして私服持ってないの?」
「ちゃんと持っていますよ。肌着と下着は用意があります」
「あんまりそれ私服にカウントしないから。大佐といいオシャレに無頓着なんだから」
「それは撤回を求めます。私は流行には敏感です。服なら着れればいいノクトさんとは違って」
「今私を貶める必要があったなら言ってみろ貴様」
「ま、まあまあ……。そ、そうだ。この後皆で服を見に行きませんか?」
「それいい! 行こう行こう! たまにはそういう女子っぽいことしないと、貴重な十代が終わっちゃう!」
軍役している時点で十代の貴重な時間は喪われているようなもの……とツルギが言いかけたその時。
「…………」
道を行く人物二人を目で追いかけた。
「服買いに行って、雑貨とか見ちゃって、今って劇とか何やってたかな。それで晩ご飯まで付き合ってもらって、今日皆でお泊り会とかしちゃいます?!」
「程々にしておきましょう……」
「ブルー様? どうかされましたか?」
「……いえ」
その人物たちは、迷うことなくスッと路地裏へ足を踏み入れた。
「聞いてるツルギ? 今からあんたを着せ替え人形にしてやるからね。覚悟するように」
「途中で帰りたくなったらゴメンなさい」
「絶対に許さない!!」
オフィーリアの確固たる意思は揺るがない。
――――――――
「ジンウォンさっきの見た? 店先に座ってた子ら。めっちゃ可愛かったことない? ウチちょっとガン見しそうになったもん」
「知らン。女の顔などいちいち見ナイ」
「もうほんっまにエグいくらい可愛かったんやって。ビビリ散らかすよ。目ェ焼け焦げるか思った。戻って会いに行ってまおかな」
「勝手にシロ」
「なんでそんな冷たいん? もっとウチに興味持ってや」
「お前の女の趣味は悪いからナ。心底どうでもイイ」
「ウチの趣味が悪いィ?! どういう意味やそれ!」
「お前が良いと思った女は大抵ろくでもナイ」
言われ、ジンウォンの足に不満げに踵をめり込ませる。
「余計なお世話や! 女の子は顔が良いだけで正義や!」
「だから前の女には借金背負わされて逃げられたんダロ。妓楼の女なんかに入れ込んだお前が愚かダ」
「ひいぃん! なんでやぁファンファン! ウチのこと好きって言ったのに!」
「泣くな鬱陶しい耳障りで不快ダ」
「言いすぎやろ人の心とか無いんか!!」
怒ったり泣いたりコロコロと表情が変わる少女にため息し、ジンウォンはふと空を見上げた。
「まだ昼間なのに、この街は薄暗いナ。ろくに空も見えやしナイ」
「グスッ……まるでウチの心模様みたいやわ……。はぁ……憂いも悲しみも無い世界に生まれたかった……」
「どちらもお前には無縁のものダロウ」
「よしっ! 皆が悲しまないように今日も頑張って人助けや! 困ってる人悩んでる人、ウチが全員助けたるからな!」
ジンウォンはまたため息をついた。
「おれなら、お前に救われる前に自死を選ぶヨ」
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