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SWORD of C 〜 帝国の人斬り令嬢《ブルートザオガー》は心ゆくまであなたを斬りたい  作者: 無色
Episode:6

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72/83

自由を謳歌する生き物

 皇城の一室のカーテンが揺れる。

 ふわりと入り込んできたそれに、皇后エルメンガルトは切れ長の目を向けた。


「遅いわよジーク」

「野暮用があったもので」


 ジークと呼ばれた黒猫は、前脚で顔を洗い、自身を黒で覆った。

 黒が解けた次の瞬間には、猫の影も形もなく、端麗な容姿の青年が立っていた。


「この私よりも優先すべきことがあるの?」

「ええ、まあ。これでも家族思いなもので。ご希望の品はしっかりと手に入れましたので、どうか怒りを収めてください」


 青年は甘い笑みでエルメンガルトにそれを渡した。

 包装されたそれの中身は、今日売りに出された人気ブランドのマニキュアである。

 エルメンガルトは小箱を受け取ると、中身を確認するでもなくベッドの上へと放った。


「まあいいわ。お遣い一つ出来ないならどうしてやろうかと思ったけれど」

「尊き后妃様のためなら、たとえ槍の雨が降ろうと使命を成し遂げますよ。なんせおれは飼い猫ですからね」

「何それ。フン、そのわりには本当に欲しいものがいつになっても届かないみたいだけれど」

「やる気と成果は伴わないものですから。そう急かすなら、皇帝陛下に他国への侵略を進言なさっては如何ですか? 愛しい妻の願いなら、陛下も容易く首を縦に振るかもしれません。機会が増えれば自ずと求めるものも歩み寄ってくると思いますよ」


 芝居がかかった物言いが気に障ったのか、エルメンガルトは舌打ちしてソファーに肘をついた。


「無理ね。あの人は軍務から私を遠ざけているから」


 無論、彼はそのことを知っている。

 尤もそこには、危険な目に遭わせまいという愛護心も含まれていることを前提としているが。

 皇帝アルバートはエルメンガルトの素行を諌めこそすれ、叱り抑圧することをしない。

 たとえそれが不遜に拍車をかける要因だとしても。

 エルメンガルトの尊大で傲慢な態度は、軍関係者の広く知るところ。

 彼女の我儘を取り込もうものなら、それだけで指揮系統が悉く破綻するのだから。

 その代わりに、エルメンガルトに与えられている……もとい、本人が主張している権利が一つだけある。

 皇室警護を主とした第二部隊とは別の、彼女専門の護衛の所持である。


「言ってみただけです」

「可愛げのない男ね」

「そんなおれを選んだのはあなたということをお忘れなく」


 そう言いながらジャケットを脱ぎ、シャツのボタンを外す。

 護衛とは名ばかりで、実際この青年には小間使い……言葉を選ばないのであれば男娼同然の真似事をさせているわけだが。


「軍部ですらほとんどの隊員が知らないおれの顔を独り占め出来るのですから、少しは甘やかしてほしいものですが」

「ふん」


 その甘いマスクと声が自分のみに向けられていることに、エルメンガルトは満更でもなさそうに鼻を鳴らし、男にドレスを脱がさせた。






 主題(テーマ)の性質上、その隊は特異とされている。

 他の隊に比べて極端に隊員の数が少なく、隊員の情報は同じ軍属であっても秘匿とされ、隊に配属された時点でそれまでの経歴は抹消される。

 第四部隊。

 彼らの掲げる主題(テーマ)は密偵と諜報を基本とした隠密活動。

 つまりはスパイである。

 時には他国軍に紛れることもある彼らが、万が一身分を露呈して囚われの身になろうものならば、彼らは情報を吐露する前に自死を選ぶ。

 秘匿とはすなわち、彼らの覚悟そのものである。

 その隊長に君臨するのが、帝国軍中将シルベスター=ヴォルフラムの実子であり、また人斬り令嬢(ブルートザオガー)ツルギ=ヴォルフラムと、フラン=ヴォルフラムの義兄。

 名を、ジークフリート=(ベガ)=ヴォルフラム。

 風琴の奏者(ベガ)の名を与えられた一等星将(アストラル)である。


「ふぅ……」


 エルメンガルトは、()()の疲労と共に紫煙を吹いた。


「満足していただけましたか?」

「気に食わないわ。いつも私ばかり満たして終わるんだから。そんなに私には魅力が無いのかしら?」

「一国の后妃様を孕ませでもしたら申し訳ないでしょう?」

「あの人は気にしないわよ。第一、私があなたを囲っていることも知っているのだし」

「おれにも人並みの倫理観があるということにしておいてください。この密会が陛下の黙認されていることとはいえ、万が一があろうものなら、おれとて立ち場が危ういので」

「ふぅ……あなたも吸う?」

「結構です」

「面白味の無い男ね」

「自分を大切にしているだけですよ」


 そう言って立ち上がるジークフリートの引き締まった背中を見て、エルメンガルトは高鳴る衝動のまま、彼の背中に抱きついた。


「あんなにシたのに、まだお代わりですか? はしたない人だ」

「黙りなさい。あなたは私の言うとおりにしていればいいのよ」


 あなたは私の猫なんだから、と后妃は背中に爪を立てた。

 対してジークフリートは笑った


「ええ、おれは猫です」


 世界で一番自由を謳歌する生き物であるという自負を抱いて。

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