表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Aster Crown 〜100勝するのが面倒で100人乱戦に出たら優勝して、最強の仲間ができました〜  作者: 辛子高菜


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

98/113

第九十七話 孤児院



Aster Crownのガレージに、派手なエンジン音が近づいてきた。

扉が開く前から分かる、やかましい気配。

そして、案の定。


「よぉ、総合2位のJr.くん!」


工具を手にしていたJr.は、振り返るなり顔をしかめた。


「帰れ」


入口に立っていたのはフランキーだった。

黒髪のウルフカットに、白く抜けた毛先、革ジャン、革パンツ、ブーツ。

相変わらず、そこに立っているだけでガレージの空気を少し荒くする。

後ろにはDJとライリー。

ライリーの肩には、小さな白いコットンが乗っていた。


「何しに来たんだよ」


「2位くんの顔を見に」


「帰れ」


「冗談だって」


フランキーはにやっと笑う。


「ポポに用だよ」


Jr.はそれを聞いて、少しだけ納得した顔になった。


「いつものやつか」


バイクの音を聞きつけたからか、ちょうどポポが顔を出す。


「来たネ」


「取りに来た」


フランキーが軽く手を上げる。

ポポは大きな袋をいくつか持ってきた。

中には、子ども用の服、日用品、簡単な薬、まだ修理できそうなおもちゃが入っている。


「重いヨ」


「DJ、持て」


「はいよ」


DJが慣れた様子で袋を受け取る。

ロッキーはグレイを抱えたまま、ライリーの方へ寄っていた。


「コットン、久しぶり」


「…久しぶり」


「グレイも会いたがってたよ」


「わふ」


「きゅっ」


コットンはライリーの肩からそっとグレイを見た。

その様子を見ながら、ビアンカが袋の中身を覗き込む。


「孤児院のもの?」


「そうネ」


ポポが答える。


「俺が個人的に支援してる孤児院があるヨ」


「ポポさんが?」


ロッキーが顔を上げる。


「そうネ。物を送ったり、たまに様子を見に行ったりしてる」


DJが袋を抱え直しながら言った。


「俺らも、そこ出身なんすよ」


「え」


ロッキーが目を丸くする。

ライリーが小さく頷いた。


「…私たちも孤児院にいた」


フランキーは少しだけ視線を逸らす。


「私らは捨て子だけどよ。3人でストリートで暮らしてるところをポポが助けてくれた」


ポポは困ったように笑った。


「助けたってほどじゃないネ」


「助けたんだよ」


フランキーの声が、少しだけ真面目になる。


「子供3人で食うに困る生活送ってた私らに飯食わせて、寝る場所探して、孤児院につないでくれた。私らにとっちゃ恩人だ」


ポポはそれ以上何も言わず、いつものように笑った。

けれどその笑顔があまりにも自然で、逆に何かを隠しているようにも見えた。


「Pegasusは孤児院を経営してんだよな」


Jr.が言う。


「まぁな」


フランキーが肩をすくめる。


「うちのギルドハウスはガルデニアにある。ここから南にある田舎町だ。孤児院も近くにある」


「久しぶりに行こうかな」


ポポが軽く言った。

フランキーが眉を上げる。


「今から?」


「みんなで行くのもいいネ」


ターニャが頷く。


「いいわね。物資もあるし、顔を見せるだけでも喜ぶでしょう」


ビアンカもすぐ立ち上がった。


「集めてる古着があるわ。子ども向けに直せるものもあるはずよ」


ロッキーはぱっと顔を明るくした。


「俺も行きたい、グレイも一緒に」


「わふ!」


ライリーはコットンを撫でながら小さく言った。


「…子どもたちコットン好きだから、グレイもきっと好き」


Jr.は腕を組む。


「俺も行く流れか?」


フランキーがにやっと笑った。


「おいおい、2位くん。子どもの相手は苦手か?」


「苦手じゃねぇよ」


「じゃあ来いよ」


「言われなくても行くわ」


ポポが嬉しそうに手を叩いた。


「決まりネ」




ーーーーーーーーーー




ガルデニアは、静かな田舎町だった。

大きな商業施設も派手な通りもない。

けれど風がよく通り、畑と花が広がっている。

Pegasusのギルドハウスから少し歩いた場所に、その孤児院はあった。

古いけれど、丁寧に手入れされた建物。

庭には遊具があり、洗濯物が風に揺れている。

フランキーが門を開けた瞬間、子どもたちが一斉に走ってきた。


「フランキー!」


「DJだ!」


「ライリー!コットンいる!?」


「ポポ!」


最後の声で、ポポは両手を広げた。


「みんな元気だったネ」


「ポポ会いたかった!」


「抱っこ!」


「順番ネ、順番」


子どもたちはポポに飛びつく。

ポポは慣れた様子で何人も抱え、笑っていた。

ターニャは持ってきた本を広げると、すぐに子どもたちに囲まれた。


「読んで!」


「これ!」


「こっちも!」


「順番ね、今日は時間があるからちゃんと読むわ」


ビアンカは古着を広げ、子どもたちの背丈に合わせて手早く直していく。


「袖が長いわね。少し詰めましょう」


「これ、かわいい?」


「すごく似合うわよ」


ソロは最初、静かに荷物を運んでいた。

だが子どもに手を引かれ、気づけば庭でかくれんぼに巻き込まれていた。


「お兄ちゃん鬼ね!」


「…分かった」


バイオレットも捕まった。


「お姉ちゃん隠れて!」


「私も?」


「うん!」


バイオレットは少し困った顔をしたあと、本気で隠れた。

結果、誰も見つけられなかった。


「いない!」


「どこ!?」


「消えた!」


「ここにいるわ」


木の上から静かに降りてくるバイオレットに、子どもたちが悲鳴みたいな歓声を上げる。

ロッキーとライリーは、グレイとコットンを連れて木陰にいた。


「グレイはゆっくり撫でてね」


「わふ」


「コットンはびっくりしやすいから、ライリーに聞いてからね」


「…手、こうやって出す」


ライリーが小さく手本を見せる。

コットンは最初こそ袖に隠れていたが、子どもたちがじっと待っているのを見ると少しずつ顔を出した。

Jr.はDJと一緒に、壊れたおもちゃを修理していた。


「これ、車輪の軸が曲がってる」


「こっちは音鳴らないっすね」


「接点見ろ、たぶんそこ」


「ねえねえ、これ直る?」


子どもが小さな車のおもちゃを差し出す。

Jr.は受け取って軽く見る。


「直る」


「ほんと!?」


「たぶんな、貸してみろ」


言い方は乱暴なのに、子どもたちはなぜか嬉しそうだった。

DJが笑う。


「意外と子ども相手いけるっすね」


「うるせぇ」




ーーーーーーーーーー




しばらくして落ち着いてきた頃。

ロッキーは庭の端でフランキーと並んで座っていた。

グレイは子どもたちに撫でられている。

フランキーは子どもたちを見ながら、いつもより少し柔らかい顔をしていた。

ロッキーはふと聞く。


「フランキーさんって、Jr.のこと嫌いなんですか?」


「は?」


フランキーが思いきり顔をしかめる。


「何だよ急に」


「いつも喧嘩してるから」


「あれは喧嘩じゃねぇよ」


「じゃあ何?」


少し言いにくそうに言ってから、フランキーは視線を庭へ戻した。


「嫌いっていうか、分かんねぇんだよ」


「分かんない?」


「あいつ、親もいて金もあって家もあるんだろ」


ロッキーは黙って聞いた。


「なのに、それを捨ててこっち側に来る理由が分かんねぇんだよ」


フランキーの声は少し低くなった。


「私の父親はろくでなしでよ。酒に溺れて暴力を振るう人間だった。最終的に嫁に逃げられて、さらに酒に溺れる。私も酷く殴られたよ。7歳の時に家出してそっから半年くらい路上生活していた。盗みとかやってよ。」


ロッキーは思わず無言になった。


「DJもそうだ、薬中の母親に暴力振るわれて育って最後は中毒死で天涯孤独。ライリーは生まれてすぐ孤児院の前に置き去り、そこの院長は補助金目当てに子供預かってるようなやつで狭い部屋に子供を押し込めて食事も服も何もかも最低限、7歳の時に逃げ出すまでそんな生活をしてた。私らに会った時もガリガリでよ、言葉もまともに喋れなかった」


フランキーはこっちを見て笑う。


「私らは選べなかった。ストリートにいたのも、孤児院に来たのも、ギルド作ったのも、走るしかなかったのも。全部、選ぶ前にそうなってた」


「…うん」


「でもJr.は違う。あいつには帰る家も金も親父の会社もあった。なのに、わざわざ油まみれになって、ガレージで寝泊まりして、レースで命削ってる」


フランキーは鼻で笑った。


「意味わかんねぇだろ」


ロッキーは少し考えてから言った。


「でも、Jr.も選べたようで、選べなかったのかも」


フランキーがロッキーを見る。


「Jr.にとってはおじいさんのガレージにいる方が自分でいられたのかも」


「……」


「俺には分からないけどね」


ロッキーはにこっと笑った。


「でも、フランキーさんてJr.のことよく見てるんだね」


フランキーの顔が一気に赤くなった。


「べ、別に見てねーよ!」


「そう?」


「見てねぇ!あんな準優勝チビ!」


「誰が準優勝チビだ」


背後から声がした。

フランキーの肩が跳ねる。

Jr.が工具箱を片手に立っていた。


「聞こえてたぞ、今の」


「うるせぇ準優勝チビ」


「チビチビいうな!こっからデカくなんだよ!」


また始まった。

ロッキーはそのやり取りを見て、嬉しそうに笑う。


「やっぱり仲良いね」


「「良くない!」」


2人の声がぴったり重なる。

いつもと変わらないその様子を見て、みんな笑うのだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ