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Aster Crown 〜100勝するのが面倒で100人乱戦に出たら優勝して、最強の仲間ができました〜  作者: 辛子高菜


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第九十六話 取材



JMC総合2位。

その肩書きはJr.が思っていた以上に大きかった。

もともとマシンレース界でJr.の名前は知られていた。

12歳とは思えない走り。

自分で組んだマシン。

小さいけど会社を経営している。

口は悪いが腕は本物の少年レーサー。

スポンサー契約の話も、前からなかったわけではない。

だが、JMCは別格だった。

1万kmを走破する過酷な長距離ラリー。

初出場。

最年少級ドライバー。

総合2位。

しかも最終日は区間1位。

区間ポイントだけなら優勝者のフランキーを上回っている。

その話題性に、企業もメディアも一気に食いついた。


スポンサー契約。

技術提携。

パーツ共同開発。

広告出演。

雑誌インタビュー。

マシン特集。

動画取材。


Jr.の端末は、連日通知で埋まっていた。


「…うるせぇ」


ラウンジのソファで端末を見ながら、Jr.は心底嫌そうな顔をした。

隣のポポはにこにこしている。


「すごいネ、Jr.大人気ネ」


「他人事みたいに言うな」


「他人事じゃないヨ、俺もナビとして取材されるかもしれないネ」


「だから面倒なんだよ」


Jr.は端末を伏せた。


「スポンサーの話はまだ分かる。会社に金が入るし、部品の供給も増やせる。技術提携も悪くねぇ、でも取材は無理だ」


「苦手だもんネ」


「苦手っていうか嫌いだ、あいつら勝手に色々書きやがる」


「でも、会社のためには受けた方がいいヨ」


「ポポまでそれ言うか」


その時、ターニャが資料を抱えてやってきた。


「言うわよ」


Jr.が露骨に嫌そうな顔をする。


「出た」


「出た、じゃないの。会社を大きくする気があるなら取材も進んで受けなさい」


「俺はマシン作って走りたいだけなんだよ」


「そのマシンを作るにも会社を回すにも、信頼と知名度は必要よ」


「分かってる」


「分かってるなら話が早いわね」


「早くねぇよ」


ターニャはテーブルに資料を並べた。


「怪しい媒体、年齢だけを煽りたいもの、あなたの発言を切り取って面白がりそうなものは弾くわ。技術、wildfoxの展望、JMCでの走りをきちんと扱うところだけ残す」


「…選別してくれんのか」


「そのために見ているのよ」


Jr.は少し黙った。


ターニャには世話になっている。

JMC中の情報整理も、帰ってからの問い合わせの整理も、全部彼女がかなり助けてくれていた。


「動画は嫌だ」


「分かってるわ。文章中心で事前確認あり、変な見出しは禁止、それを条件にする」


「なら…まぁ」


「決まりね」


ポポが嬉しそうに手を叩く。


「取材、楽しみネ」


「お前は何でそんな楽しそうなんだよ」


「Jr.がちゃんと喋れるか見るの楽しいネ」


「見世物にすんな!」




ーーーーーーーーーー




そして、当然のようにその男は来た。


「やぁやぁ、JMC総合2位の若き経営者くん」


ガレージの入り口から明るい声が飛ぶ。

Jr.は声だけで顔をしかめた。


「帰れ」


現れたのは、ミハイル・ニコラエヴィチ・モロゾーヴァ。

有名xTuber、Mr.Z。

そしてターニャの兄。

髪を下ろしサングラスもしていないが、派手さは隠しきれていない。

ターニャがため息をつく。


「兄さん、突撃しないでと言ったでしょう」


「突撃じゃないよ、5分前に連絡した」


「それを突撃と言うの」


「手厳しい」


Jr.は腕を組んだ。


「動画は受けねぇぞ」


「分かっているとも、今日は記事だ。それに主役は君じゃない」


「は?」


ミハイルはにっこり笑う。


「グレイくん特集だ」


横でロッキーがぱっと顔を上げた。


「グレイ?」


「そうだよ、前から言っていただろう?ロッキーくんとグレイくん、そしてtiny ride model Gで広がる新しい移動スタイル!そこに開発者であるJr.くんの話を少し絡める」


Jr.の眉間に皺がよる。


「ぜってぇ少しじゃねぇだろ」


「記事構成上、自然だ」


「小狡ぇ」


「褒め言葉かな」


「違ぇよ」


ターニャが静かに兄を見る。


「兄さん」


「動画なし、変なことは書かない!公開前にターニャへ確認を回す。ゴシップにしない。約束するよ」


Jr.はターニャを見る。


「こいつ信用できんのか?」


「仕事に関してだけは信用できるわ。不本意ながら」


ミハイルは胸に手を当てる。


「妹に信頼されていて僕は嬉しいよ」


「限定的な信頼よ」


Jr.は深く息を吐いた。


「…ターニャには恩があるからな。受ける。ただし変なことを書いたら二度と受けねぇ。動画もなしだ」


「もちろん」


「あと“小さな”とか書くな」


「それは惜しい」


「書く気だっただろ」


ミハイルは爽やかに笑ってごまかした。




ーーーーーーーーーー




取材はギルドハウスのガレージで行われた。

壁には、JMCで使った黄色い襷。

グレイの写真。

Maverickの設計図。

tiny ride model Gの試作メモ。

そして祖父の代から残っている古い工具。

ミハイルはガレージの中を見渡し、少しだけ声の調子を落とした。


「いい場所だね」


「俺のガレージだからな」


Jr.は短く答える。


「ここからtiny rideが始まった?」


「そうだな、tiny rideやmaverickはここでできた。その前はじいちゃんのガレージからだ」


「ロッキーくんとグレイくんの件で話題になったtiny rideは、以前のように自分で全部やるスタイルから外注に変わったみたいだけど…もうここだけでは足りない?」


Jr.は少しだけ黙った。

それから、腕を組んだまま言う。


「今回の件を機に、デカい本社を構えることを考えてる」


ロッキーが驚いたように目を開く。


「本社?」


「tiny rideの第一弾受注開始から約2ヶ月。初期ロットの1000台分は、協力体制もあってもう終わった。売り上げも良かったし顧客の評判も悪くねぇ。追加受注を希望する声もまだまだあるから第二弾も考えてる」


Jr.はガレージの壁に貼られた設計図を見る。


「tiny rideだけじゃない。マシンのパーツ販売、修理、組み立て依頼を受けられる店舗も作る。スタッフを雇い店頭販売もできるようにする」


ミハイルがペンを走らせる。


「今までのようなワンマン会社ではなくなる?」


「あぁ、ありがたいことにマシンパーツはずっと好調だ。それにtiny rideの件で修理や組み立てを任せられる、信頼できる人も見つけた」


「場所は?」


「パパウェルにあるじいさんのガレージがある土地だ。周辺も買い取って、デカいガレージ兼店舗にする。話はつけてある。」


その言葉に、ロッキーが少しだけ不安そうな顔をした。

しかしその前に、ミハイルが静かに尋ねる。


「それは、お祖父様のガレージを潰すということで?」


空気が一瞬だけ変わった。

Jr.の目が鋭くなる。


「形を変えるだけだ」


短い声だった。


「潰すんじゃねぇ、続けるために広げる。じいさんの技術も作業場も意志も、残せるもんは残す。俺が継いでやってたことをもっとデカくやれるようにするだけだ」


ミハイルは少しだけ目を細める。


「なるほど」


「変な書き方すんなよ」


「しないよ、そこは大事なところだ」


Jr.はふん、と顔を逸らした。


「ほんとは優勝して、どーんと発表したかったんだがな」


少し拗ねたような声だった。

ポポが笑う。


「まだ言ってるネ」


「言うだろ。優勝できなかったんだからよ」


ロッキーが寂しそうに口を開く。


「もしかして、引っ越すの?」


Jr.がそちらを見る。


「は?」


「本社を作るってことは、ここからいなくなるの?」


ロッキーはグレイを抱いたまま、少し眉を下げていた。


「Jr.がここにいなくなるの、ちょっと寂しいな」


Jr.は一瞬きょとんとした。

それから、慌てたように続ける。


「引っ越しはしねぇよ」


「ほんと?」


「あくまで会社を構えるってことだ。今までじいさんのガレージを使ってたからな。いろいろと手狭になってきたんだわ」


「じゃあ、ここにはいる?」


「いる」


「ガレージも使う?」


「当たり前だろ」


ロッキーの顔がぱっと明るくなる。


「よかった」


「何でお前が安心すんだよ」


「2号機もJr.がいないと寂しいかなって」


「マシンに感情を乗せすぎなんだよ」


「でもJr.もMaverickに話しかけるでしょ?」


「……」


Jr.は黙った。

ミハイルのペンがさらさら動く。


「Maverickに話しかける、と」


「書くな!」


「いい話だ」


「書くなって言ってんだろ!」




ーーーーーーーーーー




しばらくして、ミハイルは少し声を落とした。


「それと、優勝についてお父様から何か連絡は?」


Jr.の表情が止まった。


「…親父の件は公表してないはずだが」


「これでも有名インフルエンサーをやらせてもらっているのでね」


ミハイルは悪びれずに言った。


「お祖父様の工房について調べていたら出てきたよ。家業が嫌で家を出て、一代で会社を興した天才。その息子もまた天才で、一代で会社を築こうとしている。いやぁ、素晴らしい家系だね」


ガレージの空気が、静かになる。

Jr.はミハイルを睨んだ。


「書くつもりか」


「書かないよ」


ミハイルはすぐに答えた。


「僕はゴシップが嫌いだからね」


「本当かよ」


「僕は幸せをみんなに与えたくてxTuberをやってるからね。人の不幸で飯を食うのは嫌いなのさ、複雑な人間関係は好きだけど」


そう言って、ミハイルはちらりとロッキーの方を見てウインクした。


ロッキーはきょとんとする。


「?」


「おい、つつくな」


「いや、つい」


「ついじゃねぇ」


ターニャが兄を見る。


「兄さん」


「はい、戻ります」


ミハイルは咳払いをした。


「今の話は書かない。ただ、君が祖父の工房をどう継いでどう変えていくのか。それは記事にする価値がある」


Jr.はしばらく黙っていた。

父の話もビクターという名前も嫌いだ。

けれど、祖父の工房のことを隠したいわけではない。

自分がそこから始まったことを、なかったことにしたいわけでもない。


「…じいさんのことを変に書くな」


「約束する」


「親父のことは書くな」


「書かない」


「俺の名前も掘るな」


「それも約束する」


Jr.は少しだけ息を吐いた。


「ならいい」


ミハイルは頷いた。


「ありがとう」




ーーーーーーーーーー




取材が終わる頃には、Jr.はぐったりしていた。


「二度と受けねぇ」


「まだ他にもあるわよ」


ターニャが資料をめくりながら言う。


「地獄か?」


「会社のためよ」


「その言葉ずるいぞ」


ポポは終始楽しそうだった。


「Jr.、ちゃんと喋れてたネ」


「お前ほんと楽しそうだったな」


「楽しかったネ」


「くそ」


ミハイルはノートを閉じる。


「いい記事になるよ、JMCの結果だけじゃなくてwildfoxがこれからどこへ向かうのかが見える」


「変な記事にしたらターニャに言う」


「妹を盾にされるのは弱いな」


ターニャは微笑んだ。


「確認は私も見るわ」


「怖いねぇ」


「兄さんの仕事の質を守るためよ」


「それはありがたい」


ミハイルは笑いながら立ち上がる。

去り際、グレイに向かって手を振った。


「グレイくん、次は正式に主役回をやろう。最近仲のよさそうなコットンくんとのコラボ取材はどうだい?もちろん飼い主も一緒に」


「おい、それ別の目的があるだろ」


「じゃあ、お邪魔したね!」


ミハイルは聞こえないふりをして出ていった。




ーーーーーーーーーー




静かになったガレージで、ロッキーはtiny ride 2号機の横にしゃがみながらJr.を見た。


「本社、作るんだね」


「ああ」


「すごいね」


「まだ作ってねぇ」


「でも、作ろうとしてる」


ロッキーはにこっと笑った。


「すごいよ」


Jr.は視線を逸らす。


「…別に」


「Jr.ならできるよ」


「簡単に言うな」


「簡単じゃないけど、できると思う」


「…優勝して発表したかったんだけどな」


Jr.がぼそっと言った。

ロッキーは少し考えてから答える。


「じゃあ、4年後に優勝した時は、もっと大きい発表すればいいんじゃない?」


 Jr.がロッキーを見る。


「……」


「今回は本社を作る発表でさ、次は世界一のwildfoxになる発表とか」


「でけぇな」


「Jr.ならできるよ」


また、まっすぐ言う。

Jr.は呆れたように笑った。


「ほんと、お前は簡単に言うよな」


「だめ?」


「…いや」


Jr.は机の上の設計図を手に取った。


「悪くねぇ」


その顔は、少しだけ楽しそうだった。




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