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Aster Crown 〜100勝するのが面倒で100人乱戦に出たら優勝して、最強の仲間ができました〜  作者: 辛子高菜


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第九十四話 JMC⑧



ーー翌朝


閉会式兼表彰式。

アルテアの中央広場には多くの人が集まっていた。

長かったJMCの閉会式兼表彰式。

巨大モニターには、まず最終日の区間ランキングが映し出される。


JMC DAY 15 / 500km


1位 Jr. & Popo / wildfox 12pt

2位 Frankie / Pegasus 10pt

3位 Grenard Works 8pt

4位 Orion Forge 7pt

5位 North Barrel 6pt


歓声が上がる。

Jr.はポポの隣で腕を組んだままモニターを見上げていた。


「最終日は勝ったネ」


ポポが言う。


「…まあな」


Jr.の返事は短い。

けれど、その声にはちゃんと誇りがあった。


そして区間総合ポイント


1位 Jr. & Popo / wildfox 130pt

2位 Frankie / Pegasus 129pt

3位 Grenard Works 120pt



続いて、総合走破タイムランキング。


総合走破タイム


1位 Frankie / Pegasus +30pt

2位 Grenard Works +24pt

3位 Jr. & Popo / wildfox +19pt


その表示を見た瞬間、Jr.の口元が少しだけ固くなる。

DAY 7のロス。

あの日の急停止、タイヤ交換、そこから安全に走るしかなかった時間。

それが最後まで消えなかった。

そして、最後にトータル順位が表示される。


JMC FINAL RESULT


1位 Frankie / Pegasus 159pt

2位 Jr. & Popo / wildfox 149pt

3位 Grenard Works 144pt


会場が沸いた。

前回王者Grenard Worksを抑え、初出場のwildfoxが2位。

そして優勝はPegasusのフランキー。

Mr.Zの声が広場に響く。


「今年のJMCを制したのは、Pegasus!フランキー選手です!」


歓声と拍手が爆発した。

ステージへ、まずGrenard Worksが呼ばれる。

前回王者としての貫禄を残しながらも、惜しくも3位。

それでも表情は晴れていた。

次に呼ばれたのは、Jr.とポポ。


「総合2位、Jr. & Popo / wildfox!」


名前を呼ばれた瞬間、会場がさらにざわめいた。

12歳。

初出場。

JMC最年少級ドライバー。

1万km走破。

区間ポイント1位。

総合2位。

話題にならないはずがなかった。

Jr.は小さく息を吐き、ステージへ向かった。

ポポが隣で笑う。


「胸張るネ」


「分かってる」


「顔、怖いヨ」


「元からだ」


壇上に上がると、2位のトロフィーと表彰状そして賞金50万xが渡された。


賞金は1位には100万x、3位には10万x与えられる。

もちろん、JMCは賞金目当てで出るようなレースではない。

そもそもマシンの整備や輸送、スタッフ費用だけでも相当な金がかかる。

危険も大きい。

過去には命を落とした者もいる。

それでも出る。

名誉のため。

自分の腕を証明するため。

1万kmを走り切った者だけが名乗れる、狂気じみた栄光のため。

Jr.はトロフィーを受け取った。

思ったより重かった。

悔しいくらいに。

最後に、優勝者としてフランキーとDJが壇上に上がる。

いつも通りの不敵な笑み。

だが、トロフィーを受け取る手つきは少しだけ丁寧だった。


「フランキー選手、優勝おめでとうございます!」


Mr.Zがマイクを向ける。


「ありがとうございます」


フランキーは短く言う。


「厳しい戦いでしたか?」


「まぁな。今回は小さいのがしつこかったんで」


会場が笑う。

Jr.が横から睨む。


「小さい言うな」


「表彰台で噛みつくなよ」


「お前が言うからだろ」


また笑いが起きる。

けれど、その笑いは馬鹿にするものではなかった。

2人のライバル関係を会場全体がもう知っていた。

表彰式が終わると、Jr.はすぐ記者たちに囲まれた。


「Jr.選手!初出場、最年少級ドライバーで総合2位です!」


「今のお気持ちは?」


「最終日は区間1位、区間ポイントではFrankie選手を上回りましたが!」


「ご自身の走りをどう評価しますか?」


マイクがいくつも向けられる。

Jr.は一瞬うんざりした顔をしたが、逃げなかった。

トロフィーを抱えたまま、まっすぐ前を見る。


「納得はしてない」


記者たちが一斉に静かになる。


「けど、これが自分の今の実力だ」


Jr.は続ける。


「区間ポイントで勝ってもJMCでは負けた。1万kmを1番速く走り切ったのはフランキーだった」


少し離れた場所で、フランキーがその言葉を聞いていた。


「また次、挑戦あるのみだ」


Jr.は顔を上げる。


「次も完走する。次は優勝を目指す」


その瞬間、記者たちのシャッター音が一気に鳴った。

xNestでもすぐに話題になる。

 


『Jr.かっこよすぎる』


『12歳で1万km走破して総合2位はえぐい』


『納得してないの最高にJr.』


『区間ポイントでは勝ってるのやばい』


『wildfoxの名前売れたな』


『次も出る宣言きた』


『フランキーとJr.のライバル関係、熱すぎる』



記者対応が一段落したところで、Aster Crownのメンバーがやってきた。


「Jr.!」


ロッキーがグレイを抱えて手を振る。


「わふ!」


「お前ら来てたのか」


「もちろん!」


ロッキーは嬉しそうに言う。


「今回はちゃんと魔導列車で来たよ。前みたいにソロに長距離運転してもらうの大変だから」


ソロが無表情で頷く。


「正しい判断だ」


ビアンカが少し不服そうに言う。


「私が運転してもよかったのに」


その瞬間、ソロが静かに首を振った。


「それだけは本当にやめてくれ」


「そんなに?」


「本当に」


ターニャが笑う。


「ソロがここまで真剣に止めるなら、相当ね」


「ビアンカ、運転やばいんだ…」


ロッキーが小声で呟く。


「失礼ね、少し大胆なだけよ」


「大胆で済む範囲じゃない」


ソロの声が淡々としている分、余計に怖い。

Jr.は思わず少し笑った。


「何しに来たんだよ、お前ら」


ビアンカが微笑む。


「あなたにおめでとうを言いに来たのよ」


ターニャも頷く。


「総合2位、おめでとう」


バイオレットが静かに言う。


「よく走り切ったわ」


ポポが嬉しそうに笑う。


「ほら、褒められてるネ」


「うるせぇ」


ロッキーが前に出る。


「Jr.、本当におめでとう」


その声はいつもより少し真剣だった。


「MaverickもポポさんもJr.も、最後まですごかった」


Jr.は照れたように顔を逸らす。


「…まあまあだっただろ」


「すごかったよ」


「だから、そういうの真顔で言うな」


グレイが「わふ!」と鳴く。


「グレイもおめでとうって」


「はいはい、ありがとな」


Jr.はグレイの頭を軽く撫でた。

その後、全員で記念撮影をすることになった。

Jr.は黄色い襷を肩にかけたまま、2位のトロフィーを持って真ん中に立つ。

その後ろには決めポーズをしたポポ。

右側にロッキーとグレイ。

左側にバイオレット。

後ろにターニャ、ビアンカ、ソロ。


「Jr.、もう少し笑って」


ターニャが言う。


「笑ってる」


「それは睨んでる」


「元からだ」


ロッキーが笑う。


「Jr.、かっこいいよ」


「だから真顔で言うなって!」


シャッターが切られる。

画面には、少し不機嫌そうで、でもどこか誇らしげなJr.が映っていた。

2位のトロフィーを持ち、黄色い襷をかけた、小さなレーサー。

その写真は、すぐにターニャのxNestに投稿された。



#本日のJr.

10000km走破。総合2位。

Aster Crownの小さなレーサー、堂々の帰還。



もちろん、Jr.からあとで「小さなって書くな」と怒られた。




ーーーーーーーーーー




ギルドのみんなでワイワイやっているとフランキーがJr.のところにきた。


「よう、Jr.」


「フランキー」


「お疲れ様」


「お互いにな」


「布団が恋しいぜ、ほんと」


「…改めて」


Jr.はトロフィーを抱え直す。


「優勝おめでとう。負けたわ」


フランキーは一瞬、目を丸くした。

それから、少しだけ口元を緩める。


「…素直だな、らしくねぇ」


「うるせぇ、負けは負けだろ」


「…そこを認められるやつは、強くなるぜ」


「もう強ぇよ」


「じゃあもっと強くなれ」


フランキーが手を差し出す。

Jr.はその手を見て、ほんの少しだけ間を置いた。

そして握る。

強く。


「次は勝つ」


「次も私が勝つ」


「言ってろ」


「お前こそ」


2人は握手したまま、にらみ合うように笑った。

その横でロッキーが感動した顔をしている。


「ライバルっていいねぇ」


バイオレットが静かに頷く。


「そうね」


Jr.は聞こえなかったことにした。




ーーーーーーーーーー


  


レース後、Jr.はMaverickの輸送手続きも済ませた。

大会主催者と契約している代理運送業者が、各チームのマシンを指定の場所まで運んでくれる。



「ジニアまで1000km以上あるからな」


Jr.が答える。


「Maverickで帰ったらまた1日とかかかんだよ。だから代理で運んでもらう」


「そうなんだ」


「お前が運転してみるか?」


ロッキーは真顔で少し考えた。


「…無事に帰れる気がしない」


「正しい判断だな」


「うん」


グレイも「わふ」と鳴いた。


「グレイも反対してる」


「だろうな」


その後、Aster Crown一行は魔導列車に乗った。

アルテアからジニアまでは、魔導列車なら5〜6時間。

個室を取ったため、車内ではちょっとしたお疲れ様会になった。

ビアンカが用意した軽食。

ターニャの温かい飲み物。

ソロのおにぎり。

ロッキーが買ってきた甘い菓子。

ポポが抱えるほど買った肉料理とお酒。


「やっとお酒飲めるネ」


「2週間近く我慢したものね」


「もうカラカラヨ」


「付き合うぞ、ポポ」


そう言ってソロはビールをポポに注ぐ。

その横で料理の多さにJr.は呆れていた。


「だから量が多いって」


「食べるネ」


ポポが当たり前のように皿を差し出す。


「食っただろ」


「まだ足りないネ」


「俺を何だと思ってんだ」


「1万km走った12歳」


「そう言われると反論しづらいだろ!」


みんなが笑う。

ロッキーはトロフィーをじっと見ていた。


「これ、すごいねぇ」


「すごいだろ、やらねぇぞ」


「い、いらないよ。Jr.の大切なものでしょ」


グレイがトロフィーの匂いを嗅ごうとして、ロッキーに止められる。


「グレイ、これは大事なやつだからね」


「わふ」


「ほんとはもっとデケェやつ持って帰る予定だったんだがな」


バイオレットは窓の外を見ていたがふとJr.に言った。


「次に勝てばいい」


Jr.は少しだけ目を向ける。


「言われなくても」


「応援してるわ」


ソロが短く言う。


「2位は十分すごい」


「お前まで普通に褒めんな」


「事実だ」


ビアンカが笑う。


「今日は素直に褒められなさい」


「むずい」


ターニャが穏やかに言った。


「むずかしくても、受け取る練習よ」


「何の訓練だよ」


列車の個室には、笑い声が響いた。

Jr.は不機嫌そうな顔をしながら、結局みんなに囲まれてご飯を食べた。

悔しさは消えていない。

でも、その時間だけは少しだけ温かかった。




ーーーーーーーーーー




ジニアに着いた頃には、もう夜だった。

酔っ払ってしまったポポをソロとロッキーが抱えて連れていく。


「飲み過ぎだよポポ」


「まぁまぁ、今日は許そう」


ギルドハウスへ戻ると、Jr.は大きく伸びをした。


「疲れた。もう寝るわ」


Jr.は片手を振って、自分の部屋へ向かった。

扉を閉める、ひとりになる。

途端に、部屋の中は静かになった。

外の笑い声が遠くなる。

Jr.はトロフィーを机の上に置き、ベッドに転がる。

2位のトロフィー。

立派だった。

重かった。

誇っていいものだった。

でも、1位ではない。

Jr.はしばらくそれを見つめていた。

それから、首にかけたロケットを取り出す。

蓋を開ける。

中には、茶髪の男。

Jr.によく似た金髪の女の人。

そして、小さな自分。

母の顔を見る。

祖父の工房の匂いを思い出す。

Maverickのエンジン音を思い出す。

フランキーの背中を思い出す。

DAY 7の崖を思い出す。

最終日のゴールを思い出す。

そして、表彰台の1番高い場所に立つフランキーを思い出す。


「…くそ」


声が震えた。

唇を噛む。


悔しい。


悔しい。


悔しい。


Jr.はロケットを握りしめたまま、枕に顔をくっつけた。

声は出さなかった。

ただ、涙だけが落ちた。


「次は…」


掠れた声で呟く。


「次は絶対勝つ」


2位のトロフィーが部屋の明かりを受けて静かに光っていた。

その隣に置かれた黄色い襷。

Aster Crownのみんなの言葉。

グレイの肉球。

1万kmを一緒に走った証。

Jr.はもう一度呟いた。


「…絶対、勝つ」




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