第九十二話 JMC⑥
DAY 10 / 1000km
休息日明けの朝。
Jr.はMaverickの前に立ち、いつもより静かに車体を見ていた。
DAY 10、区間距離は1000km。
「長いネ」
ポポが言う。
「あぁ」
「今日は取り返す日じゃなくて、崩れない日ネ」
「分かってる」
その返事は、ちゃんと落ち着いていた。
スタート。
Maverickは乾いた草原地帯を抜け、赤土の道へ入った。
第1チェックポイントを通過した。
序盤は悪くなかった。
ただ、1000kmは長い。
早く走れている感覚があっても、終盤までそれを保てるかは別だった。
「前、詰まってるネ」
「抜く」
「今じゃない。右に抜ける道があるけど、少し遠い」
「安定してるなら右だ」
「いい判断ネ」
「言うな」
第2チェックポイントを通過した。
中盤、フランキーの黒い車体が見えた。
だが、いつものような伸びがない。
エンジントラブルの影響が残っているのか、彼女は無理に踏んでいなかった。
「フランキー、抑えてるネ」
「壊したくねぇんだろ」
「追う?」
「追う。でも潰しにはいかねぇ」
Jr.はMaverickを前へ出す。
ただし、焦らない。
DAY 7のようにはならない。
第3チェックポイントを通過した。
終盤、長い下りでJr.は速度を上げた。
前方の車体を1台かわす、さらにもう1台。
ゴールラインを越えたあと、Jr.は息を吐いた。
「…悪くない」
「うん。今日は悪くない日ネ」
ポポが笑う。
フランキーは少し遅れて降りてきた。
「そっち、いい走りだったな」
「お前は?」
「まだエンジン気持ち悪い。無茶はしねぇ」
「らしくねぇな」
「勝つために我慢してんだよ」
Jr.は少しだけ黙った。
「…そうかよ」
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翌朝6時。
JMC DAY 10 / 1000km
1位 Grenard Works 12pt
2位 North Barrel 10pt
3位 Jr. & Popo / wildfox 8pt
4位 Frankie / Pegasus 7pt
5位 Orion Forge 6pt
「3位ネ」
ポポが言う。
「フランキーは4位か」
Jr.はモニターを見上げた。
「今日みたいな日を落とさないのが大事なんだろ」
「そうネ」
「…分かってきた」
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DAY 11 / 900km
DAY 11、区間距離は900km。
この日、ルートはマグノリア王国を抜け、チェスナット王国へ入る。
国境を越える日。
観客も記者も多い。
だがJr.は、前ほど周りを気にしていなかった。
「今日は行ける」
「攻める日?」
「あぁ」
ポポは地図を確認し、頷く。
「なら、勝ちに行くヨ」
スタート。
Maverickは花畑の端を抜け、山裾のルートへ入った。
第1チェックポイントを通過した。
中央ルートは登りがきつい。
外回りより短いが、エンジンへの負荷が大きい。
「中央で行く」
「Maverickなら行けるネ」
「俺もそう思う」
Jr.は丁寧に回転を合わせ、無駄に踏み込まず登り切った。
第2チェックポイントを通過した。
国境の大きなアーチが見える。
チェスナット王国。
そこを抜けた瞬間、路面が変わった。
硬い石混じりの道。
跳ねるが、滑りにくい。
「ここ、行けるぜ」
Jr.が言った。
「行くネ」
ポポも止めない。
前方にはフランキー。
彼女はエンジンをかばいながら、それでも速い。
「しぶといな」
「フランキーだからネ」
「でも今日は抜く」
第3チェックポイントを通過した。
終盤、Maverickが伸びた。
石の道を跳ねながら、それでも姿勢は崩れない。
Jr.はハンドルを握り、前だけを見た。
フランキーの車体に並ぶ。
「来たな、Jr.!」
「今日は俺の日だ!」
2台が並ぶ、最後の直線。
Maverickがわずかに前へ出た。
ゴールラインを越えた瞬間、Jr.はハンドルを強く握った。
「…取った」
フランキーが車から降りてきて、悔しそうに笑う。
「今日は負けた」
「今日は?」
「明日は分かんねぇだろ」
「明日も勝つ」
「調子戻ってきたじゃん」
Jr.はMaverickのボンネットを軽く叩いた。
「戻したんだよ」
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翌朝6時。
JMC DAY 11 / 900km
1位 Jr. & Popo / wildfox 12pt
2位 Frankie / Pegasus 10pt
3位 Grenard Works 8pt
4位 Luca-Madis Team 7pt
5位 Scarlet Gear 6pt
ポポがにっと笑った。
「1位ネ」
「まあまあだな」
Jr.はそう言いながら、少しだけ笑っていた。
差は縮まっている。
まだ追いついてはいない。
でも、届く距離にいる。
DAY 12 / 800km
DAY 12、区間距離は800km。
前日の勝利で、Jr.は注目を浴びていた。
だがポポは、朝から釘を刺した。
「今日は抑える日ネ」
「何でだよ」
「昨日攻めた。MaverickもJr.も疲れてる」
「走れる」
「走れるのと、攻め切れるのは違うネ」
Jr.は少しだけ不満そうにしたが、反論しなかった。
「…分かったよ」
スタート。
DAY 12の道は、大きな難所があるわけではない。
だが、細かく嫌な道だった。
硬い石。
乾いた土。
浅い砂。
割れた街道。
第1チェックポイントを通過した。
Jr.は丁寧に走った。
ただ、昨日の疲れはある。
判断が遅いわけではないが、鋭さが少し鈍い。
「水」
「今?」
「今」
「…分かった」
第2チェックポイントを通過した。
中盤でフランキーが前へ出る。
エンジンの不安を抱えていても、彼女は落ち着いていた。
無茶はしない。
でも、逃げるところでは逃げる。
「フランキー、上手いネ」
「分かってる」
「追う?」
「…追いすぎない」
「いいネ」
第3チェックポイントを通過した。
終盤、Grenard Worksが一気に伸びた。
Jr.は一瞬だけ追いかけようとして、アクセルを緩める。
今日は壊さない。
今日は残す。
ゴール。
Jr.はヘルメットを外し、息を吐いた。
「今日は…3位くらいかもな」
「結果は明日ネ」
「分かってる」
フランキーが近づいてくる。
「今日は大人しかったな」
「休ませたんだよ」
「それできるようになったなら、強いじゃん」
「上から言うな」
フランキーは笑った。
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翌朝6時。
JMC DAY 12 / 800km
1位 Grenard Works 12pt
2位 Frankie / Pegasus 10pt
3位 Jr. & Popo / wildfox 8pt
4位 North Barrel 7pt
5位 Luca-Madis Team 6pt
「3位ネ」
「…まあ、今日はいい」
Jr.はモニターを見ながら言った。
ポポが少し驚く。
「ちゃんと分かってるネ」
「分かってる。今日は取りに行く日じゃなかった」
「そうネ」
「明日は戻す」
「うん」
Jr.は深く息を吐いた。
負けたというより、残した。
そう思えたことが、少しだけ成長だった。
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DAY 13 / 600km
DAY 13、区間距離は600km。
比較的短い日だが、その分ミスは取り返しにくい。
Jr.は朝から落ち着いていた。
「今日は行く」
「無理は?」
「しない」
「勝ちは?」
「狙う」
「いい答えネ」
スタート。
Maverickは低い音を響かせて走り出した。
第1チェックポイントを通過した。
序盤からJr.の動きは良かった。
昨日抑えた分、Maverickの反応もいい。
「左、短いけど少し狭い」
「行く」
「その先、右に抜ける」
「了解」
第2チェックポイントを通過した。
中盤、Jr.は1台を抜いた。
さらにもう1台。
前にはフランキー。
ただ、フランキーのマシンは少し重そうだった。
エンジンをかばっている動きだ。
「行くぞ」
「行くネ」
Maverickが前へ出る。
フランキーとの差が縮まる。
だが、先頭のGrenard Worksには届かない。
距離が足りない。
「1位は厳しいネ」
「分かってる」
「なら2位を取りに行く」
「ああ」
第3チェックポイントを通過した。
終盤、Jr.はフランキーを抜いた。
フランキーは無理に競らない。
悔しそうにしながらも、エンジンを守る走りに切り替えた。
「逃げんのか!」
「勝つために残すんだよ!」
フランキーが笑う。
Jr.は舌打ちしながらも、少しだけ笑った。
「ほんと嫌なやつだな」
Maverickはそのままゴールへ向かう。
ゴールラインを越えたあと、Jr.はヘルメットを外した。
「今日は悪くねぇ」
ポポが頷く。
「うん。いい日ネ」
フランキーは少し遅れて戻ってきた。
「抜かれたな」
「抜いた」
「でもまだ終わってねぇ」
「分かってる」
Jr.はMaverickを見る。
傷だらけだが、まだ走れる。
自分も、まだ走れる。
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翌朝6時。
JMC DAY 13 / 600km
1位 Scarlet Gear 12pt
2位 Jr. & Popo / wildfox 10pt
3位 Frankie / Pegasus 8pt
4位 Grenard Works 7pt
5位 North Barrel 6pt
ポポがモニターを見て頷いた。
「2位ネ」
「フランキーは3位か」
累計ポイントも表示される。
1位 Frankie / Pegasus 111pt
2位 Jr. & Popo / wildfox 108pt
差は3pt。
Jr.はしばらく、その数字を見つめていた。
「3pt」
「近いネ」
「ああ」
Jr.はゴーグルを握った。
「まだ終わってねぇ」
ポポは静かに頷く。
「もちろんネ」
残りはDAY 14とDAY 15。
10000kmの終わりが、少しずつ近づいていた。




