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Aster Crown 〜100勝するのが面倒で100人乱戦に出たら優勝して、最強の仲間ができました〜  作者: 辛子高菜


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第九十一話 JMC⑤



DAY 9 / 休息日


DAY 9、JMC唯一の完全休息日。


マトリカリアの補給エリアには、朝から工具の音が響いていた。

レースはない。

だが、決して休めるといつ暇な日ではなかった。

各チームは車体を分解し、タイヤを替え、燃料系を確認し、前半戦で受けたダメージを洗い出している。

Jr.も例外ではなかった。

朝食を終えるとすぐ、Maverickの足回りを確認し始めた。

ポポも隣で工具を渡し時々強制的に水を飲ませる。


「休息日なんだから休むネ」


「休むために先に終わらせんだよ」


「その理屈、だいたい休まない人の理屈ネ」


「うるせぇ」


そんなやり取りをしてしばらく経った昼頃。

補給エリアの外に、見慣れた車が入ってきた。

運転席から降りてきたソロは、扉を閉めるなり無言で空を見上げた。


「……遠かった」


心底疲れた声だった。

助手席からビアンカ、後部座席からターニャ、バイオレット、ロッキー、グレイ、さらにライリーがコットンを肩に乗せて降りてくる。


「Jr.〜!」


ロッキーが手を振った。


「わふ!」


グレイも元気に鳴く。

Jr.は工具を持ったまま固まった。


「……は?」


ポポが嬉しそうに笑う。


「応援団ネ」


「何で来てんだよ!」


「休息日だから、みんなで来たんだよ」


ロッキーはにこにこと言う。

Jr.はソロを見る。


「お前が運転してきたのか?」


「あぁ」


「疲れてんじゃねぇか」


「とても、遠かった」


ソロは短く答えた。

その声があまりにも平坦で、ビアンカが苦笑する。


「文句ひとつ言わずに運転してくれたのよ、ありがとね」


「ビアンカに任せた方が危険だからな」


「もう、なにそれ!」


ライリーは肩のコットンを撫でながら、小さな包みを抱えていた。


「…私はフランキーに頼まれたものを持ってきただけ…同乗させてもらった」


そう言って、ライリーは少しだけソロに頭を下げる。


「…ありがとうございました」


「目的地一緒だったし、大丈夫だよ」


ライリーとコットンは、そのままPegasusの整備エリアへ向かっていった。

途中、ロッキーに向かって小さく手を振る。


「あとで」


「うん! あとでね!」


ロッキーも大きく手を振った。

その様子を見ていたバイオレットの目が、ほんの少しだけ細くなる。

Jr.がすかさず言った。


「おい、怖い目で見るのやめろよ」


「見てない」


「見てる」


「……」


「今も怖ぇよ」


バイオレットは黙った。

ロッキーはまったく気づいていない。




ーーーーーーーーーー




整備が一段落した頃、ターニャとビアンカとソロが持ってきた大量の料理が広げられた。

おにぎり。

肉料理。

野菜の煮込み。

果物。

保存のきく焼き菓子。

温かいスープ。

Jr.は思わず目を丸くする。


「多すぎだろ」


「あなたたち、ちゃんと食べてないでしょう」


ターニャがきっぱり言う。


「食ってる」


「足りないわ」


ビアンカも皿を並べながら言った。


「成長期でしょ、食べなさい」


「だから子ども扱いすんな」


「12歳は子どもよ」


「たくさん食べないと大きくならないネ」


「うるせぇ!」


ロッキーはソロのおにぎりを手に取り、嬉しそうに笑った。


「ソロのおにぎり美味しいんだよねぇ」


「普通だ」


「普通じゃないよ、握り方がちょうどいい」


「おにぎり美味しいネ」


「…たくさんあるから、食え」


そこへ、Pegasusの3人が通った。

フランキーは手を振りながら近づいてくる。


「うわ、何だこの量」


「うまそっすね」


「今から休憩?」


「そっす、町で何か食おうかと」


「よかったら食べる?」


ターニャが言う。


「いいのか?」


「もちろん!」


ビアンカも頷く。


「人数分以上あるから」


「じゃ、遠慮なく」


DJはポポの隣に座り、自然と整備の話になった。


「そっち、DAY 7の足回り、結構やりました?」


「やったネ、タイヤも傷が深かったヨ」


「うちもDAY 8のエンジン、まだ完全じゃないっす」


「点火系?」


「そうっす。応急処置してなんとか走れたけど怖いっすね〜、ライリーに部品頼んだんでそれ次第っす」


「長いレースだからネ」


「ほんとそれっす」


ロッキーとライリーは、少し離れたところでグレイとコットンを並べていた。


「グレイ、ゆっくりね」


「わふ」


「コットン、怖くないよ」


ライリーが小さく言うと、コットンは彼女の袖の中からそっと顔を出す。

グレイは伏せの姿勢になり、じっと待っていた。


「グレイ、えらい」


「…本当に賢い」


「でしょ!」


ロッキーが嬉しそうに笑う。

その横顔を、バイオレットが見ていた。

また少し、目が細い。

Jr.が小声で突っ込む。


「だから怖ぇって」


「普通よ」


「普通の目で人はそんな空気出さねぇんだよ」


バイオレットは、今度はJr.を見た。


「何」


「いや、俺を見るな。もっと怖ぇ」


ポポが笑った。

フランキーはソロの近くに来て、軽く顎を上げる。


「ライリーたち送ってくれてありがとな」


「ついでだ」


「そのついで、助かった」


「ならいい」


ソロは短く答え、おにぎりをもうひとつ皿に置いた。


「食べるか」


「お、くれんの?」


「余ると困る」


「じゃあもらう」


フランキーはそれを受け取り、ひと口食べて少し眉を上げた。


「うま」


ソロは何も言わなかったが、ニコニコとしていて満足そうだった。




ーーーーーーーーーー




食事が始まると、Jr.はひたすら食べさせられた。


「これも」


ビアンカが皿を置く。


「スープも飲んで」


ターニャが器を差し出す。


「肉も食べるネ」


ポポがさらに盛る。


「こんなに食えねぇよ!」


「足りないわ」


「足りる!」


「昨日の消耗を考えたら足りないネ」


「俺を何だと思ってんだよ!」


「成長期のレーサー」


「だから!」


文句を言いながらも、Jr.は食べた。

温かい食事。

仲間の声。

少し騒がしい空気。

ここ数日、張り詰めていたものが少しずつ緩んでいく。

食べ終わる頃には、Jr.の瞼が少し重そうになっていた。

ポポがすぐに気づく。


「眠いネ」


「眠くねぇ」


「眠い顔してるわよ」


ビアンカが言う。


「してねぇ」


ターニャがにこりと笑う。


「寝なさいよ」


「…ちょっと寝る」


Jr.は観念したように立ち上がった。

フランキーがすかさず笑う。


「おこちゃまはおねむか?」


Jr.は振り返って睨む。


「うるせー」


「はいはい、いい子はお昼寝の時間だな」


「明日は置いてくからな」


「楽しみにしてる」


フランキーは笑いながら立ち上がった。


「んじゃ、私たちも作業に戻るか。ごっそーさん」


DJも軽く頭を下げる。


「ごちそうさまでした」


ライリーはコットンを抱え、ロッキーを見る。


「…帰る時、呼んで」


「うん。帰る時間になったら連絡するね」


「うん」


グレイが「わふ」と鳴く。

コットンも「きゅ」と小さく声を出した。


Pegasusの3人は、整備エリアへ戻っていった。




ーーーーーーーーーー




Jr.が仮眠に向かい、Pegasusも離れると、少しだけ静けさが戻った。

ポポはAster Crownの面々を見回した。


「みんな、ありがとうネ」


ロッキーが首を傾げる。


「何が?」


「来てくれたこと」


ポポは柔らかく笑う。


「おかげでJr.が戻ったヨ」


ターニャの表情が少しだけ真面目になる。


「やっぱり、無理してたのね」


「うん、DAY 7の前後は特にネ」


ポポは少し視線を落とした。


「急に無茶言ってごめんネ」


ビアンカは首を振る。


「いいのよ、応援に来たいと思ってたの」


ターニャも頷いた。


「でもレースだし、邪魔になるかと思って遠慮していたのよ」


ソロは短く言う。


「必要なら来る、例え片道10時間の運転だろうと」


バイオレットも静かに続けた。


「Jr.はAster Crownの仲間だから」


ポポは少しだけ目を細めた。


「うん」


ロッキーはグレイを撫でながら、ぽつりと言う。


「Jr.、ちゃんと最後まで走ってほしい」


「走るヨ」


ポポは穏やかに答えた。


「でも、1人だとたまに速く走りすぎるネ」


「だからポポさんがいるんだね」


「そうネ」


ポポは笑った。


「俺が重りネ」


「重り?」


「大事な重り」


ビアンカが微笑む。


「いい役目ね」


「でしょ」


ポポはいつものように明るく笑った。

けれど、その声には確かに安堵が混じっていた。




ーーーーーーーーーー




その頃。

Jr.は仮眠用のテントにいた。

横になったものの、すぐには眠れなかった。

外からは、工具の音が聞こえる。

誰かの笑い声。

風の音。

レースの匂い。

Jr.は仰向けのまま、首にかけていたロケットを取り出した。

古い、小さなロケット。

指で蓋を開ける。

中には、1枚の写真が入っていた。

茶髪の男の人。

Jr.によく似た金髪の女の人。

そして、その2人の間にいる小さなJr.

まだ、ビクターと呼ばれていた頃の自分。


「……」


Jr.は何も言わなかった。

ただ、写真を見つめる。

勝ちたい。

見返したい。

認めさせたい。

でも、それだけじゃない。

Maverickで走りたい。

wildfoxを証明したい。

じいちゃんの仕事を、胸を張って続けたい。

Aster Crownの仲間に、最後まで走る姿を見せたい。

色んなものが、胸の中で絡まっている。

Jr.はそっとロケットを閉じた。


「…最後まで走る」


小さく呟く。

誰に聞かせるでもなく。

自分自身に言うように。

それからロケットを胸元に戻し、Jr.はようやく目を閉じた。




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