第八十八話 ライリー&コットン
JMCが始まってから、xNestは連日レースの話題で埋まっていた。
初日、Jr. & ポポ / wildfox は区間3位。
DAY 2では区間2位。
12歳になったばかりのドライバー。
初参戦、しかもJMCという過酷な長距離ラリー。
最初は不安視する声も多かった。
『JMCは子どもの遊び場じゃない』
『話題性で出るには危険すぎる』
『wildfoxの宣伝か?』
『完走できたらすごいくらいだろ』
けれど、実際に走り始めたJr.は違った。
初日からポイント圏内。
2日目には2位。
しかもMaverickに大きな損傷はなく、走りも荒いだけではない。
その結果、空気は少しずつ変わっていった。
『Jr.普通に速い』
『初参戦でDAY1が3位、DAY2が2位は化け物』
『Maverickいい車体だな』
『ポポのナビも強い』
『これ本当に12歳?』
『wildfox、技術力あるじゃん』
『判断力もやばい』
『フランキーとJr.のライバル感いい』
『JMC序盤から面白すぎる』
Aster Crownのギルドハウスでも、その話題で持ちきりだった。
ラウンジのモニターには常にJMC公式の放送が流れている。
Maverickが砂地を抜ける映像。
フランキーのマシンを追う映像。
ゴール後、ヘルメットを外して少し悔しそうにするJr.。
隣でにこにこしているポポ。
暇さえあればラウンジで映像を見ているロッキーは、グレイを抱きながら目を輝かせていた。
「Jr.すごいねぇ」
「わふ」
「昨日より順位上がってるんだよ、3位から2位」
「わふっ」
「グレイも応援してる?」
「わふ!」
ターニャはその横でロッキーのリハビリメニューを確認している。
「ロッキー興奮しすぎない」
「はい」
「座ったまま見る」
「はい」
「配信するなら30分まで」
「はい…え?」
ターニャが顔を上げる。
「するつもりだったでしょう」
ロッキーはぎくりとした。
「…応援配信、少しだけしたいなって」
「Jr.の邪魔にならない内容で30分、立ち上がらない。コメントを追いすぎない」
「はい!」
「それから、また変な発言で燃えないこと」
「変な発言してるつもりはないんですけど…」
「そこが怖いのよ」
ビアンカが横で笑う。
「いっそ誰かと一緒にやったら?ロッキーひとりだと、コメント拾いすぎるもの」
「あ」
ロッキーが何か思いついた顔をした。
「ライリーさんに聞いてみようかな」
ターニャとビアンカが同時にロッキーを見る。
「ライリーさん?」
「うん。コットンも一緒に、Jr.とフランキーさんがレースしてるし、俺とライリーさんで応援配信できたら楽しいかなって」
「……」
「……」
「だめ?」
ターニャは少し考えてから、肩の力を抜いた。
「いいと思うわ。事前に内容を決めて、無理のない範囲なら」
ビアンカがにやっと笑う。
「またxNestが騒ぐわね」
「えっ、なんで?」
「人気者だからよ」
「?」
ーーーーーーーーーー
その日の夜。
ロッキーの配信告知が出た。
ロック・レオンハート
@leonhart_r
今日は少しだけJMC応援配信をします!
ライリーさんとコットンも来てくれます!
グレイもいます!
Jr.とポポさん、フランキーさんたちを応援しよう!
投稿直後からコメント欄がざわついた。
『ライリー!?』
『コットンきた!』
『Aster CrownとPegasusコラボ!?』
『ロッキー、またナチュラルに距離詰めてる』
『グレイとコットン並ぶの?』
『JMC応援配信なのに癒し枠』
『Jr.とフランキーがバチバチの裏でこれやるの草』
『見ます』
ーーーーーーーーーー
配信が始まると、いつも以上の人数が集まった。
画面の左にはロッキー、膝の上にグレイ。
右にはライリー、肩にコットン。
ライリーは少し緊張しているのか、いつもよりさらに口数が少ない。
黒髪ボブの赤いインナーカラーが、画面越しにもよく映えていた。
「こんばんは、ロック・レオンハート、ロッキーです」
「わふ」
「グレイです」
続いて、ロッキーが右を指す。
「今日はPegasusのライリーさんとコットンも来てくれました!」
「…ライリーです」
コットンが小さく顔を出す。
「こっちはコットン」
コメント欄が一気に流れる。
『コットン小さい!』
『かわいいいい』
『グレイもいる!』
『ライリーちゃん声小さめなのかわいい』
『Pegasusってもっと怖いギルドかと思ってた』
『ギャングみたいな見た目なのに癒し枠』
『ギャップ萌えだ』
『ロッキー、よくこのコラボ成立させたな』
ロッキーは嬉しそうに笑う。
「コットン、今日もかわいいね」
ライリーは少しだけ目を逸らす。
「…ありがとう」
「この前果物食べてる写真見たよ、すごくかわいかった」
「…あれ、好きだから」
「何の果物?」
「赤いベリー」
「グレイは肉の方が好きだけど、果物も少し食べるよ」
「わふ」
「きゅきゅっ」
グレイが鳴くと、コットンも小さく鳴いた。
コメント欄がさらに沸く。
『会話してる!?』
『グレイとコットン尊い』
『今日の主役はJMCでは?』
『いや癒しも必要』
『ライリーちゃん思ったよりふわっとしてる』
『Pegasusの印象変わるわ』
ロッキーはJMC公式の結果画面を表示した。
「Jr.とポポさん、DAY 1が3位でDAY 2が2位なんです。すごいですよね」
ライリーも頷く。
「…Jr.さん速い」
「フランキーさんとDJさんもずっと1位だよね、すごい」
「フランキーとDJはすごい」
ライリーは少し誇らしそうに言った。
「いつも口悪いけど、走るとちゃんとしてる」
「Jr.も口悪いけど走るとすごいよ」
「…似てる?」
「似てるかも」
ロッキーが笑う。
コメント欄がまた盛り上がる。
『Jr.とフランキー似てる説』
『どっちも口悪い天才』
『ライバルとして最高』
『ロッキーとライリーが保護者目線なの草』
『ギルド同士はバチバチなのに配信が平和』
そこへスパチャが飛んだ。
1000X end_hik『Jr.とフランキー両方応援してる!』
500X ito8『コットンのおやつ代』
500X winter215『グレイのおやつ代』
ロッキーが慌てる。
「ありがとうございます。でもお金は大事なので無理しないでください」
ライリーも画面の向こうで小さく頭を下げる。
「…ありがとう、コットンにおやつ買う」
ロッキーがぱっと笑う。
「コットン、よかったね」
コットンがライリーの肩でふわっと動いた。
『ライリーちゃん律儀』
『おやつ代受け取るのかわいい』
『Pegasusのギャップがすごい』
『DJとフランキーも出てほしい』
『いやフランキー出たら空気変わるw』
『この2人癒し』
コメントの中に、こんなものも流れた。
『Pegasusって最初ほんとにギャングかと思った』
ロッキーがそれを拾って真顔で頷く。
「俺も初めて見た時本物のギャングだって思いました」
ライリーが少しだけ吹き出した。
「…言ってた」
「ごめんなさい」
「フランキーは喜んでた」
「喜んでたんだ」
「たぶん」
コメント欄が爆笑する。
『本人も言ってたw』
『本物のギャングw』
『フランキー喜ぶの分かる』
『ライリーちゃん笑った!?』
『かわいい』
『Pegasus推せるかもしれん』
ライリーはコメントの勢いに少し戸惑いながらも、嫌そうではなかった。
「…こんなに見られると思わなかった」
「俺も最初びっくりしたよ」
「ロッキーは慣れてる?」
「慣れてない」
「…そうなんだ」
「うん。コメント早いと読めないし、たまに変なこと言っちゃうし」
『自覚あった』
『変なこと言っちゃうw』
『でもそこがいい』
『今日も平和で助かる』
ロッキーは少し照れながら、画面の端にJMC公式の地図を出した。
「明日も距離長いみたいだから、Jr.たちもフランキーさんたちも無事に走ってほしいですね」
ライリーが頷く。
「…怪我なく、壊れず」
「うん。Maverickも、Pegasusの車も」
「フランキー、勝つと思う」
「Jr.も勝つって言ってた」
「…じゃあ、いい勝負」
「うん!」
ロッキーは笑った。
「どっちも応援しよう」
ライリーは一瞬だけ迷ってから、小さく頷いた。
「…うん」
ーーーーーーーーーー
配信は30分で終わった。
最後にグレイとコットンがそれぞれ画面に近づき、コメント欄がまた盛り上がる。
「今日はありがとうございました。JMC、みんなで応援しましょう」
「わふ」
「…ありがとうございました」
「きゅっ」
コットンが小さく鳴く。
配信が終わると、ロッキーはふぅと息を吐いた。
「楽しかった」
ターニャが横から端末を確認する。
「今回は大きな誤解はなさそうね」
「今回は?」
「えぇ、今回は」
ロッキーは首を傾げる。
一方、配信後のxNestでは、別の意味で盛り上がっていた。
『ライリーちゃん、思ったよりかわいかった』
『Pegasusってギャング集団かと思ったけどギャップある』
『コットンかわいすぎ』
『ライリー、声小さくて照れてるの良い』
『ロッキーとライリー、動物好き同士で平和』
『Jr.とフランキーの裏でこのコラボは草』
『Pegasusの印象変わった』
『ライリーのフォロワー増えそう』
『グレイとコットンの公式交流もっと見たい』
ライリーのフォロワーは、その夜だけで一気に増えた。
特に、コットンの写真には大量のいいねがついた。
ライリーは自室でその通知を見て、少し困ったようにコットンを見る。
「…増えた」
「きゅっ」
コットンが首を傾げる。
「たぶん、あなたのせい」
コットンは何も分かっていない顔で、小さく鳴いた。
その頃、レース先の宿営地で休憩していたフランキーは、その切り抜きを見て笑っていた。
「ライリー、人気出てんじゃん」
DJが横から覗き込む。
「Pegasus、ギャップ萌えって言われてますよ」
「何だそれ」
「さぁ」
フランキーは画面の中のロッキーを見て、にやりと笑う。
「あいつ、変な方向からこっちの印象変えてくるな」
そして同じ宿営地の少し離れた場所では、Jr.がその切り抜きを見て眉をひそめていた。
「何やってんだ、あいつ」
ポポが笑う。
「応援配信ネ」
「JMC応援配信なのに、ほぼコットン配信じゃねぇか」
「平和でいいヨ」
「まぁ…悪くはねぇけど」
Jr.は端末を閉じる。
少しだけ口元が緩んでいた。
「早く寝て、明日も走るぞ」
「もちろんネ」




