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Aster Crown 〜100勝するのが面倒で100人乱戦に出たら優勝して、最強の仲間ができました〜  作者: 辛子高菜


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第七十八話 JMC



ロッキーの運動リハビリが始まった頃だった。

まだ走ることはできない。

剣を振るのも、軽い木刀を少しだけ。

ターニャの監視つきでゆっくり歩き、軽く体を動かし疲れたらすぐ休む。

そんな日々が続いていたある夜、Jr.がラウンジに全員を集めた。


「明日wildfox公式で参加表明する」


開口一番、Jr.はそう言った。

ロッキーはグレイを撫でながら首を傾げる。


「参加表明?」


「だから、その前にお前らには伝えとく」


Jr.は腕を組んだまま、少しだけ顎を上げる。


「俺とポポでレースに出る」


ラウンジの空気が一瞬止まった。

ポポは隣でにこにこしている。


「楽しみネ」


ソロが眉を上げた。


「レースってどれだ」


「JMC」


Jr.が短く答えた瞬間、ソロの表情が変わった。


「JMCに出るのか!?」


ビアンカも目を丸くする。


「本気?」


「本気に決まってんだろ」


ロッキーだけが話についていけずきょろきょろしている。


「JMCって?」


Jr.はロッキーを見る。


「マシンレースには色々ある。短距離、周回、障害、魔導補助あり、反重力式、いろいろな」


「うん」


「その中でもJMCは別格だ。長距離走破型のレース」


ターニャが補足するように言った。


「4年に1度開催されるレースよ、過酷すぎることで有名なの」


「過酷すぎる…」


ロッキーが少し身を乗り出す。

Jr.は端末を操作し中央モニターに地図を映した。


ウィステリア王国の東にあるジュニパー王国。

その最南端にある港町、オキムム。

そこからルートが伸びている。

荒野を抜け、マグノリア王国を越えさらに西へ。

チェスナット王国の西端、アルテア。

そこがゴール地点だった。


「ジュニパー、マグノリア、チェスナット」


Jr.が地図を指差す。


「この3国を横断する1万km走破レース。国の頭文字を取って、JMC」


「1万…」


ロッキーが固まる。


「1万km!?」


「そうだ」


「1日で?」


「死ぬわ」


Jr.が即答した。


「だいたい2週間かけて走る。途中で整備、補給、休憩を挟みながらな」


ビアンカが腕を組む。


「しかもアナログ方式でしょ?」


「そうだ」


Jr.の目が少しだけ楽しそうに光る。


「魔導制御なし、反重力なし、燃料式の四輪のレース。ナビも最低限、車体性能、整備力、運転技術、判断力、体力、全部が試される」


「燃料式…四輪」


ロッキーは想像しようとしてうまくできていない顔をする。


「tiny rideとは全然違うの?」


「全然違う」


Jr.は少し得意げに言った。


「こっちは浮かない、タイヤで地面を掴んで走る。荒野も岩場も砂地も泥も、全部な」


「それ、すごく大変じゃない?」


「だから面白いんだろ」


Jr.は当然のように言う。

その顔はいつもの生意気な少年のものだった。

けれど同時に、技術者でありレーサーの顔でもあった。

ソロが少しだけ眉を寄せる。


「でも、JMCの出場条件は12歳以上だったはずだ」


「俺は2週間後に12歳になる、レース前にな」


Jr.は胸を張る。


「出場条件を満たす!だから出られるんだ!」


ロッキーがぱちぱちと瞬きをした。


「…え?」


「何だよ」


「Jr.、12歳なの!?」


Jr.の眉間に皺が寄る。


「逆にいくつだと思ってたんだよ」


「えっと…13歳くらい?」


「ほぼ誤差だろ」


「でも12歳ってまだ子どもじゃ…」


「お前はそれ以上言うな」


Jr.が低く言う。

ポポが笑う。


「子どもネ」


「ポポも言うな!」


ビアンカが肩を震わせる。


「来月12歳でJMCに出るって普通に考えたら相当おかしいわよ」


「おかしくねぇ、公式の条件は満たしてるだろ」


「条件だけならね」


ターニャが少し心配そうに言う。


「危険も多いわ。ルートも読みにくいでしょう」


「分かってる」


Jr.は即答した。


「だから準備してきた」


その言葉に全員が少し黙った。

Jr.はただ勢いで言っているわけではない。

tiny rideの受注分を抱えながら、ロッキーのmodel G 2号機を作りながら、それでもこのための準備も進めていたのだ。


「1人、サポートを連れて行ける」


Jr.は続ける。


「だからポポを選んだ」


ロッキーがポポを見る。


「ポポさんがサポート?」


「そうヨ」


ポポはにっと笑う。


「整備の手伝い、荷物、補給、警戒、交渉、力仕事。俺、便利ネ」


「便利って言い方」


ビアンカが苦笑する。


「でも確かに、ポポ以上のサポートはいないかも」


ソロも頷いた。


「荒野でトラブルが起きた時、ポポがいるのは大きいな」


ロッキーは地図を見つめたまま、小さく呟いた。


「2週間…長いね」


「まあな」


「危ない?」


Jr.は少しだけ間を置いた。


「危なくないとは言わねぇ」


ロッキーが顔を上げる。


「でも、俺は勝ちに行く」


Jr.の声はまっすぐだった。


「wildfoxの名前を出して、公式で参加表明する。俺個人のレースじゃない。会社としても、Aster Crownとしても見られる」


「…うん」


「だから半端なことはしねぇ」


バイオレットが静かに口を開いた。


「勝算は?」


「ある」


Jr.は即答する。


「車体はもうほぼ組んでる。燃料効率も悪くない。耐久性も上げた。あとは本番でどれだけ壊さず、どれだけ直せるか」


「壊れる前提なのね」


ターニャが言う。


「JMCだぞ?壊れない方がおかしい」


Jr.は少し笑った。


「壊れた時に終わらせないやつが勝つ」


「…応援する」


ロッキーが言った。


「ありがとよ」


「配信とかで応援していい?」


「変なこと言うなよ」


「変なこと?」


「俺が好きとか言うな」


「好きだけど」


「言うなって言ってんだろ!」


ロッキーは不思議そうに首を傾げる。

ポポが大笑いした。


「出発前から楽しいネ」


「楽しくねぇ!」


ターニャが小さく笑いながらも、真面目な顔に戻る。


「出発は?」


「3週間後に現地入り、スタートはそのさらに数日後」


「オキムムまで長旅になるけど、ロッキーの回復状況次第では見送りくらいはできるかもしれないわね」


ロッキーの顔が明るくなる。


「ほんと?」


「状態が良ければ」


「リハビリ頑張る」


ポポがJr.の肩に大きな手を置く。


「頑張ろうネ、相棒」


Jr.はその手を鬱陶しそうに払いのける。


「重い」


「照れてるネ」


「照れてねぇ」


けれど、その顔は少しだけ嬉しそうだった。

Aster Crownは、Nachtmusikとの戦いを越えた。

だが、そこで止まるギルドではない。

今度はJr.とポポが世界の荒野へ向かう。

ロッキーはモニターに映るJMCの長大なルートを見つめた。


 1万km


まだ自分には想像もつかない距離。

でも、Jr.なら走るのだろう。

壊れても直して、迷っても進んで、最後まで。


「頑張ってね、Jr.」


ロッキーが言う。

Jr.はふん、と鼻を鳴らした。


「見てろ」


その短い言葉に、Jr.の全部が詰まっていた。



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