第七十七話 取材
ついにMr.Zの取材の日がやってきた。
場所はAster Crownのギルドハウス内、ラウンジの一角。
ロッキーはまだ完全復帰ではないため長時間の取材は不可、激しい動きも不可、質問内容によっては即中断。
その条件をつけたのはもちろんターニャだった。
「兄さん」
「分かってるよ」
「変な質問をしたら止めるわ」
「俺を何だと思ってるのかな」
「有名xTuber」
「正解だけど言い方がさ」
Mr.Zは今日は取材用の姿だった。
髪は整えられサングラスもかけている。
派手なジャケットにいつもの余裕ある笑み。
その隣には、七三分けのピンク髪にスーツ姿のAZが控えている。
カメラと記録端末の位置を淡々と確認していた。
ロッキーはソファに座り、膝の上にグレイを乗せている。
「緊張するね、グレイ」
「わふ」
「グレイは平気そう」
Mr.Zが笑う。
「いいねぇ、その自然体がロッキーくんの魅力だよ」
「ありがとうございます?」
「疑問形なのがいい」
「兄さん」
ターニャが低く呼ぶ。
「はいはい、始めようか」
カメラのランプが点く。
ミハイルは一瞬で司会者の顔になった。
「皆さん、こんにちは!Mr.Zです!本日はいま世界中で注目を集めている新規ギルド、Aster Crownのギルドハウスにお邪魔しています」
軽快な声。
けれど、浮ついてはいない。
「そして今日お話を聞くのは、ルーキーランクでメレーを制し、なんと合わせて3連覇してシルバーランクに上がった新進気鋭のランカー!Aster Crownの副将としてNachtmusik戦に出場したーーロック・レオンハートくんです」
「えっと、よろしくお願いします」
「そして相棒のグレイくん」
「わふっ」
「いい返事だ」
ロッキーが笑う。
その笑顔を見てターニャも少しだけ安心したように息を吐いた。
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取材は意外なほど丁寧に進んだ。
山奥で祖父と暮らしていたこと。
素材を売りに街へ出た時、ランカーという仕事を知ったこと。
パパウェルへ来て、ランカーになったこと。
依頼を受けるにはブロンズランクが必要だと知って、メレーに出たこと。
「普通はそこでメレーに出ないんだけどね」
Mr.Zが笑う。
「そうらしいですね」
ロッキーが照れて頭をかく。
「そうだよ。ルーキーでメレーに出るのは相当な自信家か命知らずか本物の大物か、その全部だね」
「俺は早く依頼を受けたかっただけで…」
「その理由が一番珍しいんだよなぁ」
Mr.Zは楽しそうに頷いた。
「そしてメレー優勝後にxNestへ初投稿。内容は?」
ロッキーは少し恥ずかしそうに言う。
「優勝しました。賞金でお肉食べてます。美味しい、みたいな…」
「世界がざわついたね」
「なんでですかね…」
「そりゃあ、ルーキーでメレー優勝した本人が最初に発信したのが肉だからだよ」
「お肉美味しかったので」
「うん、そこがいい」
そして、黒金草の依頼で危険区域に入ってしまったこと。
バイオレットたちに助けられたこと。
食事に誘ったこと。
そこから関係ができ、ギルド設立へ繋がったこと。
Mr.Zは途中で茶化しすぎず、でもロッキーが話しやすいように笑いを混ぜた。
ターニャもそこまでは黙って聞いていた。
「では、Nachtmusik戦についても少しだけ」
Mr.Zの声が少し落ち着く。
「辛ければ答えなくていい。あの副将戦、最後まで立ち続けた理由は?」
ロッキーは膝の上のグレイを撫でた。
少しだけ考えて、答える。
「勝ちたかったからです」
「うん」
「でも今それだけじゃなくて…俺がここで簡単に負けたら、Aster Crownのみんなが馬鹿にされる気がして」
「うん」
「あと、バイオレットは渡さないって決めてたので」
ターニャの目が少しだけ揺れる。
ロッキーは続けた。
「負けちゃったけど、最後まで立つことはやめたくなかったです」
Mr.Zは頷いた。
「見ていた人にはちゃんと伝わっていたと思うよ」
「そうだと嬉しいです」
「少なくとも俺には伝わった」
ロッキーは少しだけ照れた。
「ありがとうございます」
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真面目な話が一段落したところで、ミハイルは少しだけ声の調子を軽くした。
「さて、ここからは少し柔らかい質問もしていいかな?」
ターニャの目が細くなる。
「兄さん」
「大丈夫、プロだから」
「その言葉信用できないのよね…」
「信用してくれ、妹よ」
ロッキーは2人のやり取りを見て少し笑った。
「大丈夫です。答えられることなら」
「ありがとう」
ミハイルはにこっと笑う。
「じゃあ、みんなが気になっていると思うんだけどさ」
ターニャの警戒度が上がる。
AZのカメラが静かにロッキーへ寄る。
ミハイルは、固有名詞を出さずに聞いた。
「恋人はいる?」
ロッキーはきょとんとした。
「いないです」
即答だった。
ターニャが小さく息を吐く。
ミハイルは笑顔を崩さない。
「なるほど。じゃあ、好きな人は?」
「いないです」
これも即答。
あまりにも自然だったので、Mr.Zが一瞬だけ笑いを堪えた。
「そっかそっか」
「はい」
「じゃあ、どんな人が好きなの?」
ロッキーは少し考えた。
グレイの頭を撫でながら真面目に悩む。
「どんな人…」
「理想のタイプ、みたいなものかな」
「うーん…」
ロッキーはしばらく黙った。
ターニャは横で静かに見守っている。
Mr.Zも急かさない。
やがて、ロッキーはぽつりと言った。
「一緒にいて、安心する人がいいです」
「安心」
「はい、無理しなくてもいい人」
ロッキーは膝の上のグレイを見る。
「あと、グレイに優しい人」
「大事だね」
「大事です」
グレイが「わふ」と鳴く。
「それから…仲間を大事にする人がいいです」
Mr.Zの目が少しだけ細くなる。
「強い人がいい?」
「強いのはすごいと思います。でも、強いから好きになるとかではないです」
「じゃあ?」
「弱い人を馬鹿にしない人がいいです」
その言葉にターニャの表情が少しだけ柔らかくなった。
ロッキーは続ける。
「強くても、誰かを踏む人は嫌です」
「うん」
「強くなくても、ちゃんと立とうとする人はすごいと思うし…俺もそうなりたいので」
Mr.Zはしばらく黙っていた。
そして、穏やかに笑った。
「いい答えだ」
「そうですか?」
「うん。とても君らしい」
ロッキーは少し照れる。
「でも、恋人とかはまだよく分からないです」
「そうなの?」
「はい、Aster Crownに入ってから毎日いっぱいいっぱいで」
「楽しい?」
「楽しいです」
ロッキーは迷わず答えた。
「大変なこともあるけど、みんながいてグレイがいて…今はそれだけで十分です」
ターニャが静かに微笑む。
Mr.Zはカメラの方へ少しだけ視線を向ける。
「なるほど。つまり今のロッキーくんは恋よりも仲間とグレイと回復が最優先、と」
「はい!」
「グレイが入ってるのがいいね」
「グレイは大事です」
「わふ!」
「本人も同意してる」
場が少し和んだ。
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取材が終わるとミハイルは満足そうに伸びをした。
「いやぁ、いい話が聞けた」
ターニャは腕を組む。
「最後、少し攻めたわね」
「攻めたけど守ったよ?名前は出してない」
「そこは評価するわ」
「妹に褒められた」
「褒めてない」
ロッキーは首を傾げる。
「変な答えでした?」
「変ではないよ」
ミハイルは笑う。
「みんな気になってることだからね」
「そうなんですか」
「そうなんだよ」
ロッキーは不思議そうにグレイを見る。
「みんな色々気になるんだね」
「わふ」
ターニャは小さくため息をついた。
「ロッキー、今日の取材はここまで。少し休みましょう」
「はい」
「兄さんも帰って」
「余韻くらい味わわせてくれない?食事とか」
「帰って」
「厳しい」
AZはすでに機材を片付け始めていた。
Mr.Zはロッキーに手を振る。
「公開前に確認は送るよ。無理な部分があれば言って」
「ありがとうございます」
「あと、グレイくん特集はまた別日で」
「グレイ特集!」
ロッキーの顔が輝く。
ターニャが即座に言う。
「ロッキーが完全に治ってから」
「はい」
「約束だね」
「兄さん」
Mr.Zは笑いながらAZと一緒にラウンジを出て行った。
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その日の夜。
編集前の確認用映像を見たターニャは、最後の恋愛質問のあたりで少しだけ眉を上げた。
そして思った。
これはまた、切り抜かれる。
間違いなく切り抜かれる。
特に、
「一緒にいて、安心する人」
「グレイに優しい人」
「仲間を大事にする人」
「弱い人を馬鹿にしない人」
このあたりは、見る人によって勝手に誰かを重ねるだろう。
でも、悪い内容ではない。
むしろロッキーの人柄がよく出ている。
ターニャは小さく笑い、確認済みの返信を送った。
その頃、ロッキーはラウンジで何も知らずにグレイを撫でていた。
「グレイ特集楽しみだね」
「わふ」
「でも俺、恋人いるかって聞かれると思わなかった」
「わふ?」
「グレイはいる?好きな子」
「くぅん」
「そっか」
ロッキーは真面目に頷く。
「今度ダンにも聞いてみようか」
グレイが尻尾を振る。
その無邪気な会話を聞いていたJr.は、そっとため息をついた。
「…こいつ、ほんと何も分かってねぇな」




