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Aster Crown 〜100勝するのが面倒で100人乱戦に出たら優勝して、最強の仲間ができました〜  作者: 辛子高菜


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第七十五話 好きだよ



街で声をかけられた日の夜。

ロッキーはベッドの上でグレイを撫でながら、少しだけそわそわしていた。


「ターニャさん」


「だめよ」


「まだ何も言ってないです」


「顔が“何かしたい”って言ってるもの」


ターニャは薬の時間を確認しながらちらりとロッキーを見る。

ロッキーは少しだけ困ったように笑った。


「ちょっとだけ、配信したいんです」


「却下」


「えぇ…」


「あなた、自分がまだ怪我人だって分かってる?」


「分かってます」


「右腕固定中。全身打撲。骨折治療中。外出も短時間だけ」


「はい…」


ロッキーはしょんぼりとグレイを撫でる。


「でも、今日街でたくさん声かけてもらって…応援してくれた人にお礼言いたくて」


ターニャの手が止まった。


「……」


「少しだけでいいです。30分とか、ベッドの上でやります。動きません」


ターニャはため息をつく。


「30分だけ」


「ほんとですか!」


「30分、延長なし、途中で具合が悪くなったら即終了、コメントを見すぎない、変なコメントに傷つかない、スパチャに慌てすぎない」


「はい!」


「返事だけはいいのよね…」


そう言いながらも、ターニャは配信の用意してくれた。




ーーーーーーーーーー




配信開始の通知を出してから、数分。

待機人数はロッキーが見たことのない数字になっていた。


「…え」


ロッキーは画面を見て固まる。


「ターニャさん、これ壊れてます?」


「壊れてないわ」


「でも、数字がすごいです。ターニャさんのアカウントだったりしますか?」


「あなたのアカウントよ」


「え」


「あなた、今かなり話題の人なのよ」


「俺が…」


ロッキーはまだ信じられない顔をしている。

膝の上ではグレイが丸くなっていた。

そして、配信が始まる。


「えっと、こんばんは!ロック・レオンハートです」


コメントが一気に流れた。



『きたぁぁぁ』


『ロッキー!』


『グレイいる!』


『無理しないで』


『腕大丈夫?』


『寝てていいんだよ』


『配信してくれてありがとう』


『副将お疲れさま!』


『Aster Crown勝利おめでとう!』



ロッキーはコメントの圧に少し目を丸くしながら、ぺこりと頭を下げる。


「まず、ギルドバトル応援ありがとうございました。俺は負けちゃったんですけど、みんなが勝ってくれてAster Crownは勝てました」


コメントがすぐに荒ぶる。



『負けちゃったんですけどじゃない』


『繋いだんだよ』


『ロッキーも勝利メンバーだよ』


『副将だったよ』


『泣いた』 


『弱き者じゃなかった』



「えっと…ありがとうございます」


ロッキーは照れたように笑った。


「怪我は治療してもらってます。まだちょっと痛いけど、ターニャさんがちゃんと見てくれてるので大丈夫です」


画面の外ではターニャが腕を組んでいる。



『ターニャ姉いるの?』


『監視付き配信w』


『絶対安静配信』


『ターニャさんありがとう』



「ターニャさん、ありがとうって」


「どういたしまして。ロッキーは姿勢を崩さない」


「はい」



『管理されてるw』


『安心した』


『ターニャ姉強い』



その時、最初のスパチャが飛んだ。



 1,000X Lenalee『グレイくんのおやつ代。ロッキーも休んで』


「リナリーさん!?」


ロッキーがびっくりする。

すぐに続けて、さらに投げ銭が飛ぶ。


500X sai_w『快復祈願』


2,000X cooly『副将かっこよかった』


300X oilsay『グレイもえらい』


5,000X unknown『新しいバイク代の足しに』


「え、ちょ、またお金…!」


ロッキーが慌てる。


「ありがとうございます。でも無理しないでくださいね。お金大事なので」



『出たw』


『お金大事なのでw』


『ロッキー節』


『こっちが投げたいんだよ』


『受け取って』


『グレイのおやつ代ならいい?』



「グレイのおやつ代は…グレイに確認します」


「わふ!」


「食べたいそうです」



『www』


『即答』


『グレイが言うなら仕方ない』


『おやつ代追加だ』



また投げ銭が飛び、ロッキーが困ったように笑う。




ーーーーーーーーーー




少しして、コメントの流れが変わった。



『今度街で会ったらサインちょうだい』


『ロッキーのサイン欲しい』


『グレイの肉球サインもほしい』


『Aster Crown副将のサイン』



「サイン?」


ロッキーは不思議そうに首を傾げる。


「俺、有名人じゃないからサインとかないよ」


一瞬、コメント欄が止まったように見えた。

そして次の瞬間ツッコミが流れる。



『有名人です』


『自覚して』


『今何万人見てると思ってるの』


『トレンド見ろ』


『副将、現実見て』


『あなたはサインする側です』



「えぇ…」


ロッキーは本気で困っている。


「でも、俺字きれいじゃないし…」



『そういう問題じゃない』


『心配するとこそこなの』


『かわいい』


『グレイの肉球でいい』


『右腕治ったら考えて』



「じゃあ、右腕が治ったら…考えます」



『言質取った』


『今のとこ切り抜きして』


『サイン会だ』


『グレイ同伴でお願いします』




ーーーーーーーーーー




しばらくはゆるく笑っていた。

しかし、コメント欄に現れたひとつの質問で流れが変わる。



『で、バイオレットとはどうなの?』



ロッキーがぱちぱちと瞬きをする。


「ヴィオ?」


コメントが急に速くなる。



『そう』


『ヴィオロキ』


『試合後抱きついてたよね』


『待たせたわね、の破壊力』


『2人で出かけたりするの?』


『好き?』



ロッキーは何も疑わず、あっさり言った。


「ヴィオ?好きだよ」


コメント欄が一気に溢れる。



『!?!?!?』


『言った!!!!』


『好きだよ!?』


『切り抜け!!!!』


『ヴィオロキ確定!?』


『待って待って待って』


『本人から供給きた』



ロッキーはさらに続ける。


「2人で出かけたりもするよ。グレイも一緒にだけどね。この間行った渓谷とかすごく綺麗だった」


スパチャが飛ぶ。



10,000X unknown『ありがとう』


3,000X yuzumochi『幸せになって』


1,500X mion『渓谷デート!?』



「え、なんでお金!?」


ロッキーが慌てる。

ターニャは額に手を当てた。


「ロッキー…」


「え?」


「言葉を少し選びましょうか」


「変なこと言いました?」


コメント欄はまだ燃えている。



『変ではない』


『変ではないけど』


『破壊力が』


『本人が無自覚』


『バイオレット見てる?』



ロッキーは首を傾げる。


「え、だってターニャさんも好きだし、ソロも好きだし、ビビも好きだし、ポポも好きだし、Jr.も好きだよ!そういう話でしょ?」


一瞬の間。

そしてコメント欄に妙な納得の空気が流れた。



『アーーーーーーネ』


『そっちの好きね』


『知ってた』


『ロッキーだった』


『仲間大好きロッキー』


『はい解散』


『でもバイオレットだけ最初に出たぞ』


『2人で出かけたりするよ、は残ります』


『ヴィオロキ勢、まだ戦える』



ターニャが小さく笑う。


「ロッキーはAster Crownが好きなのね」


「うん!」


ロッキーは嬉しそうに頷いた。


「みんな大事な仲間だから」


「わふ」


「もちろんグレイも」


グレイは満足そうに胸を張った。

コメント欄は温かくなったり、まだ少しざわついたりしている。



『仲間っていいな』


『Aster Crown推せる』


『グレイも好き』


『バイオレットの反応見たい』


『Jr.は好きって言われて照れてそう』



その時、画面外から別の声がした。


「俺を巻き込むな!」


「あ、Jr.」


ロッキーが振り向く。

Jr.は入口付近で腕を組んでいた。


「好きとか配信で言うな」


「え、嫌だった?」


「嫌とかじゃねぇ」



『Jr.照れてる』


『照れてる』


『完全に照れてる』


『Jr.かわいい』



「照れてねぇよ!」


Jr.がコメント欄に怒鳴る。

ロッキーは笑う。


「Jr.も見てくれてたんだ」


「通りかかっただけだ」



『通りかかっただけw』


『見てるじゃん』


『Aster Crown仲良し』



ターニャが時計を見る。


「ロッキーそろそろ締めて」


「はい」


コメント欄が一斉に惜しむ。



『もう終わり?』


『休んでほしいけど寂しい』


『無理しないで』


『ありがとう』


『また元気な時に』



ロッキーは画面に向き直った。


「今日は少しだけでしたけど、見に来てくれてありがとうございました。応援してもらえて本当に嬉しかったです」


少しだけ間を置いて、照れたように笑う。


「まだちゃんと動けないけど、早く治してまたグレイと散歩したり、配信したりします」



『待ってる!』


『グレイまたね』


『ロッキー休んで』


『Aster Crownありがとう』


『副将、お大事に』



「じゃあ、おやすみなさい」


ロッキーが手を振る。


「わふ」


グレイも鳴く。


配信が切れる直前まで、コメントは流れ続けていた。




ーーーーーーーーーー




配信終了後。

ロッキーはふう、と息を吐いた。


「緊張した…」


「30分でも疲れたでしょう」


「少し」


「じゃあ休む」


「はい」


ターニャが端末を片付ける。

Jr.はまだ入口に立っていた。


「お前さ」


「うん?」


「何でも素直に言いすぎ」


「そうかな」


「そうだよ」


「でも、好きなものは好きって言った方がいいかなって」


Jr.は一瞬だけ黙り、顔を逸らした。


「…そういうとこだぞ」


「?」


ロッキーはよく分からない顔をしている。

グレイがその膝の上で丸くなる。

ターニャは小さく笑った。

ロッキーはまだ知らない。

この配信の切り抜きが、


「バイオレット?好きだよ」

「2人で出かけたりもするよ」


という部分だけで、またxNestを騒がせることを。

そして、その直後の


「ターニャさんも好きだし、ソロも好きだし、ビビも好きだし、ポポさんも好きだし、Jr.も好きだよ!」


まで含めて、さらに盛り上がることを。

その頃、別室でその配信を見ていたバイオレットが無言で端末を伏せたことも。

ロッキーだけは何も知らないまま、グレイを撫でていた。




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