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Aster Crown 〜100勝するのが面倒で100人乱戦に出たら優勝して、最強の仲間ができました〜  作者: 辛子高菜


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第七十四話 人気者



それからさらに数日後。

ロッキーはターニャから短時間だけ外出の許可をもらった。


「本当に短時間よ」


「はい」


「人混みには行かない」


「はい」


「走らない」


「はい」


「グレイが何か見つけても追いかけない」


「はい」


「途中で痛くなったらすぐ戻る」


「はい」


ロッキーは真面目に頷いた。

グレイも隣で尻尾を振っている。


「グレイ、久しぶりに外だね」


「わふっ」


「でもゆっくりだよ」


「わふ」


グレイは分かっているのか、ロッキーの歩幅に合わせてゆっくり歩いた。

街はいつも通り賑やかだった。

店先から焼きたてのパンの匂いがして、通りにはランカーや商人、観光客が行き交っている。

けれど、以前と少し違った。

いや。

かなり違った。


「あれ…ロッキーじゃない?」


「え、ほんとだ」


「グレイもいる!」


ひそひそ声、視線。

気づいた人たちが少しずつ足を止める。

ロッキーは最初、自分の後ろに誰か有名人がいるのかと思って振り返った。

誰もいない。


「…俺?」


小さく呟くと、グレイが「わふ」と鳴いた。

すると、若い女性が恐る恐る近づいてきた。


「あの、ロッキーさんですか?」


「…はい」


ロッキーは少し緊張して答える。


「ギルドバトル見てました。怪我、大丈夫ですか?」


「あ、はい。まだ治療中ですけどだいぶ」


「よかった…!本当に、すごかったです」


女性は両手を握る。


「最後まで立ち上がってて…私、泣いちゃって」


「えっ」


ロッキーは慌てる。


「応援してます。無理しないでください」


「ありがとうございます」


ロッキーはぺこりと頭を下げた。

そのすぐあと、別の少年が駆け寄ってくる。


「ロッキー!写真撮ってもいい!?」


「写真?」


「グレイも一緒に!」


グレイが胸を張る。


「わふっ」


「グレイは乗り気だね」


ロッキーが笑うと、周りから小さな笑いが起きた。

少年の母親らしき女性が慌てて頭を下げる。


「すみません、急に」


「いえ、大丈夫です。短時間なら」


ロッキーはそう言って、グレイを横に座らせた。


右腕は固定されているので、動く方の手で小さくピースをする。

グレイも隣でなぜか得意げに前を向いた。


「撮ります!」


ぱしゃり。

少年は写真を確認して、顔を輝かせた。


「ありがとう!ロッキー、かっこよかった!」


「ありがとう」


「グレイもかっこいい!」


「わふ!」


グレイは完全に褒められたことを理解している顔だった。

その様子を見て、周囲がまた少し和む。

けれど、それで終わらなかった。


「あの、私も1枚いいですか?」


「サインってお願いできますか?」


「グレイくん撫でてもいいですか?」


「おい、怪我してるから無理させちゃだめだよ」


「でも一言だけ…!」


人が少しずつ増えていく。

ロッキーは目を丸くした。

ギルドバトルのあと、xNestのフォロワーが増えたのは知っていた。

投稿へのコメントも、たくさん来ていた。

でも、画面の向こうの数字と実際に目の前で声をかけられるのは全然違った。


「すごいね、グレイ…」


「わふ」


「なんかすごい見られてる」


「わふっ」


「グレイは平気そうだね」


グレイはむしろ尻尾を振っていた。

そこへ、少し離れた場所から低い声が飛んでくる。


「おい、怪我人」


Jr.だった。

買い出し帰りなのか、片手に袋を持っている。


「何やってんだ。人だかり作ってんじゃねぇよ」


「Jr.!」


「“Jr.!”じゃねぇ。ターニャに怒られるぞ」


その一言に、ロッキーの顔がさっと青くなる。


「あっ」


周囲の人たちも少し慌てた。


「ご、ごめんなさい。怪我してるのに」


「無理させちゃったかも」


Jr.はため息をついた。


「写真撮るなとは言わねぇけど、こいつまだ療養中だからな。長時間は無理」


ロッキーが小さく言う。


「Jr.、保護者みたい」


「誰が保護者だ」


「わふ」


「グレイも頷くな」


周りから笑いが起きる。


Jr.は面倒くさそうにしながらも、ロッキーの横に立った。


「あと5分な」


「5分」


「それ以上いたら連れて帰る」


「はい」


「返事だけはいいな」


「ちゃんと帰るよ」


それから本当に5分だけ、ロッキーは写真に応じた。

途中グレイの肉球スタンプのようなものを求められて、ロッキーが本気で悩んだ。


「グレイ、いい?」


「わふ?」


「足にインクつけるの嫌じゃない?」


「わふ」


「やめとこうか、汚れるし」


そのやり取りだけで、周囲の人たちは嬉しそうに笑った。

最後に年配の男性が帽子を取って言った。


「若いの、よく立ったな」


ロッキーは少し驚く。


「え?」


「見てたよ。君の試合」


男性は穏やかに笑う。


「わしも昔はランカーじゃったが…勝ち負けだけじゃ測れないものがある。君はそれを見せた」


ロッキーは返事に詰まった。

胸の奥が、少し熱くなる。


「…ありがとうございます」


ようやくそう言って、頭を下げた。

Jr.が横で小さく鼻を鳴らす。


「ほら、もう帰るぞ。ターニャに殺される」


「殺されはしないと思う」


「外出禁止になる」


「それはあるかも」


ロッキーは慌ててグレイを呼ぶ。


「グレイ、帰ろう」


「わふ!」


帰り道、ロッキーは何度も振り返った。

さっき声をかけてくれた人たちがまだ手を振っている。

ロッキーも動く方の手で小さく振り返した。

ギルドハウスへ戻る途中、ロッキーはぽつりと言った。


「なんか、不思議だね」


「何が」


「みんな応援してくれてる」


Jr.は少しだけ黙った。

それから、前を向いたまま言う。


「負けても残るもんがあったんだろ」


「残るもの?」


「根性とか、意地とか、そういうやつ」


Jr.は照れくさそうに顔を逸らす。


「知らねぇけど」


ロッキーは少し笑った。


「Jr.、優しいね」


「違ぇよ」


「ありがとう」


「聞けよ」


ギルドハウスの門が見えてきた。

ロッキーは少しだけ立ち止まり、街の方を見る。

怖かったことはまだ消えていない。

腕も痛い、体も完全には戻っていない。

それでも、少しずつ世界は進んでいる。


「…ちゃんと治してまた歩けるようにならなきゃね」


「その前に今日は寝ろ」


「はい」


「ターニャに報告するからな」


「えっ、5分守ったよ?」


「人だかり作ってたことも含めて報告だ」


「それは…怒られる?」


「確実に」


「グレイ助けて」


「わふ」


グレイは楽しそうに尻尾を振るだけだった。

ロッキーは困ったように笑いながら、ギルドハウスの中へ戻っていった。




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