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Aster Crown 〜100勝するのが面倒で100人乱戦に出たら優勝して、最強の仲間ができました〜  作者: 辛子高菜


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第七十二話 余韻



ギルドバトルが終わった後、xNestはしばらくその話題で埋め尽くされた。


Aster Crown勝利

Nachtmusik敗北

Official20問題

バイオレット圧勝

ロッキー副将


どの単語も次々とトレンドに上がっていく。

だが、その中でも一番勢いがあったのは試合後の勝者紹介で切り抜かれた一場面だった。



包帯だらけのロッキーがソロとビアンカに支えられながらステージへ戻ってくる。

バイオレットが近づく。


「待たせたわね」


その直後、ロッキーがバイオレットに抱きつく。

少し固まるバイオレット。

けれど、すぐにロッキーの怪我に触れないようそっと抱きしめ返す。



その数秒の切り抜きがあっという間に拡散された。



『ヴィオロキてぇてぇ』


『待たせたわね、は反則』


『ロッキーの安心しきった抱きつき方やばい』


『バイオレット固まってから抱きしめ返すの何?』


『付き合ってるの!?』


『いや仲間の絆だろ』


『仲間の絆にしては距離近くない?』


『怪我人だから!怪我人だからセーフ!』


『バイオレットあんな顔するんだ』


『ロッキー、負けたけど最高だった』



その夜、ロッキーもxNestを更新した。

写真はギルドハウスの医務室のベッドの上。

右腕は固定され額や頬にはまだ包帯。

けれど、膝の上にはグレイがいてロッキーは動く方の手でぎこちなくピースしていた。



ロック・レオンハート

@leonhart_r


応援ありがとうございました!

僕は負けちゃったけど、みんなが勝ってくれたおかげでAster Crownは勝ちました!

グレイも無事です!

とりあえず、ゆっくり休みます!


#AsterCrown

#グレイ

#ありがとう



投稿は、これまでのどの投稿よりも伸びた。

いいね数は過去最高。

フォロワーも一気に増えた。



『負けちゃったけどじゃないよ、めちゃくちゃ繋いだよ』


『副将、最高だった』


『あれ見て弱き者なんて言えない』


『本当にお疲れさま』


『グレイ無事でよかった』


『ゆっくり休んで』


『Aster Crown箱推しになった』


『ロッキー、あなたは負けてない』


『バイオレットが勝った時、泣いた』


『ヴィオロキの投稿待ってます』



「ヴィオロキ…?」


ベッドの上で端末を見ていたロッキーは、首を傾げた。

グレイが膝の上で「わふ」と鳴く。


「何だろうね、グレイ」


「わふ」


そこへ、ターニャが水と薬を持って入ってくる。


「ロッキー、端末は少しだけよ。目も頭も休ませなさい」


「はい」


「はいって言いながら、まだ見てるわね」


「あ」


ロッキーは素直に端末を伏せた。


「絶対安静。今日はベッドから降りないこと」


「でも、ちょっとくらいなら」


「だめ」


「はい…」


「グレイを撫でるのは許可します」


「やったね」


ロッキーは嬉しそうにグレイを撫でる。

グレイは完全にベッドの主みたいな顔で丸くなっていた。




ーーーーーーーーーー




昼過ぎには、Ophiuchusから見舞いが届いた。

まずダンから。

大きな果物の詰め合わせと、短いメッセージ。


《無事でよかった。今度ツーリングしような。でも今は寝てくれ》


「ダンらしいなぁ」


ロッキーは少し笑った。

次に、ジャック=ポットから。

妙に派手な花束と、お菓子の箱。


《青春の代償は高いねえ。でもいい試合だった。ちゃんと休むこと。》


「青春…?」


ロッキーはまた首を傾げる。

最後にリナリーから。

グレイ用のたくさんのおやつと、小さなメモ。


《グレイくんへ。ロッキーも食べられるものは別で入れてあります。無理しないで。》


「リナリーさん、グレイにおやつくれたよ」


「わふ!」


グレイは一気に耳を立てた。

ターニャがすぐに袋を取り上げる。


「おやつはちょっとだけね」


「わふ…」


「グレイったら、そんな悲しそうな顔しないで」


ロッキーが笑う。



意外だったのはnachtmusikからも見舞いの品が届いたということ

最初は罠かと警戒したが、開けてみると中にはnachtmusikのギルドマークの入った蜜蝋で封をされた手紙と高級な回復薬とグレイ用のおやつと1000万xが入っていた。



Aster Crown

ロック・レオンハート殿


此度は、当ギルド所属であった者たちの行動により、貴殿および貴殿の従魔、ならびにAster Crownへ多大なる損害と苦痛を与えた。


Nachtmusikの名を預かる者として、深く謝罪する。


負傷の治療に必要と思われる薬品および治療費、破壊したバイクの修繕費、慰謝料及び関連損害への補償金を同封した。受け取りの可否は貴殿らの判断に委ねる。


また、ギルドバトルにおける条件通り、NachtmusikはOfficial20の地位を返上する。すでに協会および加盟国評議会へ正式な申請を行った。


なお、今回の件に関わったディルベール・オリオン以下5名については、Nachtmusikから除名済みである。以後、彼らの行動は当ギルドとは無関係である。


改めて、申し訳ないことをした。


Nachtmusikマスター

モーリス・オリオン



ターニャが読み上げる。


「こんなに…貰ってもいいのかな?」


ロッキーが口を開く。


「これでおさめてくれって言ってんだ」


Jr.が箱の中身を確認しながら答える。


「貰っときゃいいだろ、変に突っぱねるほうが拗れる」


「でも、こんな大金」


「今回の件の準備で依頼に行けなかった分、名誉毀損、バイク代、治療費、そしてこれからお前が依頼に行けない分の補填、グレイへの心理的補償、諸々考えたらちょうどいいくらいだろ」


「…そうかな」


「まぁ、金で解決しようって魂胆が見え見えなのは腹立つが、貰えるもんは貰っとこうぜ」


「そうね、こんなので傷は言えないけど、手打ちとしましょう。nachtmusikに返事を出しておくわ。それと協会と評議会へも報告するわ」


ターニャはそう言って、端末を操作し始めた。




ーーーーーーーーーー




一方で、バイオレットの様子は少しだけおかしかった。

普段なら、ロッキーの様子を見に来ても必要なことだけ確認して出ていく。

けれど今日は、入口で一瞬止まった。


「…具合は」


「大丈夫!痛いけど、ターニャが治療してくれてるし」


「そう」


いつもならそこで会話が終わる、終わるはずだった。

なのに、バイオレットはなぜか立ったままだった。

ロッキーは不思議そうに見る。


「バイオレット?」


「何」


「座る?」


「…座る必要はないわ」


「疲れてない?」


「疲れてない」


「そう?」


「そう」


会話が微妙にぎこちない。

ロッキーは気づいていない。

グレイをもふもふしながら、いつも通りの顔で笑っている。


「勝ってくれてありがとうね」


バイオレットの指がぴくっと動いた。


「それは何度も聞いた」


「でも、嬉しいから」


「…そう」


「バイオレットが勝った時すごく安心した」


バイオレットの視線が少しだけ泳ぐ。

先日のステージ。

包帯だらけのロッキーが何のためらいもなく抱きついてきた感触。

片腕しか使えないからしがみつくみたいで。

痛いはずなのに安心した顔をしていて。

思い出した瞬間、バイオレットは少しだけ目を逸らした。


「…あなたが無茶するからよ」


「ごめん」


「謝らなくていい」


「うん」


ロッキーはにこっと笑う。

バイオレットはまた少し黙る。

その様子を、部屋の端でJr.が見ていた。

椅子に座り、端末で設計図を開きながら口元をにやつかせている。


「…何」


バイオレットが低く言う。


「別に?」


「笑ってた」


「笑ってねぇよ」


「笑ってたわ」


「いやー、あのバイオレット様がずいぶん挙動不審だなと思っただけで」


空気が止まる。

ロッキーがきょとんとする。


「挙動不審?」


バイオレットがJr.を見る。


「黙りなさい」


「はいはい、怖ぇ怖ぇ」


Jr.は肩をすくめる。

でも笑いは隠せていない。


「抱きつかれてから変だぞ、お前」


「……」


「え?」


ロッキーが驚いてバイオレットを見る。


「バイオレット、嫌だった?」


バイオレットは即座に答えた。


「嫌ではない」


答えてから、ほんの少しだけ固まった。

Jr.がにやにやする。


「へぇ」


「Jr.」


「何でもねぇです」


ターニャが後ろからにこにこしながら入ってくる。


「楽しそうね」


「楽しくないわ」


バイオレットが言う。


「楽しいわよ」


ターニャはさらっと返した。

ビアンカも顔を出す。


「ロッキー、体調どう?」


「大丈夫です」


「バイオレットは?」


「…なぜ私」


「顔が硬いから」


ビアンカが笑う。

バイオレットは黙った。

ロッキーだけが本当に分かっていない顔をしている。


「みんな、バイオレットの心配してるんだね」


Jr.が吹き出した。


「何で笑うの?」


「いや、何でもない。お前はそのままでいろ」


「?」


ロッキーはグレイを撫でながら、のんびり笑った。

バイオレットはその顔を見て、少しだけ肩の力を抜く。

ロッキーはいつも通りだった。

その変わらなさに少し救われる。


「…ちゃんと休みなさい」


「うん」


「無理をしたら怒るわ」


「ターニャにも言われた」


「なら二重に怒られるわね」


「それは怖い」


ロッキーが笑う。

バイオレットも、ほんの少しだけ口元を緩めた。



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