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Aster Crown 〜100勝するのが面倒で100人乱戦に出たら優勝して、最強の仲間ができました〜  作者: 辛子高菜


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第六十九話 バイオレットvs



第五試合、大将戦。

2勝2敗。

Aster CrownとNachtmusikの勝敗は並んだ。

この1戦ですべてが決まる。

ステージに先に上がっていたのはディルベールだった。

黒い服に身を包み、腰には細身の剣。

黒髪の前髪、その一部だけが白く抜けている。

赤い瞳が楽しげに細められていた。

観客席も、配信も、異様な熱を帯びている。

その中、バイオレットがステージに上がった。

紫の髪が光を受けて淡くひかる。

表情は静かだった。

怒っているようには見えない。

けれど、医務室にあるモニターで見ている全員には分かった。

あれは怒りが消えた顔ではない。

怒りが頂点を超えた顔だった。


ディルベールが笑う。


「荷造りはしてきたか?」


バイオレットは答えない。


「Nachtmusikの部屋は悪くないよ。君用に一番いい部屋を用意してやる」


バイオレットは剣を抜いた。

細く、静かな音がした。

ディルベールは肩をすくめる。


「さっきの副将、見ただろ?」


ディルベールは続ける。


「さっさと負けを認めればいいのに最後まで立とうとしてさ…実力も分かってないのか」


バイオレットの指が剣の柄にわずかに沈む。


「弱いくせに守るだの、見ていて痛々しかったよ」


観客席からざわめきが起きる。


「言いすぎだろ」


「ロッキーは最後まで立ってただろ」


「生意気だぞ!」


バイオレットはようやく口を開いた。


「さっさと始めましょう」


短い一言、それだけでディルベールの笑みが少しだけ薄くなる。


「…つまらないな、もっと怒ればいいのに」


「必要ないわ」


バイオレットは構える。


「ここにいる時間がもったいない」


開始の合図が鳴った。

先に動いたのはディルベールだった。

細身の剣が影のように伸びる、速い。

ただ速いだけではない。

軌道が読みにくい。

まっすぐ来たと思えば途中で刃が沈む。

下から斬り上げると見せて手首を狙う。

ディルベールは確かに強かった。

Nachtmusikの大将。

モーリス・オリオンの子。

Official20の一角を背負って立つだけの実力はある。

だがーー。

剣先が空を切る。

ディルベールが続けて踏み込む。

紫の影が揺れた。

次の瞬間、ディルベールの肩口が裂ける。


「っ……!」


血が散る。

歓声が上がるより早く、バイオレットはもう次の位置にいた。

速い、いや速いというより、遅れがない。

動こうとした時にはもう動き終わっている。

ディルベールは歯を食いしばり魔力を剣にまとわせた。

赤黒い光が刃を包む。


「その程度で僕を倒せると思うなよ」


斬撃が飛ぶ。

床を裂きながら三方向からバイオレットへ迫る。

バイオレットは一歩下がり、次に前へ出た。


「なっ」


斬撃の隙間、誰も通らないと思うような細い間をバイオレットは抜けた。

紫の軌跡が走る。

ディルベールの脇腹が斬られる。


「ぐっ…!」


ディルベールは後ろへ跳び距離を取った。

息が乱れ始めている。

バイオレットは乱れていない。

髪の先すらほとんど揺れていなかった。

ディルベールは口元を拭い、笑おうとした。


「なぜだ」


バイオレットは答えない。


「なぜあんなやつのためにそこまで必死になる?」


その言葉にバイオレットの目だけが動く。


「君がギルドを作ったのはあいつがいたからだろ?」


ディルベールは剣を構え直す。


「なぜだ、何がそんなに特別なんだ」


バイオレットは静かに見ている。

ディルベールは続ける。


「見ただろ?あんな弱くて、情けないやつ」




医務室で、ロッキーのまつ毛がかすかに震えた。

意識が朦朧としていても、その声だけは耳に入ったのかもしれない。

ターニャがモニターを睨む。

Jr.が低く呟く。


「…黙れよ」




ステージ上、ディルベールは笑う。


「Nachtmusikは強い!僕たちはOfficial20だ!君も来るべきだ」


バイオレットはそこでようやく足を止めた。


「強い?」


「そうだ」


「あなたたちが?」


「当然だろう」


ディルベールは剣を掲げる。


「力を持つ者が上に立つ!弱い者は従う!それだけだ」


バイオレットは目を伏せた。

一瞬だけ。

そして、顔を上げる。


「あなたたちは何も分かっていないのね」


ディルベールが眉を寄せる。


「何?」


次の瞬間、バイオレットが消えた。

紫の閃光。

ディルベールの視界から、完全に消える。


「っ!」


背後。

ディルベールが振り向くより早く膝裏に斬撃。

体勢が崩れる。

剣で支えようとした腕に次の一撃。

剣が跳ね上がる。

腹部へ峰打ち、息が詰まる。

顎先へ、刃ではなく柄尻での一撃。

ディルベールの体が浮いた。

バイオレットは止まらない。

感情に任せて荒れているわけではない。

むしろ研ぎ澄まされていた。

ディルベールの攻撃の起点を潰す。

逃げる方向を塞ぐ。

体勢を崩し、呼吸を奪い、剣を振るう前に止める。

圧倒、その言葉しかなかった。

ディルベールは何とか距離を取ろうとした。

だが、足が動かない。

次の瞬間、バイオレットの剣が彼の首元をかすめる。

髪が数本、宙に舞った。

ディルベールの赤い瞳が揺れる。

初めて、恐怖が浮かんだ。


「待っ」


言葉は続かなかった。


バイオレットの足払いでディルベールの体が宙を浮く。

背中からステージへ叩きつけられた。


「ぐっ…!」


仰向けに倒れたディルベールの胸元へ、バイオレットの剣先が突きつけられる。

会場が静まり返った。

ディルベールは荒く息を吐きながら、バイオレットを見上げる。

バイオレットの紫の瞳は冷たく澄んでいた。


「…実力も分かってないのは、どっち?」


短い一言だった。

審判が駆け寄る。

ディルベールは動けない。

剣も握れない。

完全に制圧されていた。


「ディルベール・オリオン、戦闘続行不能!」


審判の声が響く。


「勝者、バイオレット・チャイムズ!」


一瞬の静寂。


「勝ったのはAster Crown!!」


その瞬間、歓声が沸き起こる。




医務室でターニャが口元を押さえた。

ポポが深く息を吐く。

ビアンカは涙を浮かべたまま笑った。

ソロが静かに拳を握る。

Jr.はベッドに横たわるロッキーを見て低く言った。


「…おい、勝ったぞ」


ベッドの上のロッキーは、意識の底でその声を聞いた。

ほんの少しだけ指が動く。



バイオレットは剣を下ろし、倒れたディルベールから視線を外した。


「俺が負けるなんて…




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