第六話 バズる
ーー翌朝
ロックは宿のベッドの上で目を覚ました。
柔らかすぎる布団にはまだ慣れず、少し体が沈む感覚に戸惑いながらも起き上がる。
身支度を整え、依頼を受けようとまだ半分ほどしか起きてない頭で考えながら端末を手に取る。
「…ん?」
xNestのアイコンに数字がついている。
「なにこれ」
不思議に思いながらもタップするとxNestが開く。
昨夜投稿した肉丼の写真。
そこに、次々と反応がついていた。
『飯食ってて草』
『メレー優勝直後に肉投稿するやつ初めて見た』
『ルーキーだったのマジか』
『何者なんだよ』
『肉うまそう』
『120番の子、天然?』
『飯テロやめて』
『かわいい』
『これ駅前のミートフル飯店じゃん、ここのスペシャル丼うめぇんだよな』
ロックはしばらく画面を見つめた。
「んー…」
こういうものなのだろうか?初めてなのでよく分からない。
けれど、少なくとも怒っているようには見えなかった。
「まぁ、怒ってる感じじゃないからいっか」
xNestを閉じてxEdenを開き、採取依頼を探す。
たくさんの依頼が並ぶが、その中で採取のしやすさと報酬を見比べていくつかピックアップする。
「よし」
そうしてロックは、話題になっている自覚もないまま宿を出ていった。
それからしばらく、ロックは依頼を受ける日々を過ごした。
薬草の採取
珍しい苔の回収
魔獣の抜け毛の採取
鉱脈の調査
どれもロックにとっては、山で暮らしていた頃の延長のようなものだった。
ただ、それはメレーを優勝したルーキーならもっと派手な依頼を受けるものだと思っていた者たちにとっては、肩透かしを食らった。
けれど、依頼主の評価は高かった。
『採取品の状態が非常に良い』
『場所の見極めが正確』
『対応が丁寧』
『また依頼したい』
ロック本人はそんな評価にもあまり気づかず、今日も背負い袋いっぱいに薬草を詰めて戻ってきた。
ーーーーーーーーーー
「ずーっと話題になってるぞ、あのルーキー」
Jr.が端末を眺めながら言った。
いつものようにゴーグルを額に上げ、椅子にだらしなく座っている。
その画面には、ロックのxNestアカウントが映っていた。
投稿内容は、華やかな記録ではない。
《今日は薬草採取の依頼でした!山のものと似てるけど、少し葉っぱが丸いです》
《依頼主さんに褒められました!嬉しい!》
《この鉱石、祖父が昔教えてくれたやつに似てます》
《お昼はパンとスープです。あったかい!》
Jr.は眉をひそめる。
「なんだこれ、いい子ちゃんアピールか?」
銀髪の女が横から端末を覗き込む。
「あら、可愛いじゃないの」
「可愛いのか?」
「あなたには分からないのね、この可愛さ」
「……」
「取材をしようとしても断られるらしいわよ」
「んだそれ、有名になりたいとかいうやつじゃねぇのか?」
「違うんじゃない?」
少し楽しそうに言う。
「本人は話題になってる自覚なさそう」
緑髪の長身の男が静かに端末を操作する。
「xNestの投稿によると、採集依頼をかなり受けているらしい」
Jr.が顔を上げた。
「なんでだよ」
「本人の適性だろう。山育ちなら、採集や探索は慣れている」
「メレー優勝しておいて草摘みかよ」
Jr.は呆れたように言う。
ポポが笑う。
「面白い子ネ」
それから、隣に座る紫髪の女を見る。
「バイオレットも興味あるしネ」
バイオレットと呼ばれた女は端末から目を離さない。
画面には、ロックが投稿した写真が映っていた。
採集した薬草を手に、少し照れたように笑う黒髪の青年。
「少しだけね」
黒髪の女が肩をすくめて笑った。
「バイオレットの“少し”は、結構よね」
バイオレットが横目で見る。
「…ビアンカ」
ビアンカは悪びれず続けた。
「だって、あなたが他人に興味を持つことなんて少ないもの」
銀髪の女も頷く。
「会ったらたくさん話したいわ」
バイオレットはしばらく黙っていたが、静かに立ち上がる。
「偶然どこかで会えるかもしれないわね」
Jr.が目を細める。
「偶然…ね」
バイオレットは返事をしない。
ただ、端末に映るロックの笑顔を見ていた。
マントを羽織った、何も知らない新人。
メレーを勝ち抜いたくせに、肉と薬草と温かいスープで喜んでいる青年。
バイオレットは小さく呟いた。
「変な子」
けれどその声は、ほんの少しだけ楽しそうだった。




