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Aster Crown 〜100勝するのが面倒で100人乱戦に出たら優勝して、最強の仲間ができました〜  作者: 辛子高菜


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第六十七話 ロッキーvs



ポポが戻ってきたあと、控え室の空気は少し変わっていた。

2勝1敗。

Aster Crownがリードしている。

けれど、次で負ければ2勝2敗。

すべては大将戦へ持ち越される。

ロッキーは椅子から立ち上がり剣を取る。

手は震えていた。

それでも、目は逃げていなかった。


「ロッキー」


バイオレットが呼ぶ。

ロッキーは振り返った。

バイオレットは何かを言いかけて、少しだけ黙る。

いつものように「無理しないで」とも「勝ちなさい」とも言わなかった。

ただ、ロッキーを見る。

ロッキーは少しだけ笑った。


「勝つから」


控え室が静かになる。

その声は震えていた。

でも、嘘ではなかった。


「ヴィオには繋がない。ここで決める」


バイオレットの目がほんの少し揺れた。


「…えぇ」


ロッキーは頷きステージへ向かった。

グレイが小さく鳴く。


「くぅん…」


ロッキーは振り返らず、片手だけを軽く上げた。




ーーーーーーーーーー




第四試合、副将戦。

ステージに上がったロッキーを会場中の視線が刺すように見ていた。

黒髪、暗青のマント、腰の剣。

ルーキーマント。

メレー3連覇の話題の新人。

晒された動画の青年。

ディルベールに“弱き者”と呼ばれた男。

その本人がAster Crownの副将として立っている。


対するNachtmusik側の副将はエルヴィン・ボード。

白髪の大男。

褐色の肌に獣のような鋭い目。

あの日、黒い車の横に立っていた男だった。

肩に担いでいるのは大剣。

ロッキーの剣とは比べものにならないほど重く、厚い。

エルヴィンはステージへ上がるなりロッキーを見下ろした。


「お前が副将か」


「うん」


「Nachtmusikも舐められたもんだな」


ロッキーは剣を抜いた。


「舐めてないよ」


エルヴィンは大剣を肩から下ろす。

床に刃が触れ、重い音が鳴った。


「なら本気で潰す」


開始の合図が鳴った。

次の瞬間、エルヴィンが踏み込んだ。

速い。

ロッキーは横へ跳ぶ。

直後、大剣が床を叩き割った。

衝撃で体が浮く。


「っ…!」


ロッキーは空中で体勢を崩しながらも、着地と同時に低く走った。

正面から受けたら終わる、それは一撃で分かった。

だから、回る、足元を見る、肩を見る。

大剣の重さでどこに隙ができるかを見る。

ロッキーはエルヴィンの側面へ入った。

剣を低く振る、狙うのは膝裏。

だが、エルヴィンの反応は早かった。

大剣が横から飛ぶ。

ロッキーは避けきれず、剣で受けるがそのまま叩き込まれた。


「がっ…!」


体が吹き飛ぶ。

床を転がり肩を打つ。

観客席がどよめいた。

ロッキーはすぐに起き上がった。

息が詰まっている、脇腹が痛い、でも立つ。


「…まだ」


エルヴィンの目が細くなる。


「なるほど、打たれ慣れてはいるか」


再び大剣が振るわれる。

ロッキーは後ろへ下がる。

だが、避けたはずなのに、肩が裂ける。

血が滲む。


「っ……」


エルヴィンは止まらない。

振り下ろし、横薙ぎ、踏み込みからの突き。

どれも大きく、重く、速い。

ロッキーは必死に逃げる。

いや、逃げているだけではない。

足を見ている。

エルヴィンの踏み込みが深くなる瞬間、大剣を振り抜いたあとの一拍、呼吸が荒くなる位置、そこへ入り込もうとする。

何度目かの振り下ろしのあと、ロッキーは一気に懐へ入った。


「そこ…!」


剣でエルヴィンの手首を打つ。

わずかに大剣の軌道がずれる。

さらに足をかけ、体を入れる、崩す。

だがーー。


「軽いな」


エルヴィンは片足だけで踏みとどまった。

ロッキーの目が見開かれる。

次の瞬間、膝がロッキーの腹に入った。


「っ…!」


息がつまる。

続けて、大剣の腹がロッキーの背中を叩いた。

床へ叩きつけられる。




控え室で、ターニャが息を呑んだ。


「ロッキー…!」


Jr.はモニターを睨んでいた。

拳を握りしめている。




ロッキーは床に手をつく。

震える腕で体を起こした。

エルヴィンが見下ろす。


「立つのか」


「…立つよ」


ロッキーは血の混じったつばを吐いた。


「勝つって言ったから」


エルヴィンが大剣を構え直す。


「なら折る」


そこからは一方的に近かった。

ロッキーは避ける、流す、潜る、横へ抜ける。

何度も、何度も。

けれど、エルヴィンの攻撃は完全には避けきれない。

腕に入る、脚に入る、肩に入る、背中に入る。

少しずつ確実に削られていく。

少しずつロッキーの動きが鈍る。

それでも、倒れるたびに立ち上がった。



一度目


二度目


三度目


五度目


八度目


十度目



そのたびに会場のざわめきが変わっていく。


「まだ立つのか」


「もう無理だろ」


「降参しろよ」


ロッキーは剣を杖のようにして立った。

息が荒い、視界が霞む、エルヴィンの姿が二重に見える。


「…なぜ立ち上がる」


エルヴィンが低く聞いた。


「お前が負けても別に問題ないだろ。大将戦が残ってる。さっさと負けを認めろよ」


ロッキーは顔を上げた。


「…守るため」


「何を」


ロッキーは剣を握り直す。

声はかすれていた。

それでも届いた。


「ヴィオは渡さない」


控え室で、バイオレットの指がわずかに動いた。

ロッキーは続ける。


「Aster Crownのみんなでこれからも一緒にいる」


「だから…」


剣を構える。


「負けない!」


エルヴィンは無表情のまま大剣を上げた。


「なら、立てなくするだけだ」


大剣が振り下ろされる。

ロッキーは避けた。

避けたはずだった。

だが、剣の軌道が変わる。

刃の腹がロッキーの肩を打ち、吹き飛ばされ床に叩きつけられる。




ーーーーーーーーーー




「ロッキー」


ターニャが思わずモニターから目を逸らした。

ビアンカも唇を噛む。

ポポは黙っていた。

ソロも拳を握っている。

Jr.だけが目を逸らさなかった。

モニターの中でロッキーがまた手をつく、震えている、もはや立てる状態ではない。

それでも、膝を立てる。


「…っ」


ターニャが耐えきれずに言った。


「止めましょう」


その言葉に控え室の空気が揺れる。


「もう十分じゃない。あんなにボロボロにされて…これ以上は」


ビアンカも苦しそうにモニターを見る。


「棄権申請をーー」


「やめろ!!」


Jr.の怒鳴り声が響いた。

全員がJr.を見る。

Jr.はモニターから目を離さないまま歯を食いしばっていた。


「あいつは降参って言ってないだろ」


「でも!」


ターニャの声が震える。


「こんなの一方的じゃない!あんなにボロボロにされてるのを見て、平気なの!?」


「平気なわけないだろ!!」


Jr.の声も震えていた。


「平気なわけねぇだろこんなの!」


拳が白くなるほど握られている。


「でも、あいつが男見せてんだ」


Jr.はモニターの中のロッキーを見る。

血だらけで傷だらけで、それでも立とうとしているロッキーを。


「あいつが体張って守ろうとしてんだ。なのに、見てるだけの俺たちが勝手に止められるかよ」


ターニャは何も言えなかった。

その目に涙が滲んでいる。

Jr.は低く続ける。


「副将を任せたのは俺らだろ。俺は全部見てやる」


控え室は静まり返った。

誰も、もうモニターから目を逸らさなかった。




ーーーーーーーーーー




ステージ上、ロッキーはまた立った。

もう何度目か分からない。

もう剣を構える力も残っていない。

それでも立った。

その姿に審判も止めるか判断に迷っているようだった。

エルヴィンの表情が初めてわずかに歪んだ。


「…しつこい」


ロッキーは笑おうとしたがうまく笑えなかった。


「山育ちだからね…しつこいんだ」


エルヴィンは大剣を振りおろす。

ロッキーが構えた剣を弾き飛ばしそのまま肩を打つ。

ロッキーの体が崩れ床に倒れる。


それでも、また手をつき立ち上がろうとした。

しかし、その腕をエルヴィンが足で払い踏みつける。


「降参しろ」


「…いやだ」


「だったら…」


エルヴィンが思い切り踏みつける。

嫌な音が響く。


「っーー!!!」


ロッキーの声にならない悲鳴がステージに響く。




控え室の空気が凍る。

ターニャが口元を押さえた。

Jr.の肩が震える。




エルヴィンは低く言った。


「これで立てないだろ」


ロッキーは歯を食いしばった。

それでも折れてない方の腕でまだ体を起こそうとする。

しかし、動かない。

膝も震えていて立てない。


「審判、判定を」


その声に審判が焦って駆け寄った。


「…ロック・レオンハート戦闘続行不能!勝者、エルヴィン・ボード!」


会場は静まり返った。

勝敗は決まった。


Aster Crown、2勝。

Nachtmusik、2勝。


だが、観客席も配信のコメントも、すぐには勝者の名で沸かなかった。

皆、見ていた。

倒れたロッキーを。

最後まで負けを認めなかった副将を。

ボロボロになっても、立ち続けた青年を。

観客席ではnachtmusikを讃える声がポツポツと広がる。

ロッキーのことを形だけの人気者だと蔑む声も。

そんな中、それを打ち消すように会場に大きな声が響いた。


「ロッキー!!最後までよく立った!!」


ダンだった。


「よくやったぞ!ロッキー!!」


「あなたは弱くない!!」


続いて、ジャック=ポット、リナリーの声も響く。

それに釣られるようにロッキーへの歓声が届く。


「俺ならあそこまで立ち上がれない」


「頑張った!」


「弱き者じゃない!!」


その様子を見てエルヴィンは舌打ちをして去っていった。

ロッキーは薄れゆく意識の中で声援を聞いていた。




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