第六十四話 ソロvs
第一試合、先鋒戦。
ステージの上にはすでに2人が立っていた。
Aster Crown側ソロ・シュトラウス。
緑の髪を後ろへ流し、黒を基調にした軽装をまとっている。
手にしているのは長い剣ではなく2本のナイフ。
構えは低く、音はほとんどない。
対するNachtmusik側はベン・バックリー。
茶髪の長身。
若いが体格は良い。
手にした槍は長く、銀色の穂先がライトを受けて光っていた。
大型モニターに2人の名前が映し出される。
Aster Crown
先鋒 Solo Strauss
Nachtmusik
先鋒 Ben Buckley
ベンは槍を肩に担ぎ軽く笑った。
「まさか本当に受けるとは思わなかったよ」
ソロは答えない。
「最近ちょっと目立ってるからってOfficial20相手に勝てると思ってる?」
ベンはステージの床を槍の石突きで軽く叩く。
「悪いけどこっちは遊びじゃないんだ。新参者の勢いだけじゃ届かない場所ってあるんだよ」
ソロはようやく口を開いた。
「喋り終わったか?」
ベンの笑みが少しだけ固まる。
「…何?」
「始まるぞ」
その瞬間、開始の合図が鳴った。
ベンが先に動く。
長い槍が一直線にソロの胸元を狙った。
速い、だがソロはには届かなかった。
避けたというよりそこにいなかった。
槍の穂先が空を切る。
「っ!」
ベンはすぐに槍を引き戻し横薙ぎに払う。
ソロは低く沈み、床を滑るように距離を詰めた。
ナイフが閃き、ベンの袖が裂ける。
「近づかせるかよ!」
ベンは後ろへ跳び槍を回した。
長い柄が円を描き、ソロを寄せつけない壁になる。
槍使いにとって間合いは命だ。
いくら素早くても近づかせなければ勝てる。
ベンはそう考えていた。
だが、ソロの足は止まらない。
正面から来ない。
右へ消える。
左へ流れる。
槍の影に入ったと思えば次の瞬間には視界の端にいる。
「ちょこまかと…!」
ベンの槍が突き出される。
ソロはナイフで穂先を弾かない、受けない、柄の内側へすっと入る。
「なっ」
ナイフの背がベンの手首を打った。
槍がわずかに揺れる。
その一瞬でソロはもう背後へ回っていた。
ベンの首筋に冷たい刃が触れる。
観客席がどよめいた。
ベンは歯を食いしばり、無理やり体を回転させる。
槍の柄でソロを弾こうとするがそこにソロはいない。
次の瞬間、ベンの太腿に軽い衝撃が走った。
切られたわけではない。
ナイフの柄尻で筋肉を打たれた。
「ぐっ…!」
足が一瞬沈む。
ソロはその隙に距離を取り、また静かに構えた。
ベンは焦りを隠せなくなっていた。
「お前…!」
「槍は強い」
ソロが言う。
「間合いを保てればな」
その声は淡々としていた。
煽りではない、ただの事実。
それが余計にベンの神経を逆撫でした。
「舐めるなよ、新参者が!」
ベンの足元に魔力が走る。
次の突きはこれまでより速かった。
穂先がいくつにも分かれて見えるほどの連続突き。
ステージの空気が裂ける。
ソロは下がる。
一歩。
二歩。
三歩。
観客には追い詰められているように見えた。
ベンもそう思った。
「終わりだ!」
槍がソロの肩を狙う。
その瞬間ソロの姿が沈んだ。
完全に視界から消える。
「っ!?」
ベンの槍は空を突いた。
足元、ソロは地面すれすれに身を沈めていた。
ナイフの背がベンの軸足のくるぶしを叩く。
重心が崩れる。
ベンが踏ん張ろうとした瞬間にはソロはその背後にいた。
腕を取る。
肩を押さえる。
膝裏を払う。
ベンの体が地面に叩きつけられた。
「がっ…!」
ソロはそのままベンの腕を捻り上げ、背中を押さえ込む。
ナイフの刃が首元に添えられた。
完全に制圧。
審判が近づく。
「勝負ありか?」
ソロはベンを見る。
「負けを認めろ」
ベンは歯を食いしばったまま床を睨んでいた。
観客席の声が遠くなる。
Aster Crownの控え室ではポポがにっと笑っていた。
「さすがネ」
Jr.も腕を組む。
「まぁ、先鋒任せるだけはあるな」
ロッキーは画面を見つめたまま息を呑んでいた。
「すごい…」
ベンは荒い息を吐いた。
「…分かった」
小さく言う。
「認める」
審判が頷きかけたその瞬間、ベンの空いていた手が腰の裏へ滑った。
隠していた短いナイフ。
ソロの脇腹を狙う。
だがーー。
ソロは最初から見ていた。
ベンの指が動いた瞬間、ソロの膝がベンの手首を床に押しつける。
「ぐあっ!」
隠しナイフが床に落ち、乾いた音を立てた。
ソロの目が、初めて冷えた。
「そういうところだ」
ベンは苦し紛れに睨む。
「っ…!」
「綺麗に負けろ」
ソロはナイフを首筋から離し、ベンの腕をさらに押さえ込んだ。
審判が声を張る。
「ベン・バックリー、戦闘続行不能。勝者――ソロ・シュトラウス!」
一瞬の静寂。
次に、会場が大きく沸いた。
ソロは立ち上がり、服についた埃を軽く払った。
倒れたベンを見下ろす。
「地位があるから強いとは限らない」
それだけ言って、背を向けた。
ーーーーーーーーーー
Aster Crown控え室。
ロッキーは思わず拳を握る。
「勝った…!」
ポポが笑う。
「まず1つネ」
ビアンカも口元を上げた。
「いい流れね」
Jr.は短く言う。
「当然だろ」
バイオレットは静かにモニターを見ていた。
ソロが控え室へ戻ってくる。
扉が開き、彼はいつもの調子で入ってきた。
「勝ったぞ」
ポポが親指を立てる。
「いい先鋒だったヨ」
ビアンカも頷く。
「最後、よく見てたわね」
「見え見えだった」
ソロは肩をすくめる。
Jr.が鼻を鳴らす。
「Nachtmusik、初戦から汚ねぇことしてくんな」
「想定内だろ」
ソロはそう言ってロッキーを見る。
「副将」
「は、はい」
「向こうはあぁいうことをする。最後まで気抜くな」
ロッキーは真剣に頷いた。
「うん」
ソロは少しだけ笑う。
「でも、勝てる相手だ」
その言葉に、控え室の空気が少しだけ引き締まる。
Aster Crown 1勝。
戦いは始まったばかりだった。




