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Aster Crown 〜100勝するのが面倒で100人乱戦に出たら優勝して、最強の仲間ができました〜  作者: 辛子高菜


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第六十三話 ギルドバトル⑤



試合当日の朝、会場周辺はすでに祭りのような熱気に包まれていた。

メレー会場にも劣らない巨大な競技場。

中央には円形の広いステージ。

その周囲を囲む観客席は早い時間から埋まり始めていた。

全世界リアルタイム配信。

片方はOfficial20の地位を賭け、もう片方は大将であるバイオレットを賭けている。

そのうえ、Nachtmusikが晒したロッキーの動画はまだ燃え続けていた。

配信前のロビー画面には、信じられない数の視聴待機が並んでいる。


「…無理かも」


控え室のソファに座ったまま、ロッキーが小さく呟いた。

端末を閉じる。

見たら駄目だと思っていたのに、結局少しだけ予想欄を見てしまったのだろう。


「何が」


ビアンカが聞く。


「人」


ロッキーは真顔だった。


「多すぎる……世界中って、本当に世界中なんだね…」


「今さら?」


ソロが笑う。


「今さらだよ!」


ロッキーが言い返す。


「だって、実感なかったし…!」


ポポが近くのテーブルに腰を預けたまま、にっと笑った。


「ロッキー、そんな顔しなくていいヨ」


ロッキーがそちらを見る。


「俺たちで3勝するから、気にすることないネ」


一瞬、控え室の空気が止まった。

ロッキーは目を丸くする。


「え」


「そうそう」


ソロがすぐに乗る。


「俺とビアンカとポポで3勝決めりゃいいんだ、お前とバイオレットは気楽に見てればいいんだよ」


「言い方」


ビアンカは呆れたように言いながらも、口元が少しだけ上がっていた。


「でも、まあ。そういう気持ちでいるくらいで丁度いいわね」


「そうネ」


ポポが頷く。


「副将が潰れるほどのプレッシャーを背負わせるつもりはないヨ。ロッキーはロッキーの仕事だけ考えればいい」


ロッキーの喉が少しだけ動いた。

それは、無責任な励ましじゃなかった。

この3人は本当に自分たちで3勝とるつもりでいる。

その本気が分かるから、ロッキーの胸の奥にじんわりと染みた。


「…うん」


ロッキーは小さく頷く。


「ありがとう」


緊張は消えていない。

それでも、さっきより少し呼吸がしやすくなった。

ターニャがそんなロッキーを見て、やわらかく声をかける。


「ロッキー、怖いのは普通よ」


「…うん」


「でも、怖いまま立てばいいの。“何も怖くない人”になる必要はないわ」


ロッキーは黙ってその言葉を聞いた。


「それに、あなたにはちゃんと順番があるでしょう?」


ターニャは控え室のモニターを見る。

そこには出場順が表示されていた。


4th:ロック・レオンハート


「いきなり放り込まれるわけじゃない。見る時間も、呼吸を整える時間もある」


「…副将」


ロッキーがぽつりと言う。


「うん」


バイオレットが短く返した。

ロッキーがそちらを見ると、バイオレットは壁際で腕を組んで立っていた。

いつも通り静か。

けれど、その静けさの奥に熱があるのをもうロッキーは知っている。


「ロック」


バイオレットが言う。


「Nachtmusikは今日もあなたを見世物のように扱おうとするかもしれない」


ロッキーの指先が少しだけ強く握られた。


「でも」


バイオレットの声は低く、まっすぐだった。


「副将として立った時点でもう違う」


「……」


「Aster Crownはあなたをそういう位置には置かない」


ロッキーは何も言わなかった。

でも、その言葉は深く胸に入った。

ビアンカが腕を組み直す。


「そうよ。向こうはロッキーを“人気者の駒”として消費したい。でも私たちは副将に置いた」


少しだけ笑う。


「それが答え」


ソロもにやっと笑った。


「だからまあ、安心しろとは言わねえけど。1人で立つことにはならねえよ」


ポポがロッキーの肩を軽く叩く。


「俺たちで3勝するから気にすることないネ……っていうのは半分冗談だけどネ」


「半分なんだ」


ロッキーが少しだけ笑った。


「半分は本気ヨ」


ポポも笑う。


「残り半分は、ロッキーがちゃんと勝つって信じてる」


その一言に、ロッキーの表情が少し変わった。


「…うん」


ロッキーはグレイの頭を撫でる。


「じゃあ、俺もちゃんと勝ちたい」


「それでいい」


バイオレットが言った。




ーーーーーーーーーー




会場側から、まもなく入場の通知が入った。

控え室の空気が一段階だけ研ぎ澄まされる。

ソロが立ち上がり首を鳴らした。


「よし。行ってくる」


ビアンカが短く息を吐く。


「一戦目で空気持ってきなさいよ」


「分かってるって」


ポポはどっしりしたまま笑う。


「景気よく頼むヨ」


Jr.は端末を閉じて、珍しくまっすぐソロを見た。


「無駄に熱くなりすぎんな。でも、ビビらせてこい」


「注文多いな」


ターニャは穏やかに笑う。


「いってらっしゃい。Aster Crownの先鋒、ちゃんと見せてきて」


最後に、バイオレット。


「ソロ」


「ん?」


「勝って」


その短さに、ソロが少しだけ口元を上げる。


「…おう」


それから、ロッキーの前を通る時軽く拳を差し出した。


「副将、あと頼むわ」


ロッキーは一瞬だけ目を丸くしてから、自分の拳をこつんと当てた。


「うん。先鋒、よろしく」


ソロは笑って、控え室を出ていった。




ーーーーーーーーーー




扉が閉まったあと、ロッキーは無意識に深呼吸した。

始まる。

本当に始まる。

世界中に配信される舞台。

Nachtmusik。

Aster Crown。

壊されたバイク。

晒された自分の顔。

その全部を背負って、それでも順番は前に進む。

ロッキーの手が少し震えた。

その時、隣に影が落ちる。

バイオレットだった。


「ロッキー」


「ん……」


「今、怖い?」


ロッキーは少しだけ迷ってから、素直に頷く。


「怖い」


「うん」


バイオレットはそれをそのまま受け取った。


「でも、大丈夫」


「何で?」


「もう始まったから」


バイオレットは短く言う。


「怖いかどうか考えてる時間、すぐなくなる」


一瞬、ロッキーはぽかんとして、それから少しだけ笑った。


「…それ、慰め?」


「事実」


その返しが妙にバイオレットらしくて、ロッキーの肩の力が少し抜けた。


「ロッキー」


バイオレットは続ける。


「3人が副将までにちゃんと空気を作る」


「……うん」


「だからあなたは自分の番が来た時に立てばいい」


ロッキーはその言葉を静かに飲み込んだ。

立てばいい、自分の番が来た時に。

そのために、みんなが前で戦ってくれる。


「…分かった」


ロッキーは頷いた。


「副将、ちゃんとやるよ」


「うん」


控え室の外から歓声が響いた。

ソロが入場したのだろう。

世界が動き始める音だった。




ーーーーーーーーーー




ロッキーはポケットの奥で tiny ride model G のキーをぎゅっと握りしめる。

壊れてしまった。

でも、終わっていない。

Jr.がまた作ると言ってくれた。

グレイは無事だった。

Aster Crownのみんなが、一緒に立ってくれている。

怖い。

でも、逃げたくはない。

Aster Crownの副将として、負けたくない。

ロッキーは静かに呼吸を整えた。



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