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Aster Crown 〜100勝するのが面倒で100人乱戦に出たら優勝して、最強の仲間ができました〜  作者: 辛子高菜


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第五十九話 ギルドバトル




Nachtmusikが仕掛けてきたのは、その日の夜だった。


「……なんだこれ」


ラウンジで端末を見ていたソロの声が、急に低くなった。


「どうしたの?」


ビアンカが尋ねるより早くソロは端末の画面を中央のモニターへ飛ばした。

映ったのは、xNestの投稿。

投稿者は、Nachtmusik / Dillbert。

添えられていたのは、短い動画だった。


 高台の風景。

 壊れた tiny ride model G。

 その前で呆然と立ち尽くすロッキー。

 腕の中で震えるグレイ。


 そして最後に、ロッキーのかすれた声。


『……バイク、壊れちゃった』


ロッキーの顔から血の気が引いた。

見たくなかった。

あの時の自分の顔も、声も、世界中に晒されたくなかった。

けれど、投稿はそれだけでは終わらない。



ーーーーーーーーーー


人気者?

弱き者の間違いだろ。


Aster Crownへ


ギルドバトル、5試合。

大将はバイオレット指名。

ロッキーをメンバーに入れること。

試合は全世界リアルタイム配信。


Nachtmusikが勝てば、バイオレットはNachtmusikへ加入。


Nachtmusikが負ければ、Official20の地位を返上する。


返事を待つ。



ーーーーーーーーーー




しばらく、誰も声を出さなかった。

最初に口を開いたのは、ロッキーだった。


「……この、Official20ってなんですか?」


「まだ説明してなかったわね」


ターニャが答える。


「Official20はギルド加盟国と協会が認定した20の代表ギルドよ。実績、国際任務への貢献、社会的影響力、素行、協会への協力度…そういうものを総合的に見て選ばれるの」


ロッキーは黙って聞いていた。


「選ばれた後も4年に1度の評議会で見直される。でも、ほとんどの場合入れ替わることは稀よ。ギルドにとっては大変栄誉があるものなの。たくさんあるギルドの中から選ばれる20の座席、簡単に入れるものでもないし、簡単に降りるものでもないわ」


「その座を…賭けるって言ってるの?」


「ええ」


Jr.が低く吐き捨てる。


「端的に言えば舐めてんだよ。負けると思ってねぇ」


Official20の地位を賭ける。

それは、Nachtmusikが本気でAster Crownを潰しに来たということだった。

だが、そのやり方があまりにも下劣だった。


「……最低ね」


 ビアンカが吐き捨てた。


「趣味悪すぎるだろ」


ソロの声も、怒りでざらついている。

ポポは、いつもの笑みを消していた。


「ロッキーのあの顔、晒すなんてネ」


低い声だった。


「だいぶ嫌いネ」


ロッキーはモニターを見つめたまま、指先だけを震わせていた。

その間にも、投稿は広がっていく。



『Nachtmusikやば』


『Aster Crownに喧嘩売った』


『ロッキー指名されてる』


『動画晒すのは無理』


『最低』


『でもロッキーって人気先行じゃない?』


『実力分かるならいいじゃん』


『弱いなら消えるだけ』



「…やめて」


ロッキーが小さく呟いた。

バイオレットが即座にモニターを切る。


「見なくていい」


ロッキーは目を逸さなかった。

ただ、膝の上のグレイを抱きしめる。


「……無視でいいよ」


やっと絞り出した声だった。


「こんなの、乗らなくていい。相手強いんでしょ?その、Official20ってのなら本当に強いし…俺のこと馬鹿にしてるだけなら、放っとけば…」


「放っとく?」


Jr.の声が落ちた。

ラウンジの空気が張る。


「お前、今の見てそれ言ってんのか」


「…だって」


ロッキーは俯いた。


「これ以上、みんなを巻き込みたくない」


「もう巻き込まれてんだよ」


Jr.は即答した。


「俺の作ったバイクを壊して、お前の顔を晒して、Aster Crownに喧嘩売ってきたんだぞ」


Jr.の目が、テーブルに置かれたwildfoxの破片へ向く。


「俺の可愛い子をバラバラにされて、黙ってられるわけねぇだろ」


ビアンカが腕を組んだ。


「Jr.だけじゃないわ。ここまで馬鹿にされて、黙ってる理由がないもの」


ポポも頷く。


「ロッキーを指名して、晒して、世界中に流してる。ここで引いたら、向こうの思うつぼネ」


「受けようぜ」


ソロはもう戦う顔だった。


「ここで受けねえ方がムカつく」


ターニャはロッキーの隣に座り、やわらかく声をかける。


「ロッキー…怖いなら、怖いって言っていいのよ」


ロッキーの目が揺れる。


「でも、受けるかどうかはあなたが弱いからで決めることじゃない」


「…じゃあ、何で決めるの」


その問いに、バイオレットが答えた。


「誇り」


短く、静かな声だった。

全員が彼女を見る。


「Nachtmusikは私を引っ張るためにロッキーを使った。ロッキーを晒してAster Crownを踏んだ」


バイオレットは、閉じられたモニターを見つめる。


「ここで黙れば、“弱き者”という言葉を認めたのと同じになる」


ロッキーは唇を噛んだ。


 怖い。

 悔しい。

 でも、踏まれたまま笑う方がもっと嫌だった。


「…俺は、弱いよ」


ロッキーは小さく言う。


「人気だけって言われたらすぐ違うって言い返せない。Nachtmusikみたいな本当に強い人たちと比べたら…」


「だから何よ」


ビアンカが遮った。


「弱いなら、馬鹿にされていいの?」


ポポも低く言う。


「強い弱いの前に、やっていいことと悪いことがあるヨ」


Jr.がバイオレットを見る。


「バイオレット。やるなら今だ」


バイオレットはロッキーを見た。


「私は受ける」


「……」


「でも、あなたが本当に無理なら、別の形にする」


ロッキーの胸の中はぐちゃぐちゃだった。


 怖い。

 逃げたい。

 でも、逃げたらずっとあの動画の中の自分のままだ。


「…怖い」


バイオレットは頷いた。


「うん」


「でも」


ロッキーは顔を上げる。


「このまま“弱き者”って言われたままなのも、嫌だ」


その一言で、ラウンジの空気が変わった。


 ソロが拳を握る。

 ビアンカが小さく息を吐く。

 ポポがにっと笑う。


「…俺もAster Crownの一員だ、逃げたくない」


ロッキーの声は震えていた。

でも、確かに前を向いていた。


「分かった」


バイオレットは端末を開く。

数秒だけ考え、短く打った。




ーーーーーーーーーー



受ける。

条件はそのままでいい。

逃げるつもりはない。


Aster Crown




ーーーーーーーーーー



送信。

それは一瞬で世界中へ広がった。



『受けた!!!!』


『Aster Crown受諾!!』


『きたあああ』


『バイオレット本気だ』


『ギルドバトル確定』


『やばすぎる』


『ロッキーも出るのか』


『Official20を賭けた戦いになる』



ロッキーはまだ青い顔をしていた。

けれど、背筋は伸びていた。

ターニャがそっと肩に触れる。


「ここからは、ひとりじゃないわよ」


ロッキーは小さく頷いた。


「……うん」


Jr.は拳を握りしめる。


「バイクも作り直す。試合も勝つ」


ソロが笑った。


「分かりやすくていいな」


ポポも頷く。


「Aster Crown、反撃開始ネ」


バイオレットは端末を閉じた。

ロッキーを晒した動画。

最低な挑発。

Official20を賭けたギルドバトル。

そのすべてを今度はこちらから真正面で返す。

Aster Crownは、もう引かない。





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