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Aster Crown 〜100勝するのが面倒で100人乱戦に出たら優勝して、最強の仲間ができました〜  作者: 辛子高菜


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第五十八話 友達




翌日の昼過ぎ


Aster Crownのギルドハウスにダンがふらりとやって来た。


「ロッキーいる?」


いつもの軽い調子だった。

赤いバンダナ。少し眠そうな目。

けれど、扉をくぐった瞬間ダンは足を止めた。

空気が重い。

いつもの賑やかさがない。

ラウンジにいくと、ロッキーはソファでグレイを抱えていた。

グレイはロッキーの膝の上で丸くなっている。いつもなら来客に興味を示すのに、今日は顔を上げるだけで動かない。

テーブルの上には、青い外装の破片が置かれていた。

そこに入った、割れたwildfoxのロゴ。

ダンの表情が変わる。


「…何があった?」


ロッキーが顔を上げる。


「あ、ダン」


笑おうとした。

けれど、うまく笑えなかった。


「どうしたの?近くに依頼?」


「いや」


ダンはロッキーの前まで歩いてくる。


「今度、ロッキーとグレイとツーリングでも行かないかと思って」


言いながら、ダンの視線はテーブルの破片へ向いていた。


「…行ける状態じゃなさそうだけど」


ロッキーはグレイを撫でる。


「うん。tiny ride壊されちゃって」


「壊された?」


ダンの声が一段低くなる。

ラウンジの奥にいたJr.が腕を組んだまま言った。


「Nachtmusikだ、あいつらに襲われた」


ダンの目が細くなる。


「…あいつらか」


その名前を知っている顔だった。

ロッキーはぽつぽつと説明した。


バイオレットと遠征に行ったこと。

帰ろうとして、グレイをサイドカーに固定しようとしていたこと。

そこへNachtmusikが現れたこと。

バイオレットを挑発して、最後にtiny rideを狙って攻撃したこと。


「グレイは無事だったんだけど」


ロッキーはグレイを抱きしめる。


「怖かったみたいで…」


グレイが小さく鳴いた。


「くぅ…」


ダンはしばらく黙っていた。

いつもの軽い笑みは消えていた。


「グレイを乗せてるところを狙ったの?」


「…うん」


「ロッキーごと?」


「たぶん、バイクを壊すつもりだったんだと思う」


ダンは短く息を吐いた。


「最悪だな」


ロッキーは少し驚いてダンを見る。

ダンはテーブルの破片を見ていた。


「相手にしたいなら正面から来ればいい。挑発したいなら自分でやればいい。関係ないやつの大事なものを壊すのは違う」


Jr.が鼻を鳴らす。


「分かってんじゃねぇか」


「分かるよ」


ダンは静かに答えた。


「俺も嫌いだからな、そういうの」


ポポが腕を組む。


「Nachtmusik、やり方が悪いネ」


「前からそういうところがある」


ダンは言った。


「自分たちが強いって分かってるから相手が嫌がるところをわざと突く。勝負じゃなくて支配したがる」


バイオレットが奥から口を開いた。


「知ってるの?」


「何度か見たことある。うちとは直接揉めたことはないけど」


ダンはバイオレットを見る。


「でも今回は俺も無関係って顔しにくいな」


「…なぜ」


「ロッキーは友達だから」


さらっと言った。

ロッキーが目を丸くする。


「友達?」


「違う?」


「違わない」


ロッキーは少しだけ笑った。


「嬉しい」


ダンはその顔を見てほんの少し表情を緩める。


「じゃあ、友達のツーリング用バイク壊されたんだから、俺も普通に腹立つ」


Jr.がテーブルの破片を指で叩いた。


「バイクはまた作る」


「だろうね」


「前よりいいやつにする」


「流石だね」


ダンは少し笑う。

ロッキーはグレイの背中を撫でながら、少しだけ申し訳なさそうに言った。


「せっかく誘ってくれたのにごめんね。まだ行けそうにないや」


「いいよ」


ダンは即答する。


「直ったら行こう」


「え?」


「延期。中止じゃない」


ロッキーの目が揺れる。


「…うん」


「次はグレイも怖がらない場所にしよう。広くて、静かで、人が来ないところ」


「あるの?」


「あるよ。俺のおすすめ」


ロッキーは少しだけ笑った。


「じゃあ、直ったらそこ行きたい」


「決まり」


ダンは立ち上がると、グレイの前にしゃがんだ。


「グレイ」


グレイが少しだけ顔を上げる。


「怖かったな」


ダンは手を出さない。

無理に触ろうとせず、ただ視線の高さを合わせた。


「次は楽しいところ行こうな」


グレイはしばらくダンを見て、それから小さく尻尾を動かした。

ロッキーの顔が少し明るくなる。


「うんだって」


「よかった」


ダンは立ち上がり、Jr.を見る。


「手伝えることある?」


「ねぇよ」


「即答」


「これは俺が作る」


「だろうね」


ダンは肩をすくめる。


「じゃあ、Nachtmusikの情報なら少し集めておく」


ラウンジの空気が少し変わった。

バイオレットが目を細める。


「なぜそこまで?」


「友達だからって言ったじゃん」


ダンは軽く笑った。


「あと、そういう相手が調子に乗るの嫌いなんだ」


ロッキーはグレイを抱きしめたまま、小さく頭を下げた。


「ありがとう、ダン」


「まだ何もしてないよ」


「でも、ありがとう」


ダンは困ったように笑った。


「ロッキーってそういうとこあるよね」


Jr.がぼそっと言う。


「お人好し病だ」


「それ、感染する?」


「するかもな」


ダンはラウンジを見回した。


 怒っている者。

 心配している者。

 黙って次を考えている者。


そして、泣き疲れた顔でグレイを抱えるロッキー。


「…あいつら、相手間違えたかもね」


ダンは小さく呟いた。


「Aster Crownは、こういう時に黙るギルドじゃなさそうだ」


Jr.が笑った。


「当たり前だろ、分からせてやる」




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