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Aster Crown 〜100勝するのが面倒で100人乱戦に出たら優勝して、最強の仲間ができました〜  作者: 辛子高菜


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第五十一話 バイク⑥



ガレージの奥で、青白い光が低く揺れていた。

組み上がったばかりの中型反重力バイク。

車体は深い青を基調に、差し色としてシルバーが入っている。

右側面にはサイドカー。

透明な風防と、柔らかいクッション、落下防止の固定具までついていた。


「…すごい」


ロッキーは目を輝かせた。


「本当に形になってる」


「まだまだ完成じゃねぇけどな」


Jr.は端末を見ながら言った。


「ここからが本番だ」


「ここから?」


「バランス調整、ここが1番シビアだ。乗れ」


「うん」


「姿勢制御はまだついてないからな、エンジン始動したら自分でバランス取れよ」


「はい!」


ロッキーは勢いよく返事をして、そろそろとバイクに跨る。

Jr.に指示されそっとエンジンを始動する

初めての感覚だった。

車輪はない。

車体はわずかに浮いていて、少し体重をかけるだけでふわりと揺れる。


「うわっ」


「背筋伸ばしすぎだ。力抜け」


「力抜いたら落ちそう」


「落ちねぇように作ってんだよ」


「でも怖い」


「怖がるな。固まる方が危ねぇ」


ロッキーはなんとかバランスを取ろうとしているのか車体が小刻みに揺れる。

Jr.は横に立ち、ロッキーの肩を軽く叩く。


「肩の力抜け。腕で支えようとするな。腰で乗れ」


「腰…」


「山歩きと一緒だ。足だけで踏ん張るな」


「あ、それなら分かるかも」


ロッキーは少し姿勢を変えた。

車体の揺れが、わずかに落ち着く。

Jr.は端末に数値を打ち込む。


「…悪くねぇ」


「ほんと?」


「調子乗るな。まだ3割だ」


「厳しい」


その横で、グレイはサイドカーに座っていた。

普段はガレージのクッションから先に入ってはいけないと躾けられている。

だから今日は「ここに座っていい」と言われたことが嬉しいらしい。

揺れるサイドカーの中でしっぽがずっとぱたぱた揺れていた。


「グレイ、嬉しい?」


「わふっ」


「よかったねぇ」


「よそ見すんな」


「はい」


Jr.はサイドカー側に回り、グレイの座る位置を確認する。


「こいつが成長した時のことも見越して、バランスを計算する」


「成長した時?」


「今の体重だけで合わせると半年後に駄目になる。サイドカー側が重くなりすぎりゃ旋回に癖が出る」


「そんな先まで考えるんだ」


「当たり前だ」


Jr.はちらりとロッキーを見る。


「サイドカー付きのバイクってのは本来はサイドカーを外しても操縦できるようにしてあるんだ」


「これも外せるの?」


「一応な」


「へぇ…」


「でも、お前はそうしねぇだろ」


ロッキーは即答した。


「しない」


「だろうな」


Jr.は鼻で笑い、端末にまた何か入力した。


「だから、サイドカー付きの状態を基本にする。グレイ込みで一台だ」


その言葉に、ロッキーは少しだけ黙った。

それから、嬉しそうに笑う。


「…うん、グレイ込みで1台」


「わふ!」


「ありがとう、Jr.」


Jr.は照れ隠しのように工具を取った。


「次、重心見る。右に傾けろ」


「こう?」


「傾けすぎだバカ!」


「ごめん!」




ーーーーーーーーーー




それから数日。

Jr.は朝から晩までガレージにこもった。


浮遊機構の出力調整。

シートの角度。

グレイ用の固定具。

シールドの高さ。

ハンドルの重さ。

荷物ラックの位置。

緊急停止装置。


組み上げては外し、走らせては戻し、また直す。


その根の詰め方に、ロッキーは驚いていた。


「すごい調整するね」


ガレージの入口でロッキーがぽつりと言った。


「こだわってる」


Jr.は顔も上げずに答える。


「こだわるに決まってんだろ」


「うん」


「wildfoxにとって初のオリジナルバイクなんだからよ」


工具の音が止まる。

Jr.は少しだけ真剣な声になった。


「金も貰ってる。安い金額じゃねぇ」


「……」


「何より、やるからにはコケるわけにはいかねぇ」


ロッキーは何も言えなかった。

Jr.はまた作業へ戻る。

その背中は小さい。

まだ少年のようにも見える。

けれど、そこにある集中力と責任感は紛れもなく職人のものだった。




ーーーーーーーーーー




ラウンジからガレージを覗き込みながらポポが笑った。


「あんなに真剣なJr.久しぶりに見たネ」


ロッキーは心配そうに言う。


「大丈夫かな」


「Jr.は職人だからネ。こだわりが強いんだヨ」


「でも、朝からずっといるし……」


「今回はwildfoxのプロジェクトでもあるから、経営者としても失敗するわけにはいかないんだヨ」


「プレッシャー、すごそう」


「あるだろうネ」


ポポは穏やかに言った。


「でも、楽しそうにもしてるヨ」


ロッキーはガレージの中を見る。


Jr.は眉間に皺を寄せながら、何度も設計図を見直している。

表情は険しい。

けれど、たしかに手は迷っていなかった。


「好きにやらせてあげてヨ」


ポポが言う。


「ただ、倒れそうになったら引っ張り出すネ」


「うん」


ロッキーは少し考えて台所へと向かった。




ーーーーーーーーーー




ーーその日の夕方。


Jr.が工具を持ったまま端末を睨んでいると、横から小さな包みが差し出された。


「なんだこれ」


「食べやすいやつ」


ロッキーが言った。


「片手で食べられるようにした。中に肉と野菜入ってる」


「……飯か」


「朝から食べてないでしょ」


「食った」


「何を?」


「サンドイッチ」


「それ昨日の朝ごはんだよ」


Jr.は舌打ちした。


「うるせぇな」


そう言いながらも、包みを受け取る。


一口齧ると、少しだけ目が動いた。


「…悪くねぇ」


「よかった」


「毎日作んなよ」


「倒れたら困るから作るよ」


「過保護か」


「Jr.がちゃんと食べないから」


「俺はガキじゃねぇ」


「うん。でも食べないと倒れる」


Jr.は何か言い返そうとして、やめた。

代わりにもう一口齧る。


「…ありがとよ」




ーーーーーーーーーー




ある日の夜。


ロッキーはラウンジのソファで、グレイを抱きしめながらもふもふしていた。


「完成、楽しみだね」


「わふ」


「グレイと遠出できるんだよ。海も行けるし、花畑も行けるし、山も…山は歩いた方がいいかな」


グレイはロッキーの腕の中で気持ちよさそうに目を細めている。

ロッキーはふと窓の外を見た。


「ヴィオみたいに乗り回したいな。かっこよく」


近くにいたバイオレットが、静かに顔を上げた。


「…乗り回したいの?」


「うん。まだ全然乗れないけど」


ロッキーは少し照れたように笑う。


「バイオレットみたいに、景色のいいところを走れたら楽しそうだなって」


バイオレットは少し黙った。


それから、ぽつりと言う。


「完成したら」


「うん?」


「一緒に出かける?」


ロッキーはぱっと顔を上げた。


「え、いいの?」


「えぇ」


「ほんとに?」


「嘘は言わない」


ロッキーの顔が一気に明るくなる。


「行きたい!」


グレイもつられてしっぽを振る。


「わふ!」


「グレイも行きたいって」


「そう」


バイオレットは少しだけ口元を緩めた。

ロッキーは嬉しそうに言う。


「約束だよ」


バイオレットは一瞬だけ目を瞬かせる。

それから、静かに頷いた。


「…えぇ、約束」




その様子を少し離れたところで、ターニャとビアンカが見ていた。

ターニャはにこにこと口元を押さえている。

ビアンカも目を細めた。


「いいわねぇ」


「いいわ…」


「撮る?」


「今はやめておくわ」


ターニャは小声で言った。


「これは2人だけの方がいいもの」


ソファではロッキーがグレイに嬉しそうに話しかけていた。


「グレイ、ヴィオと一緒にお出かけだって」


「わふっ」


バイオレットは何も言わず視線をそらす。

けれどその横顔は、少しだけ柔らかかった。




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