第五十話 バイク⑤
そこからは、Jr.の番だった。
ロッキーが依頼をはしごしてお金を貯めている間もJr.はただ待っていたわけではない。
設計して、組み立てて、試運転して、また分解する。
重量を測り、出力を調整し、シートの角度を変え、グレイ用の固定具を作り直す。
何度も。
何度も。
ガレージには金属の匂いと工具の音が絶えなかった。
「…ここ、まだ重いな」
Jr.は設計図に赤い線を引く。
「軽くすりゃいいってもんでもねぇ。ロッキーが乗るなら、変な動きにも耐えねぇと」
横のクッションではグレイが大人しく座っていた。
「わふ」
「お前の席も作り直しだ。時間はかかるが文句言うなよ」
「わふっ」
「返事だけはいいな。飼い主に似たか」
そう言いながらJr.の手は止まらない。
ロッキーから金を受け取った以上もうこれは試作品ではない。
正式な依頼品だ。
軽い金額ではなかった。
ロッキーが依頼を重ね、少しずつ貯めた金。
遊び半分ではない。
グレイと一緒に遠出したいという、あいつなりの願い。
そして何より、自分を信じて払った金だ。
いつも生意気で態度がでかく口も悪いJr.だったが、技術者としてひとつだけ譲らないものがある。
人からの信頼を損なわない。
それが、Jr.の信念だった。
「…任せとけって言ったからな」
小さく呟きJr.は工具を握り直した。
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一方のロッキーも、支払いを終えたからといって急に休んだわけではなかった。
依頼の頻度こそ以前より少し減ったが、相変わらずよく働いていた。
「貯金ほとんどなくなっちゃったし…維持費も稼がなきゃ」
そう言って今日も採取依頼の準備をしている。
ターニャが呆れたように笑った。
「本当に働き者ね」
「だって買って終わりじゃないでしょ。整備とか、燃料とか、部品とか…」
Jr.が遠くから言う。
「分かってんじゃねぇか」
ロッキーはぱっと振り返る。
「褒められた」
「褒めてねぇよ」
Jr.は鼻で笑い、またガレージへ戻っていく。
ターニャはその背中を見送りながら、端末を構えた。
#本日のロッキー
支払い完了。
でも維持費のために今日も働く。
#本日のJr
本気。
投稿された写真には、工具を手に真剣な顔で設計図を見つめるJr.の姿が写っていた。
コメント欄にはすぐに反応がつく。
『Jr.の本気顔かっこいい』
『ロッキー働き者すぎる』
『Tiny Ride楽しみ』
『wildfox案件、期待しかない』
『グレイの席あるよね?』
『職人と依頼主って感じで良い』
ガレージの奥で、青白い浮遊機構が低く唸る。
まだ完成ではない。
けれど、ロッキーとグレイのための1台は確実に形になりつつあった。




