第四十八話 バイク③
ターニャの #本日のロッキー の匂わせは、少しずつ界隈をざわつかせていた。
『Jr.と何作ってるの?』
『グレイ用?』
『wildfox関係ある?』
『ロッキーが依頼はしごしてるのなに?』
『新装備?』
『グレイが乗る何かとか?』
その影響はwildfox公式にも出ていた。
フォロワーが増えている。
Jr.は端末の数字を見てにやりと笑った。
「…そろそろ乗るか」
数時間後。
wildfox公式アカウントが1枚の写真を投稿した。
映っているのは作業台の上に置かれた設計図の端。
下部に光る小型浮遊機構。
透明なシールドのような試作品。
そして、サイドにシート。
全体は見えない。
けれど、分かる人には分かる。
new production
coming soon…
#wildfox
#tinyride
#本日のロッキー
投稿はすぐに拡散された。
『公式が乗ってきた!!』
『tinyrideって何!?』
『ロッキー関係確定じゃん』
『グレイの席ある?』
『小さいシート見えたんだが』
『これ絶対グレイ用だろ』
『wildfox始まったな』
『Jr.商売うまい』
Jr.は満足そうに端末を見る。
「よし」
ーーーーーーーーーー
その夜、ロッキーはグレイと一緒に配信を始めた。
「えっと、こんばんは。ロッキーです」
「わふ」
「グレイです」
コメント欄はすでに大騒ぎだった。
『wildfox見た!?』
『tinyrideって何?』
『ロッキー関係あるよね?』
『グレイ乗る?』
『教えて!』
『その顔は知ってる顔』
ロッキーは少し困ったように笑う。
「えっと…まだ全部は言えないんですけど」
『言えないやつだ!』
『確定演出』
『面白いこと?』
『グレイ関係?』
ロッキーはグレイの頭を撫でる。
「面白いこと、やってます」
グレイが「わふ」と鳴く。
「グレイも楽しみにしてます」
コメント欄が爆発する。
『グレイ関係確定』
『やっぱり乗り物!?』
『tinyride!!』
『楽しみすぎる』
『面白そうなこと代あげる』
その瞬間、投げ銭が飛んだ。
500x enric『面白そうなこと代』
1,000x lenalee418『グレイの新装備代』
300x mar_in『楽しみにしてます』
2,000x dechi『完成したら見せてね』
「ありがとうございます。ちゃんと完成したら見せます」
そう言ってロッキーが頭を下げた、その時。
画面に大きな表示が出た。
30,000x unknown『楽しみにしてる』
コメント欄が止まり、すぐに爆発した。
『unknownきた!!』
『また高額きた』
『楽しみにしてる、だけで3万!?』
『誰だよunknown』
『絶対ロッキー推しの金持ち』
『グレイのスポンサー?』
ロッキーは固まった。
「さんまん…」
グレイが隣で首を傾げる。
「わふ?」
「えっと…unknownさん、ありがとうございます。でも、お金は大事なので無理しないでください」
『無理しないでくださいw』
『高額投げた相手にまず心配』
『ロッキーらしい』
『unknown絶対にこにこしてそう』
『お金大事だからね』
『もはや分かってやってるだろ』
Aster Crownのラウンジ。
少し離れたソファで、バイオレットが何食わぬ顔で端末を伏せた。
Jr.がじろっと見る。
「おい」
「何」
「今のunknown、またお前だろ」
「違うわ」
「嘘つけ」
「証拠は?」
Jr.は黙った。
ポポがにやにやする。
「ヴィオ、ロッキーのバイク楽しみにしてるネ」
「…してないわけじゃない」
ビアンカが笑う。
「素直じゃないわね」
バイオレットは静かに視線を逸らした。
配信画面の中ではロッキーがまだ困った顔で頭を下げている。
「完成したらちゃんと報告します。グレイと一緒に」
「わふ!」
その一言で、またコメント欄が流れていく。
『待ってる』
『グレイ試乗会まだ?』
『wildfoxありがとう』
『#tinyride 楽しみ』
Jr.は端末を見ながら、口角を上げた。
「…悪くねぇな」
まだ形になりきっていない1台の小さな乗り物は、完成前からすでに人々の期待と注目を集めていた。




