第四十七話 バイク②
翌日からロッキーはまた忙しくなった。
朝から依頼を受け、昼には別の依頼へ向かい、夕方には採取品を抱えて協会に戻る。
その翌日も、そのまた翌日も。
「ロッキー最近ずっと走り回ってない?」
ビアンカが窓の外を眺めながら言った。
「また欲しいものでもできたのかしら」
Jr.は端末をいじりながら、何でもないように答える。
「バイクを買うんだとよ」
「バイク!?」
ビアンカが振り返る。
「ロッキーが?」
「グレイと乗れるやつが欲しいんだと」
「…あぁ」
ビアンカは一瞬で納得した。
「それなら頑張るわね」
庭ではグレイが芝生の上で伏せている。
ロッキーが忙しくて構ってくれない分ポポが遊びおやつをあげていた。
ターニャはその様子もしっかり撮っていた。
#本日のロッキー
依頼をはしごしてる。
何か企んでる?
#本日のグレイ
ご主人様が忙しそうなので待機。
ポポにおやつをもらう。
「わふ」
「内緒ネ」
「わふっ」
「全然内緒になってないわよ」
ターニャが笑う。
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一方、Jr.もJr.で忙しかった。
マシンレース用の自分の機体。
依頼された整備。
改造。
調整。
そういうものは山ほどやってきた。
けれど、いちから自分で設計し特定の相手のためにーー販売用に1台を組み上げるのは初めてだった。
しかも、乗るのはロッキーとグレイだ。
人間一人と小型ウルフ一頭。
条件が面倒くさい。
「グレイの座席もうちょっと広くできない?」
「広くすると重くなる」
「グレイが丸くなれるくらい」
「丸くなるな、走行中だぞ」
「じゃあ座れるくらい」
「それはいける」
ロッキーは設計図を覗き込みながら、真剣に考える。
「あと、おやつ入れ」
「いらねぇ」
「いるよ、遠出するんだから」
「ポーチでもつけろ」
「でもすぐ取り出せるところに…」
「快適と便利は違うからな」
Jr.は工具を置き、ロッキーを見る。
「何でも積めば便利にはなる、だが重くなる。重くなれば遅くなるし、制御も鈍る。お前が扱いやすいことが1番大事だ」
「なるほど…」
ロッキーは素直に頷いた。
「じゃあ、おやつ入れはいい」
「おぅ」
グレイは横のクッションで尻尾を振っている。
「グレイ用の風よけ、もう少し高くできる?」
「高くすると空気抵抗が増える」
「でも目に風入ったらかわいそう」
「ゴーグルつけろ」
「グレイ、ゴーグル似合うかな」
「似合うだろ」
「絶対かわいい」
「そこじゃねぇ」
そう言いながら、Jr.は端末に「ビアンカ、グレイ用ゴーグル+」とメモを追加した。
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ターニャはガレージの入口からその様子を撮っていた。
ロッキーが設計図を覗き込み、Jr.が口では文句を言いながらも細かく修正している。
グレイは専用クッションでお利口に待機。
ターニャは笑って投稿する。
#本日のロッキー
Jr.とお話し中。
何か作るらしい。
『何作ってるの!?』
『Jr.とロッキー珍しい』
『wildfox案件?』
『ご主人様のために待機するグレイ偉い』
Jr.がそれを見て眉を寄せる。
「おい、匂わせるな」
「匂わせてるだけよ」
「それが嫌なんだよ」
ロッキーはきょとんとする。
「匂わせ?」
「知らなくていい」
Jr.は設計図に視線を戻す。
軽く。
丈夫に。
扱いやすく。
グレイが怖がらないように。
ロッキーが景色に見とれても、すぐに姿勢を戻せるように。
「…ここ、もう少し低くするか」
「なんで?」
「お前が足つき悪いと転ぶ」
「転ばないよ」
「転ぶ」
「…気をつける」
Jr.は鼻で笑った。
「気をつける前提の設計なんざ信用できねぇ、転ぶ前提で作る」
ロッキーは少し驚いてから、嬉しそうに笑った。
「ありがとう、Jr.」
「礼は完成してから言え」
「うん」
ガレージには工具の音と端末を叩く音とグレイの小さな「わふ」が響いていた。
まだ形にもなっていない。
けれど、ロッキーとグレイのための1台は少しずつ現実になろうとしていた。




