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Aster Crown 〜100勝するのが面倒で100人乱戦に出たら優勝して、最強の仲間ができました〜  作者: 辛子高菜


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第四十六話 バイク



ガレージには、金属の匂いと低く唸るような魔導エンジンの音が満ちていた。

Jr.は床に散らばった工具の中に座り込み、反重力バイクの外装を外して中を覗き込んでいる。

タイヤはない。

代わりに、車体の下部には青白く光る浮遊機構が組み込まれていた。


「すごいなぁ…」


ロッキーは少し離れたところで、目を輝かせながらそれを見ていた。


「液体燃料の代わりに組み込まれた魔導石が使用者の魔力と反応して反重力エネルギーが発生、その力で車体が浮くんだよね」


「あぁ、よく覚えたな」


「へへ」


「預かり品だから触るなよ」


「触らないよ」


そう言いながら、ロッキーはそっと手を引っ込める。

じろりとJr.に睨まれ、視線を逸らす。

ふんふんと素知らぬふりをして辺りを見渡す。


ガレージの入り口近くにはグレイ専用のクッションが置かれていた。

グレイはそこに大人しくちょこんと座っている。

以前、興味津々で工具の方へ近づこうとしてJr.に「危ねぇから入るな、お前の居場所はここだ」と言われたのだ。

今ではすっかり覚えてJr.の作業場との境界線の手前でお利口にしている。


「グレイ、偉いね」


「わふ」


「入っちゃだめって分かってるんだもんね」


「わふっ」


Jr.は工具を回しながらちらっとグレイを見る。


「そいつはお前より聞き分けいいからな」


「俺もいいよ」


「どの口が言うんだ」


ロッキーは苦笑しながら、手を後ろに組み整備中のバイクを覗き込む。


「バイオレットのバイクも、Jr.が作ったの?」


「あれは違う、整備はしてるけどな」


「そうなんだ」


「あいつが俺と会う前から乗ってるやつだ、古いのに作りがいい、多少癖はあるが。まっ、乗りこなせるやつは少ねぇだろうな」


「へぇ…」


ロッキーの目がまたきらきらする。


「俺も乗りたいなぁ」


Jr.の手が止まる。


「お前が?」


「うん!グレイと一緒に乗って遠出とかできるようになったら楽しそう」


ロッキーはグレイを見る。


「ね、グレイ。景色いいところ行けるよ」


「わふ!」


Jr.は鼻で笑った。


「お前はミニバイクがお似合いだろ」


「俺だって乗れるよ!デカくてかっこいいやつ」


「いーや、俺が言うなら間違いねぇ」


「なんでそんな自信満々なの」


「本職だぞ、俺は」


ロッキーは少ししょんぼりした。


「じゃあミニバイク乗ろうかな…遠征できるし」


Jr.は手に持っていたスパナでグレイを指差した。


「グレイ乗れねぇだろ。置いてきぼりか」


その言葉にロッキーが固まる。

グレイも何言ってるのか分かったのか「くぅん」と鳴いた。


「置いていかないよ!」


「じゃあ無理だな」


「…袋に入れて背負うとか」


「こけたら危ねぇだろ。それに袋の中での長距離の移動はグレイにとってキツイ」


「たしかに」


色々考えるが、どれも現実的ではなくて肩を落とす。


「…どこかにないかな」


ロッキーは真剣な顔で呟く。


「グレイが乗れて、大きすぎないバイク」


Jr.は工具を置いた。

一瞬、ガレージの中が静かになる。

ロッキーはまだ考え込んでいる。


「グレイ用の席があって、風が当たりすぎないようになってて…でも重すぎなくて、俺でも扱えて…」


「そんな都合のいいバイク…」


「あるわけねぇだろ」そう言いいかけて動きが止まる。



ロッキーとグレイが乗る。

配信に映る。

xNestに投稿される。

「どこのバイク?」と騒がれる。

wildfox製だと分かる。

発注が増える。

売れる。

儲かる。



Jr.は数秒でそこまで計算した。



「…なくはねぇな」


ロッキーが顔を上げる。


「え?」


「作れないことはない」


「本当!?」


「まだ作るとは言ってねぇ」


「でも作れるんだ!」


ロッキーの顔がぱっと明るくなる。

グレイもクッションの上で尻尾を振った。


「わふ!」


Jr.は腕を組みにやりと笑う。


「中型反重力バイク、サイドに小型獣用のシート、視界確保兼保護用の透明シールド、衝撃吸収、落下防止、風圧軽減、本体のサイドに荷物用ラックもつける」


「よく分かんないけどすごそう」


「扱いやすいように車体は軽量、でもフレームは頑丈にする。お前が山道に突っ込んでも壊れにくいようにな」


「突っ込まないよ」


「突っ込むだろ」


「…気をつける」


Jr.は作業台の方まで歩いて行き、小物を押し除けて紙を引っ張り出す。

そしてブツブツと呟きながら紙に次々と書き込んでいく。

その姿は真剣そのものだ。

ロッキーはしばらく眺めていたが、あることを思い出す。


「あ、でもいくらくらい?」


ロッキーが急に現実的な顔になる。


「バイクって高いでしょ?それに新しく設計するってなるとさらに高くなるんじゃ…」


Jr.はその顔を見て少し笑った。


「同じギルドのよしみで多少安くしてやる」


「多少…」


「お前が乗ったら宣伝になるだろうからな、半額とまではいかないが…材料費+技術料くらいで納めてやる」


「Jr.…」


「まぁ、まだできるとは決まってないけどな」


ロッキーは真剣に端末を出す。


「今の貯金と、依頼を何回か受けて、あと配信の分を足したら…」


「おい、もう買う気か設計もできてねぇんだぞ」


「だって、Jr.が作るんでしょ?できるよ」


「……」


ロッキーはグレイを見る。


「海とか、山とか、花畑とか行けるかもしれない」


グレイが嬉しそうに鳴く。


「わふ!」


Jr.は少しだけ黙った。

それから、ふっと鼻で笑う。


「…まぁ、悪くねぇか」


「え?」


「何でもねぇ」


Jr.は今走り書きした設計図をロッキーに見せる。


そこには、まだラフな形だけの中型反重力バイクが描かれていた。



サイドには透明なシールド付きのグレイ用シート。


本体にはロッキー用の座席。


荷物を積むラック。


軽量フレーム。


下部にある浮遊機構。



ロッキーは息を呑んだ。


「…かっこいい」


「まだ落書きだ」


「でも、かっこいい」


グレイもクッションから身を乗り出す。


「グレイ、これ乗るんだよ」


「わふ!」


「危ないからちゃんと座ってね」


「わふっ」


Jr.は呆れたように笑った。


「まだできてねぇっての」


ロッキーは設計図を見つめたまま、嬉しそうに言った。


「楽しみだね、グレイ」


グレイは尻尾を振る。

Jr.はその2人を横目で見て、少し考えた後に図面にバイクの名前を記入した。



tiny ride model G



グレイのG


Jr.はにやりと笑って、再び工具を手に取った。





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