第四十三話 自業自得
ロッキーとダンの試合はあくまで非公開だった。
けれど、完全に何も知られていなかったわけではない。
Aster Crownの面々がロッキーを鍛えていたことは、ターニャが少しずつxNestに載せていた。
#本日のロッキー
今日はポポに吹っ飛ばされました。
#本日のロッキー
ビアンカに間合いの取り方で怒られています。
#本日のロッキー
目隠しして気配を探る訓練、難しくてソロにしばかれてます。
#本日のロッキー
バイオレット相手に10秒保ちました。成長!
だから界隈では薄々こう言われていた。
『ロッキー、誰かと試合する?』
『非公開戦っぽい』
『Aster Crown総出で鍛えてるの何』
『相手誰だよ』
そして、ダンと試合した日の夕方。
ジャック=ポットが一枚の写真を投稿した。
遠目の写真だった。
試合場の端。
暗い青色のマントを羽織った黒髪の青年。
向かい合う赤いバンダナの青年。
顔ははっきり見えない。
けれど、知っている者には分かる。
《@jack_pot いい試合だった。》
それだけ。
数分後、コメント欄が爆発した。
『待って、赤いバンダナってダンじゃない?』
『Ophiuchusのダン!?』
『非公開で!?』
『ロッキーとダン相互フォローじゃん』
『いつの間に繋がってたの』
『ルーキーマント負けたって噂これか』
『いや、ダン相手に試合成立してるだけでやばい』
『ジャックがいい試合って言ってるぞ」
『これが本当なら良くやったなロッキー」
ロッキーはそれを見て首を傾げた。
「負けたのに褒められてる」
Jr.が横から覗く。
「ダン相手ならそりゃなるだろ」
「でも負けたんですよ?」
「負けても相手が相手なんだよ」
「なるほど…?」
ロッキーは分かったような、分からないような顔をした。
その隣で、ターニャは別の投稿を見ていた。
「…Jr.」
「なんだよ」
「これ」
ターニャが見ていたのはxNestに投稿された一枚の写真。
Aster Crownのラウンジ。
ソファでグレイを抱えて泣き疲れたロッキーの隣にバイオレットが立っている。
バイオレットの顔は見えない。
後ろ姿だけ。
けれど、彼女の手がそっとロッキーの頭に置かれていた。
ロッキーのクセのある黒髪がクシャッとなっている。
投稿文は短い。
《@astercrown 負けたルーキーマントと慰め係。》
その投稿が、異常な速度で伸びていた。
『待って待って待って』
『ヴィオ!?』
『頭ぽんしてる!?』
『ヴィオロキてぇてぇ』
『これは何』
『クールなあのバイオレットが!?』
『負けて慰められてるロッキー可愛すぎ』
『後ろ姿なのに破壊力』
『ヴィオロキ、ある』
『供給ありがとうございます』
Jr.はニヤリと笑った。
「いや〜伸びる伸びる。ギルドのいい宣伝だぜ」
ターニャが目を細める。
「…あなた死ぬわよ」
「大袈裟だろ、顔は映してねぇし」
その瞬間。
背後から、冷たい声がした。
「Jr.」
Jr.の笑いが止まった。
ゆっくりと振り返る。
そこには静かに微笑むバイオレットがいた。
笑っている。
けれど目が笑っていなかった。
「…説明して」
「いや、これはだな」
「説明して」
「待て、落ち着け、ギルドの宣伝効果としてはかなり…」
次の瞬間、Jr.の襟首が掴まれた。
「ターニャ!助けろ!」
ターニャは端末を構えた。
「記録しておくわ」
「助けろって言ってんだよ!」
ポポが遠くで笑う。
「自業自得ネ」
ビアンカも肩をすくめる。
「これは締められて当然」
ロッキーは慌てて立ち上がる。
「あの、俺は大丈夫なので…!」
バイオレットはロッキーを見ると、ほんの少しだけ表情を和らげた。
「あなたは座っていて」
「はい」
そしてJr.の方へ向き直る。
「あなたは来なさい」
「くそっ…投稿消せばいいんだろ!」
「もう遅い」
その日、Jr.はバイオレットにしっかり締められた。
だが投稿は消されなかった。
消したところで、すでに転載が出回っていたからだ。
1時間、訓練場で転がされ土まみれになったJr.が発見されたという。




